第六章
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「・・・晴れて良かったな」
「はい」
「体、疲れてないか?」
「大丈夫です」
さっきまでの焦り具合が嘘のように、和やかな会話が織り成される。いつもの食事時に見せるような土方の穏やかな顔に、今度は紗己の方が照れてしまったようだ。
「あ、あの・・・」
遠慮がちに、俯きながら言葉を続ける。
「その・・・似合ってます、すごく」
「え? ああ、これか」
彼女の目線を辿れば、それは自身が身に纏っている黒紋付羽織袴に向けられていた。土方は照れ臭そうに頬を掻くと、空いた方の手で羽織紐の先をいじりながらぽつり呟く。
「・・・さっきも言ったが、お前もよく似合ってる。あー・・・」
何かを言おうとして、口を開けたままで一瞬固まってしまった。だがどうしても言いたいことがあるようで、土方は一度口を閉じると唇を一文字に引き締めてから、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「・・・その・・・・・・綺麗だよ」
さっきも言いかけて、けれど言えなかった一言。ようやく告げることができ、恥ずかしいながらも満足気な表情を浮かべて土方は紗己にはにかんで見せた。
紗己にとっては、これはとても感動的な出来事だった。まさか土方がそんなことを言ってくれるとは夢にも思っていなかった彼女は、一瞬大きく目を見開き、その後忘れていた瞬きを数回繰り返した。
「土方さん・・・・・・!」
嬉しさのあまり、声が震えている。潤んだ瞳で土方を見つめると、彼女には珍しく、いつもの柔らかな笑みではなく弾けるような花咲く笑顔を見せた。
その意外さを、土方は驚きつつも嬉しく思う。この短い時間で、また二人の距離がグンと近くなった気がするからだ。
その距離がまた近付くのか、感無量といった感じの紗己が、おずおずと口を開く。
「私・・・本当に嬉しいです。こんなに幸せでいいのかな・・・なんだか、夢みたいです」
少し顔を伏せて、一言一言噛み締めるように紡ぎだされた彼女の言葉。それを聞いた土方は、胸の奥からじわじわと広がる熱を喉元でグッと抑え込んだ。
いいんだよ、お前は幸せでいいんだ紗己・・・約束したもんな、必ず幸せにしてやるって。だからこれで、これでいいんだ・・・・・・。
まるで言い聞かせるように、胸中で繰り返す。
昨夜土方は、なかなか寝付けずにいた。自らが苦しさから解放されるために、彼女に懺悔をするべきか――どれだけ考えても、堂々巡りとなってしまう。一晩中悩んだ結果、導き出した答えは否だった。
今更過ぎたことを告白して、それを紗己がどう受け止めるかは、彼女でないと分からない。だが、何も言わずにこのまま二人で、そして生まれてくる子供と共に幸せに生きていく道は、十分に用意されているのだ。
愛しい紗己を、自分は幸せにも不幸にも出来てしまう。ならば選ぶのはただ一つ。他の誰でもない、紗己の幸せだ――。
「紗己・・・」
無意識に彼女の名を呼んでいた。呼ばれた紗己は、穏やかな表情で彼を見つめ直す。
「はい?」
「・・・え、あ、ああ・・・その、昨夜はよく眠れたか?」
何も考えずにいたので、とりあえずと当たり障りのない話題を口にした。すると彼女は、一瞬何かを考えるように眉を寄せてからにっこり微笑んだ。
「いつもよりは短いですけど、ちゃんと眠れましたよ。土方さんは・・・あっ」
話の途中で突然声を上げた紗己に、土方は何事かと彼女の顔を覗き込む。
「どうした、まだどっか苦しいのか?」
「いえ、それは大丈夫です。その・・・名前、おかしいんですよね・・・・・・」
「名前? おかしいって、何がだよ」
「私が『土方さん』って呼んだらおかしいって・・・山崎さんが言ってらしたから・・・」
先程までの様子と打って変わり、少し目を伏せて言った。山崎に言われたことを、彼女なりに気にしていたらしい。
今までずっと役職名で呼び続けてきたのだ。彼女の性格からして、いきなり親しげに呼ぶのは容易なことではないのだろう。
膝の上でキュッと拳を作り、照れよりも困惑が勝っている表情を見せる彼女に、土方は頬を緩めて吐息した。
コイツのこういうところ、気に入ってんだよなァ・・・俺。
ふと思う。こちらがどれだけ深刻になっていても、時に驚くような言葉や態度で、重たい気持ちをなぎ払ってくれる。いつだって予想外に新しい風を運んでくれる彼女のことを、いつの間にか愛していた。
