第五章
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隣で押し黙っている土方を、銀時はやや呆れ顔で一瞥する。
鬼だなんだ言われてても、本気で惚れた女のこととなったらこんなモンか。ま、わからないでもないけどな。
相手はいたく純粋な若い娘だ。自分が年を取れば取っているほど、少年の頃のような清らかな気持ちが蘇ってしまい、そんな自分に困惑してしまうのだろう。
と、ある程度の共感はするものの、実のところ銀時は土方が紗己に何を告白しようがしまいが、さほど興味が無い。
単純な話、彼女が哀しまなければどちらでもいいのだ。
『副長さんが楽になれるんなら、身代わりでいいって思ったんです』
以前紗己が口にした言葉を、銀時はふと思い出した。
そういやアイツ、本当は知ってんだよな、コイツと沖田の姉ちゃんのこと・・・・・・。
身代わりでいいとまで言ってのけたのだ。そうまでしても紗己は土方を想っているし、彼の助けになりたいと思っている。ひょっとしたら、今こうして土方が苦しんでいることの方が、彼女にとっては辛いことなのかもしれない。
そんなことを思いながら、隣に座る土方に一瞥をくれると、溜め息混じりに言葉を投げた。
「墓場まで持ってくくらいの気概がねェんなら、秘密なんて抱え込むだけ無駄じゃねーの?」
「・・・何だよ、突然」
訝しげな表情で自分を見つめる土方に、銀時は淡々とした口調で続けた。
「悩んでる姿見せられるくらいなら、さっさと言われた方が楽ってヤツもいるだろうしな」
「・・・あ? さっきと言ってることが全然違うじゃねえか! 言うなっつったり言えっつったり、一体どっちなんだよ!!」
悔しいながらも、銀時の言葉にいろいろと考えさせられていた土方は、突如方向転換してきた意見に、戸惑いを含んだ苛立ちをぶつけた。だが銀時は、だからなに、それがどうしたと言わんばかりの顔で、ベンチの背に上体を預ける。
「どっちでもねーけど。俺にとっちゃァそんなのどっちでもいいことだし。ただ、紗己ならきっと、神父ばりに悩める子羊を救おうと必死になるんだろうな」
ぼんやりと日暮れの空を眺めながら、深く吐息した。
「たとえ、自分が傷付いたとしても」
「・・・・・・」
銀時の言葉に心臓が乱れ打つ。土方は重力に従うまま、足元に広がる砂に目を凝らした。
不規則な砂粒達に焦点を合わせ続けるうちに、次第に視界はぼやけ始め、そこに紗己の笑顔が見えた気がした。
穏やかで控え目で鈍感で。なのに他人の痛みには敏感で。いつだって自分のことより相手を優先して、犠牲だなんて考えもしない。
そんな彼女を、いつの間にか愛していた。
だからこそ、本気で愛しているからこそ、勘違いなんかで紗己を抱いてしまった事を悔いて仕方がない。自分自身をどうしても許せないのだ。
そんなにも愛しているのなら、わざわざ彼女を傷付ける可能性を秘めた行動に出ることもないだろう。思いはするも、今のままでは駄目だと考える自分がいる。
結婚をスタートと考えるなら、見事にフライングをしてしまっているのだ。もう一度仕切り直して、気持ちを新たに紗己と二人で生きていきたい。
土方はゆっくりと顔を上げると、深く静かに息を吐いた。
「決められねェけどな・・・」
小さな呟きに、それを聞き取れなかった銀時は首を傾げる。
「あ? 何か言ったか?」
「・・・いや、何でもねえ」
先程までに比べたら、だいぶさっぱりとした口調で、土方は隣に置いたままだった缶コーヒーを手に取ると、スクッと立ち上がった。
「俺ァ、もう仕事に戻る。いつまでもテメーに付き合ってられるほど、暇じゃねーからな」
あれほど思い詰めた姿で仕事を放棄していたクセに、なかなかに勝手な言い草だ。これにはさすがに銀時も腹を立てる。
「んだとっ! 俺だって暇じゃねーよ!!」
「だったらさっさと帰れ」
土方のすました言い方にますます腹が立ってくるが、自分からわざわざ近付いていったのだから、いくら土方が気に入らなかろうとここは堪えるより他ない。
「あーあー言われなくても帰るわ、つーかテメーがさっさと行けって」
本当に帰りたいのだが、言われるまま行動するのは癪なので、土方が去ってから帰ろうと思っている銀時は、一旦地面に下ろした足をもう一度組み直した。
それをちらりと横目で確認した土方は、左手をズボンのポケットに突っ込むと、右手に持っていた缶コーヒーを銀時に向かって放り投げた。
「っ、なんだこりゃァ」
「やるよ」
ぶっきらぼうに言い放つと、土方は右手もズボンのポケットに突っ込んで、夕闇の中を行ってしまった。
公園のベンチに座ったままの銀時は、片手に缶コーヒーを持ちながら頭を掻く。
これは土方なりの感謝なのか、単に要らなくなっただけなのか。真意は不明だが、少なくとも毒入りではなさそうだ。
「・・・俺は甘党だっつーの」
