第五章
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「え、いや、別に構わねェけど・・・その、なんでだ・・・・・・?」
珍しく、控え目な追求をしてしまう。彼女の自分への気持ちを疑うわけではないが、未だ解決出来ない問題を抱えてるだけに、どうしても不安が付きまとってくる。
そんな土方の弱々しい視線に気付いているかは定かではないが、紗己はやや瞬きの回数を増やして話し出した。
「えっと・・・明日のこと考えると、なかなか寝付けないと思うんです。だから、寝不足で体調崩さないように、早めに床につこうかなって・・・」
一旦言葉を切ると、やや上目遣い気味に土方を見やった。
「副長さんが隣に寝てたら、いろいろと緊張して・・・ますます寝付けなさそうだから・・・・・・」
「っ!」
心臓が跳ね上がり、一瞬呼吸が止まる。
これはいわゆるところ、どストライクというヤツだ。恥ずかしそうに伏せている顔が、その顔にかかる髪を耳に掛ける姿が、土方を惹き付けて離さない。
ちょ・・・っ、これは反則だろ!!
明日以降に期待を匂わせつつ、やんわりと拒否を示す。結婚前夜だからこその、興奮を高める寸止め感。わざとらしくなる手前の絶妙な言い回しと仕草に、土方はノックアウト寸前だ。
「そっ、それなら仕方ねえよなっ! 寝不足は体に悪ィしな!!」
上擦る声を誤魔化そうと、落ち着きなく手で口元を覆ったり、鼻を触ったり。ジッと見られることに間がもたなくなったのか、土方はぎこちない笑いを浮かべながら、マヨネーズの容器をギュッと握った。それにより、常より多めに白い物体が彼の夕食を飾る。
既に料理の味など消え去っているだろうが、一定の緊張を持ち続けている土方には、大好物の味さえわからない。
なな何だよアレ何だよアレ! アレか? 期待してんのか? 期待してんのか!?
紗己の男心をくすぐり倒す態度に、むしろ自分の方が過度に期待してしまっている。その気持ちを抑えるために、茶碗山盛りのマヨネーズご飯を一気に流し込んだ。
一方紗己は、少し複雑な表情で黙々と箸を動かしている。
あれで・・・良かったかな、うまく言えたかな・・・・・・? でも、副長さん怒らなかったし・・・やっぱり沖田さんの言う通りにして良かった。
向かいに座る土方に目線をやれば、やや動きが堅いながらも、そこそこ穏やかな表情を見せてくれている。それを見て紗己は、胸中で沖田に頭を下げた。
実は、今日の昼過ぎに沖田と話をした時、彼に別の相談を持ちかけていたのだ。
部屋を移れば、今夜から共に過ごすことになるだろう。それが決して嫌なわけではない。ただ、今夜だけは一人で夜を過ごしたかった。両親のことを思いながら、今までの人生を振り返り、明日からの新たな人生に思いを馳せたかったのだ。
恐らく理由を告げれば、それを否定されるようなことはないだろう。しかし、それでなくとも気にかかる態度をとっている土方に、必要以上に不安や心配などを感じさせたくはなかった。
そのことを沖田に話すと、彼は台詞と仕草をレクチャーしてくれたのだ。頭の堅い土方には、これが一番効果的だろう――と。
沖田の予想通り、あの台詞と仕草は効果覿面だったようだ。紗己の希望に沿い、土方を不安にさせることもなく、程よくご機嫌にすることもできた。
喜ばしいかどうかは置いといたとしても、彼は土方十四郎という男を、とてもよく理解している。
――――――
二人食べた量は違うものの、ほぼ同時に箸を置いた。それを合図に、紗己は食後の茶を淹れ始める。
ポットから急須へと湯が注がれる音が、比較的静かな食堂内に響く。まったりとした水音が日々の喧騒を一掃してくれているようで、土方はこの一連の流れがとても好きだ。
「あっ・・・」
「どうかしたか?」
紗己が小さな声を上げたので、もしや火傷でもしたのかと首を伸ばしてみたが、彼女はすぐに何もなかったように土方の前に茶を出した。
「はい、どうぞ」
土方が湯呑みに口をつけ、喉が動いたのを確認してから、紗己はいつもの柔らかな笑みを湛えて話しかけた。
「今夜は、まだまだお仕事ですか?」
「ああ、まだ終わりそうにねェな。まあ、さすがに明日のこともあるし、あんまり遅くならねェうちには切り上げるつもりだよ」
「そうですか、あまり無理なさらないでくださいね」
「おう。あー、待ってなくていいからな」
言い終えると、湯呑みをテーブルに置いて立ち上がった。
「そろそろ、仕事に戻る」
ベストとズボンを軽く直し、ゆっくりとした足取りで食堂の出入り口へと進む。
これも、いつものこと。食事や小休憩など食堂を使う時は、必ず紗己が出入り口まで見送ってくれるのだ。
長テーブルを速歩きで回り込んで土方に追いついた紗己は、足を止めた彼の隣に立つと、少し疲れた顔の土方とは対照的ににっこり笑った。
土方は出入口の柱に左手を添えると、軽く眉を寄せて首を傾げながら、いつも以上ににこやかな紗己を見下ろす。
珍しく、控え目な追求をしてしまう。彼女の自分への気持ちを疑うわけではないが、未だ解決出来ない問題を抱えてるだけに、どうしても不安が付きまとってくる。
そんな土方の弱々しい視線に気付いているかは定かではないが、紗己はやや瞬きの回数を増やして話し出した。
「えっと・・・明日のこと考えると、なかなか寝付けないと思うんです。だから、寝不足で体調崩さないように、早めに床につこうかなって・・・」
一旦言葉を切ると、やや上目遣い気味に土方を見やった。
「副長さんが隣に寝てたら、いろいろと緊張して・・・ますます寝付けなさそうだから・・・・・・」
「っ!」
心臓が跳ね上がり、一瞬呼吸が止まる。
これはいわゆるところ、どストライクというヤツだ。恥ずかしそうに伏せている顔が、その顔にかかる髪を耳に掛ける姿が、土方を惹き付けて離さない。
ちょ・・・っ、これは反則だろ!!