そんな彼女だからこそ、共に生きていきたいと、人生を懸けて幸せにすると決めたのだ。
「はい」
「体、疲れてないか?」
「大丈夫です」
さっきまでの焦り具合が嘘のように、和やかな会話が織り成される。いつもの食事時に見せるような土方の穏やかな顔に、今度は紗己の方が照れてしまったようだ。
「あ、あの・・・」
遠慮がちに、俯きながら言葉を続ける。
「その・・・似合ってます、すごく」
「え? ああ、これか」
彼女の目線を辿れば、それは自身が身に纏っている黒紋付羽織袴に向けられていた。土方は照れ臭そうに頬を掻くと、空いた方の手で羽織紐の先をいじりながらぽつり呟く。
「・・・さっきも言ったが、お前もよく似合ってる。あー・・・」
何かを言おうとして、口を開けたままで一瞬固まってしまった。だがどうしても言いたいことがあるようで、土方は一度口を閉じると唇を一文字に引き締めてから、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「・・・その・・・・・・綺麗だよ」
さっきも言いかけて、けれど言えなかった一言。ようやく告げることができ、恥ずかしいながらも満足気な表情を浮かべて土方は紗己にはにかんで見せた。
紗己にとっては、これはとても感動的な出来事だった。まさか土方がそんなことを言ってくれるとは夢にも思っていなかった彼女は、一瞬大きく目を見開き、その後忘れていた瞬きを数回繰り返した。
「土方さん・・・・・・!」
嬉しさのあまり、声が震えている。潤んだ瞳で土方を見つめると、彼女には珍しく、いつもの柔らかな笑みではなく弾けるような花咲く笑顔を見せた。
その意外さを、土方は驚きつつも嬉しく思う。この短い時間で、また二人の距離がグンと近くなった気がするからだ。
その距離がまた近付くのか、感無量といった感じの紗己が、おずおずと口を開く。
「私・・・本当に嬉しいです。こんなに幸せでいいのかな・・・なんだか、夢みたいです」
少し顔を伏せて、一言一言噛み締めるように紡ぎだされた彼女の言葉。それを聞いた土方は、胸の奥からじわじわと広がる熱を喉元でグッと抑え込んだ。
いいんだよ、お前は幸せでいいんだ紗己・・・約束したもんな、必ず幸せにしてやるって。だからこれで、これでいいんだ・・・・・・。
まるで言い聞かせるように、胸中で繰り返す。
昨夜土方は、なかなか寝付けずにいた。自らが苦しさから解放されるために、彼女に懺悔をするべきか――どれだけ考えても、堂々巡りとなってしまう。一晩中悩んだ結果、導き出した答えは否だった。
今更過ぎたことを告白して、それを紗己がどう受け止めるかは、彼女でないと分からない。だが、何も言わずにこのまま二人で、そして生まれてくる子供と共に幸せに生きていく道は、十分に用意されているのだ。
愛しい紗己を、自分は幸せにも不幸にも出来てしまう。ならば選ぶのはただ一つ。他の誰でもない、紗己の幸せだ――。
「紗己・・・」
無意識に彼女の名を呼んでいた。呼ばれた紗己は、穏やかな表情で彼を見つめ直す。
「はい?」
「・・・え、あ、ああ・・・その、昨夜はよく眠れたか?」
何も考えずにいたので、とりあえずと当たり障りのない話題を口にした。すると彼女は、一瞬何かを考えるように眉を寄せてからにっこり微笑んだ。
「いつもよりは短いですけど、ちゃんと眠れましたよ。土方さんは・・・あっ」
話の途中で突然声を上げた紗己に、土方は何事かと彼女の顔を覗き込む。
「どうした、まだどっか苦しいのか?」
「いえ、それは大丈夫です。その・・・名前、おかしいんですよね・・・・・・」
「名前? おかしいって、何がだよ」
「私が『土方さん』って呼んだらおかしいって・・・山崎さんが言ってらしたから・・・」
先程までの様子と打って変わり、少し目を伏せて言った。山崎に言われたことを、彼女なりに気にしていたらしい。
今までずっと役職名で呼び続けてきたのだ。彼女の性格からして、いきなり親しげに呼ぶのは容易なことではないのだろう。
膝の上でキュッと拳を作り、照れよりも困惑が勝っている表情を見せる彼女に、土方は頬を緩めて吐息した。
コイツのこういうところ、気に入ってんだよなァ・・・俺。
ふと思う。こちらがどれだけ深刻になっていても、時に驚くような言葉や態度で、重たい気持ちをなぎ払ってくれる。いつだって予想外に新しい風を運んでくれる彼女のことを、いつの間にか愛していた。
そんな彼女だからこそ、共に生きていきたいと、人生を懸けて幸せにすると決めたのだ。