第五章
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――――――
所用を終えて屯所に戻ってきた土方は、車を降りてふと空を見上げた。もうすっかり夜に溶け込んだ空には、幾つかの星が瞬いている。
一人になりたいとつい出掛けてしまっていたが、まだやらねばならない書類仕事が残っており、そのことを思い出して嘆息しながら玄関へと入る。
とりあえず飯食わねーと。思いながら靴を脱ぎ、紗己に声を掛けようと自室へと向かった。
ここ数日、どれだけ忙しくしていても、一日のうち最低一回は紗己と共に食事を摂っている。土方自らが彼女との時間を大事にしたいと、そう思っての行動だった。
今日もそのつもりでいるのだが、彼の胸中は複雑な模様だ。自分が一体どうしたいのか未だ答えは見つかっていないし、何が最良の判断なのかそれすらも見えてこない。
だが、このまま考え込んでいてもきっと答えは出ないだろう。そう思って、気まずいながらも紗己に会いに帰ってきた。
彼女の顔を見れば、どうすべきか決められるかもしれない――淡い期待を胸に、自室の戸を開けた。
「・・・戻ったぞ」
二間続きの、新しい二人の部屋。明かりは点いているのだが、そこに彼女の姿はない。
「紗己、いねェのか?」
襖を開けて隣の和室に入るが、やはり紗己の姿は見当たらなかった。
よくよく室内を見渡せば、出掛けの時に比べほとんど片付けが終わっている。僅かながらも紗己の荷物も運び込まれており、そんな些細なことで、土方はホッと胸を撫で下ろした。良かった、いなくなったわけじゃねえんだな・・・・・・。
疚しいところがあるだけに、こんな風に姿が見当たらないだけで、やけに不安になってしまう。そんな自分に溜め息を落とすと、土方は上着を脱いで部屋を後にした。
――――――
「あ、副長さん。お帰りなさい、お疲れ様です」
食堂に足を運ぶと、食事の用意を整えている紗己がいた。
「おう」
短く返事をすると、紗己の様子が普段と変わらないことに安心しつつ、椅子を引いて腰掛ける。
「お食事は部屋で取られますか? それとも、ここで済ませます?」
「あー・・・ここで、いいか?」
「はい、私は構いませんよ」
紗己はにっこり微笑むと、食堂の長テーブルに食器を並べ始めた。
いつもなら、余程急いでいない限りは自室で紗己と食事をしている。だが今は、まだ二人きりになるのが気まずくて、土方は共有スペースでの食事を提案したのだ。
とはいえ、今は二人の他に誰の姿もない。ほとんどの隊士達はついさっき食事を終えたばかりで、ちょうど波が引いたところだった。
食事も出揃い、向かいの席についた紗己に、土方はマヨネーズのキャップを捻りながら話しかけた。
「部屋、片付けてくれたんだな。体調は・・・つわりは平気か?」
「はい、大丈夫です。ちゃんと、食欲もありますし」
柔らかい笑みを見せる彼女に、そうか、とだけ返事をする。本当は紗己が元気でいることに安堵しているのだが、何でもないような顔をして土方は手にしていたマヨネーズの容器を逆さにした。しかし、それに力を加える前に、確認しておかなくてはならない事を思い出した。
そうだ、部屋を移ったはいいが、今夜はどうすりゃいいんだ?