明日以降に期待を匂わせつつ、やんわりと拒否を示す。結婚前夜だからこその、興奮を高める寸止め感。わざとらしくなる手前の絶妙な言い回しと仕草に、土方はノックアウト寸前だ。
「そっ、それなら仕方ねえよなっ! 寝不足は体に悪ィしな!!」
上擦る声を誤魔化そうと、落ち着きなく手で口元を覆ったり、鼻を触ったり。ジッと見られることに間がもたなくなったのか、土方はぎこちない笑いを浮かべながら、マヨネーズの容器をギュッと握った。それにより、常より多めに白い物体が彼の夕食を飾る。
既に料理の味など消え去っているだろうが、一定の緊張を持ち続けている土方には、大好物の味さえわからない。
なな何だよアレ何だよアレ! アレか? 期待してんのか? 期待してんのか!?
紗己の男心をくすぐり倒す態度に、むしろ自分の方が過度に期待してしまっている。その気持ちを抑えるために、茶碗山盛りのマヨネーズご飯を一気に流し込んだ。
一方紗己は、少し複雑な表情で黙々と箸を動かしている。
あれで・・・良かったかな、うまく言えたかな・・・・・・? でも、副長さん怒らなかったし・・・やっぱり沖田さんの言う通りにして良かった。
向かいに座る土方に目線をやれば、やや動きが堅いながらも、そこそこ穏やかな表情を見せてくれている。それを見て紗己は、胸中で沖田に頭を下げた。
実は、今日の昼過ぎに沖田と話をした時、彼に別の相談を持ちかけていたのだ。
部屋を移れば、今夜から共に過ごすことになるだろう。それが決して嫌なわけではない。ただ、今夜だけは一人で夜を過ごしたかった。両親のことを思いながら、今までの人生を振り返り、明日からの新たな人生に思いを馳せたかったのだ。
恐らく理由を告げれば、それを否定されるようなことはないだろう。しかし、それでなくとも気にかかる態度をとっている土方に、必要以上に不安や心配などを感じさせたくはなかった。
そのことを沖田に話すと、彼は台詞と仕草をレクチャーしてくれたのだ。頭の堅い土方には、これが一番効果的だろう――と。
沖田の予想通り、あの台詞と仕草は効果覿面だったようだ。紗己の希望に沿い、土方を不安にさせることもなく、程よくご機嫌にすることもできた。
喜ばしいかどうかは置いといたとしても、彼は土方十四郎という男を、とてもよく理解している。
――――――
二人食べた量は違うものの、ほぼ同時に箸を置いた。それを合図に、紗己は食後の茶を淹れ始める。
ポットから急須へと湯が注がれる音が、比較的静かな食堂内に響く。まったりとした水音が日々の喧騒を一掃してくれているようで、土方はこの一連の流れがとても好きだ。
「あっ・・・」
「どうかしたか?」
紗己が小さな声を上げたので、もしや火傷でもしたのかと首を伸ばしてみたが、彼女はすぐに何もなかったように土方の前に茶を出した。
「はい、どうぞ」
土方が湯呑みに口をつけ、喉が動いたのを確認してから、紗己はいつもの柔らかな笑みを湛えて話しかけた。
「今夜は、まだまだお仕事ですか?」
「ああ、まだ終わりそうにねェな。まあ、さすがに明日のこともあるし、あんまり遅くならねェうちには切り上げるつもりだよ」
「そうですか、あまり無理なさらないでくださいね」
「おう。あー、待ってなくていいからな」
言い終えると、湯呑みをテーブルに置いて立ち上がった。
「そろそろ、仕事に戻る」
ベストとズボンを軽く直し、ゆっくりとした足取りで食堂の出入り口へと進む。
これも、いつものこと。食事や小休憩など食堂を使う時は、必ず紗己が出入り口まで見送ってくれるのだ。
長テーブルを速歩きで回り込んで土方に追いついた紗己は、足を止めた彼の隣に立つと、少し疲れた顔の土方とは対照的ににっこり笑った。
土方は出入口の柱に左手を添えると、軽く眉を寄せて首を傾げながら、いつも以上ににこやかな紗己を見下ろす。