無糖ラベルの缶をギュッと握りなおすと、銀時は首の後ろを撫でて小さく笑った。
鬼だなんだ言われてても、本気で惚れた女のこととなったらこんなモンか。ま、わからないでもないけどな。
相手はいたく純粋な若い娘だ。自分が年を取れば取っているほど、少年の頃のような清らかな気持ちが蘇ってしまい、そんな自分に困惑してしまうのだろう。
と、ある程度の共感はするものの、実のところ銀時は土方が紗己に何を告白しようがしまいが、さほど興味が無い。
単純な話、彼女が哀しまなければどちらでもいいのだ。
『副長さんが楽になれるんなら、身代わりでいいって思ったんです』
以前紗己が口にした言葉を、銀時はふと思い出した。
そういやアイツ、本当は知ってんだよな、コイツと沖田の姉ちゃんのこと・・・・・・。
身代わりでいいとまで言ってのけたのだ。そうまでしても紗己は土方を想っているし、彼の助けになりたいと思っている。ひょっとしたら、今こうして土方が苦しんでいることの方が、彼女にとっては辛いことなのかもしれない。
そんなことを思いながら、隣に座る土方に一瞥をくれると、溜め息混じりに言葉を投げた。
「墓場まで持ってくくらいの気概がねェんなら、秘密なんて抱え込むだけ無駄じゃねーの?」
「・・・何だよ、突然」
訝しげな表情で自分を見つめる土方に、銀時は淡々とした口調で続けた。
「悩んでる姿見せられるくらいなら、さっさと言われた方が楽ってヤツもいるだろうしな」
「・・・あ? さっきと言ってることが全然違うじゃねえか! 言うなっつったり言えっつったり、一体どっちなんだよ!!」
悔しいながらも、銀時の言葉にいろいろと考えさせられていた土方は、突如方向転換してきた意見に、戸惑いを含んだ苛立ちをぶつけた。だが銀時は、だからなに、それがどうしたと言わんばかりの顔で、ベンチの背に上体を預ける。
「どっちでもねーけど。俺にとっちゃァそんなのどっちでもいいことだし。ただ、紗己ならきっと、神父ばりに悩める子羊を救おうと必死になるんだろうな」
ぼんやりと日暮れの空を眺めながら、深く吐息した。
「たとえ、自分が傷付いたとしても」
「・・・・・・」
銀時の言葉に心臓が乱れ打つ。土方は重力に従うまま、足元に広がる砂に目を凝らした。
不規則な砂粒達に焦点を合わせ続けるうちに、次第に視界はぼやけ始め、そこに紗己の笑顔が見えた気がした。
穏やかで控え目で鈍感で。なのに他人の痛みには敏感で。いつだって自分のことより相手を優先して、犠牲だなんて考えもしない。
そんな彼女を、いつの間にか愛していた。
だからこそ、本気で愛しているからこそ、勘違いなんかで紗己を抱いてしまった事を悔いて仕方がない。自分自身をどうしても許せないのだ。
そんなにも愛しているのなら、わざわざ彼女を傷付ける可能性を秘めた行動に出ることもないだろう。思いはするも、今のままでは駄目だと考える自分がいる。
結婚をスタートと考えるなら、見事にフライングをしてしまっているのだ。もう一度仕切り直して、気持ちを新たに紗己と二人で生きていきたい。
土方はゆっくりと顔を上げると、深く静かに息を吐いた。
「決められねェけどな・・・」
小さな呟きに、それを聞き取れなかった銀時は首を傾げる。
「あ? 何か言ったか?」
「・・・いや、何でもねえ」
先程までに比べたら、だいぶさっぱりとした口調で、土方は隣に置いたままだった缶コーヒーを手に取ると、スクッと立ち上がった。
「俺ァ、もう仕事に戻る。いつまでもテメーに付き合ってられるほど、暇じゃねーからな」
あれほど思い詰めた姿で仕事を放棄していたクセに、なかなかに勝手な言い草だ。これにはさすがに銀時も腹を立てる。
「んだとっ! 俺だって暇じゃねーよ!!」
「だったらさっさと帰れ」
土方のすました言い方にますます腹が立ってくるが、自分からわざわざ近付いていったのだから、いくら土方が気に入らなかろうとここは堪えるより他ない。
「あーあー言われなくても帰るわ、つーかテメーがさっさと行けって」
本当に帰りたいのだが、言われるまま行動するのは癪なので、土方が去ってから帰ろうと思っている銀時は、一旦地面に下ろした足をもう一度組み直した。
それをちらりと横目で確認した土方は、左手をズボンのポケットに突っ込むと、右手に持っていた缶コーヒーを銀時に向かって放り投げた。
「っ、なんだこりゃァ」
「やるよ」
ぶっきらぼうに言い放つと、土方は右手もズボンのポケットに突っ込んで、夕闇の中を行ってしまった。
公園のベンチに座ったままの銀時は、片手に缶コーヒーを持ちながら頭を掻く。
これは土方なりの感謝なのか、単に要らなくなっただけなのか。真意は不明だが、少なくとも毒入りではなさそうだ。
「・・・俺は甘党だっつーの」
無糖ラベルの缶をギュッと握りなおすと、銀時は首の後ろを撫でて小さく笑った。