初夜を同室で――という願いは、明日叶うだろう。だが、今夜どうするかは全く考えていなかった。
紗己さえ嫌でなければ、今日から同室でも構わないと土方は思っている。
とは言え、布団を並べて寝るにしても、式はもう明日だし紗己の身体に差し障ってもいけないので、今夜は誘わない心づもりだった。ここまで待ったのだ、今夜一晩だけなら手を出さずに耐えられる。
勿論、紗己がもしも自分を受け入れてくれるのであれば喜んで行動に移すし、土方としては準備はいつでも万端だ。
しかしその反面、彼女に対する後ろめたさが、同じ夜を過ごすということをやけに重たく感じさせる。
理性と本能と複雑な感情の狭間で揺れる土方は、とりあえず彼女の態度次第で判断しようと、非常に小狡い考えに行き着いた。
「あー、その、部屋なんだが・・・今夜どうする?」
少し照れ臭そうに、けれど戸惑いの色が見え隠れする土方の問いに、紗己は慌てふためいた。
「あああの! その私・・・今夜は、今の自分の部屋で寝ちゃ、駄目・・・ですか・・・・・・?」
最後の方、土方の様子を窺うように言葉を詰まらせた。
何となく、紗己は自分の言うことに拒否を示さないと勝手に思い込んでいた土方にとって、これは正直予想外だった。
助かったと思いつつも、土方は不安を隠せない。
所用を終えて屯所に戻ってきた土方は、車を降りてふと空を見上げた。もうすっかり夜に溶け込んだ空には、幾つかの星が瞬いている。
一人になりたいとつい出掛けてしまっていたが、まだやらねばならない書類仕事が残っており、そのことを思い出して嘆息しながら玄関へと入る。
とりあえず飯食わねーと。思いながら靴を脱ぎ、紗己に声を掛けようと自室へと向かった。
ここ数日、どれだけ忙しくしていても、一日のうち最低一回は紗己と共に食事を摂っている。土方自らが彼女との時間を大事にしたいと、そう思っての行動だった。
今日もそのつもりでいるのだが、彼の胸中は複雑な模様だ。自分が一体どうしたいのか未だ答えは見つかっていないし、何が最良の判断なのかそれすらも見えてこない。
だが、このまま考え込んでいてもきっと答えは出ないだろう。そう思って、気まずいながらも紗己に会いに帰ってきた。
彼女の顔を見れば、どうすべきか決められるかもしれない――淡い期待を胸に、自室の戸を開けた。
「・・・戻ったぞ」
二間続きの、新しい二人の部屋。明かりは点いているのだが、そこに彼女の姿はない。
「紗己、いねェのか?」
襖を開けて隣の和室に入るが、やはり紗己の姿は見当たらなかった。
よくよく室内を見渡せば、出掛けの時に比べほとんど片付けが終わっている。僅かながらも紗己の荷物も運び込まれており、そんな些細なことで、土方はホッと胸を撫で下ろした。良かった、いなくなったわけじゃねえんだな・・・・・・。
疚しいところがあるだけに、こんな風に姿が見当たらないだけで、やけに不安になってしまう。そんな自分に溜め息を落とすと、土方は上着を脱いで部屋を後にした。
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「あ、副長さん。お帰りなさい、お疲れ様です」
食堂に足を運ぶと、食事の用意を整えている紗己がいた。
「おう」
短く返事をすると、紗己の様子が普段と変わらないことに安心しつつ、椅子を引いて腰掛ける。
「お食事は部屋で取られますか? それとも、ここで済ませます?」
「あー・・・ここで、いいか?」
「はい、私は構いませんよ」
紗己はにっこり微笑むと、食堂の長テーブルに食器を並べ始めた。
いつもなら、余程急いでいない限りは自室で紗己と食事をしている。だが今は、まだ二人きりになるのが気まずくて、土方は共有スペースでの食事を提案したのだ。
とはいえ、今は二人の他に誰の姿もない。ほとんどの隊士達はついさっき食事を終えたばかりで、ちょうど波が引いたところだった。
食事も出揃い、向かいの席についた紗己に、土方はマヨネーズのキャップを捻りながら話しかけた。
「部屋、片付けてくれたんだな。体調は・・・つわりは平気か?」
「はい、大丈夫です。ちゃんと、食欲もありますし」
柔らかい笑みを見せる彼女に、そうか、とだけ返事をする。本当は紗己が元気でいることに安堵しているのだが、何でもないような顔をして土方は手にしていたマヨネーズの容器を逆さにした。しかし、それに力を加える前に、確認しておかなくてはならない事を思い出した。
そうだ、部屋を移ったはいいが、今夜はどうすりゃいいんだ?
初夜を同室で――という願いは、明日叶うだろう。だが、今夜どうするかは全く考えていなかった。
紗己さえ嫌でなければ、今日から同室でも構わないと土方は思っている。
とは言え、布団を並べて寝るにしても、式はもう明日だし紗己の身体に差し障ってもいけないので、今夜は誘わない心づもりだった。ここまで待ったのだ、今夜一晩だけなら手を出さずに耐えられる。
勿論、紗己がもしも自分を受け入れてくれるのであれば喜んで行動に移すし、土方としては準備はいつでも万端だ。
しかしその反面、彼女に対する後ろめたさが、同じ夜を過ごすということをやけに重たく感じさせる。
理性と本能と複雑な感情の狭間で揺れる土方は、とりあえず彼女の態度次第で判断しようと、非常に小狡い考えに行き着いた。
「あー、その、部屋なんだが・・・今夜どうする?」
少し照れ臭そうに、けれど戸惑いの色が見え隠れする土方の問いに、紗己は慌てふためいた。
「あああの! その私・・・今夜は、今の自分の部屋で寝ちゃ、駄目・・・ですか・・・・・・?」
最後の方、土方の様子を窺うように言葉を詰まらせた。
何となく、紗己は自分の言うことに拒否を示さないと勝手に思い込んでいた土方にとって、これは正直予想外だった。
助かったと思いつつも、土方は不安を隠せない。