第五章
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夕焼けの赤みも徐々に夜の青に溶け込みはじめ、公園の街灯も灯り出した。銀時は薄暮の空を眺めて静かに言葉を掛ける。
「紗己のこと、泣かすなよ」
「っ・・・」
瞬間、土方は体を強張らせた。突然の銀時の言葉にようやく反応らしい反応を見せたものの、顔を上げることなく眉を寄せて、足元をジッと見ている。
内心、土方にも言い返したい気持ちはある。普段の彼なら、言われっぱなしで大人しくしていることはまずないだろう。
だが、自分の気持ちも見定まらない今の心境では、とてもじゃないがうまく言い返せる気がしなくて、黙っているより他ないのだ。
薄く開いた唇から、長い吐息が漏れ出ている。隣でじっと俯いている土方の姿に、銀時もまた吐息して頭を掻いた。こりゃ重症だな。
今の土方はどうにも頼りなげで、紗己の言うように辛そうにも見える。思い悩んでいる様をありありと見せつけられた銀時は、
「あーあ、こんな男のどこがいいんだか。頭堅いし短気だし・・・」
わかりやすい悪口を堂々と並べ始めた。
隣の土方が、俯きながらも顔付きを変えて苛立っているのもお構い無しに、そのまま言葉を続ける。
「過ぎたことくよくよ気にする、面倒くせえ男だし」
「・・・っ」
思わず土方の両手が膝の上で拳をつくった。
それは、自分の心の内を見透かされていると認識するのに、十分足りる言葉だった。他人から言われることで、如何に自分が囚われているかを気付かされ、またも土方はいたたまれない気分になった。
しかし銀時は優しくも冷たくもない声で、自身の気持ちを夕闇に覆われた空に吐き出す。
「ハァ・・・俺にはさっぱり理解出来ねーが、それでも紗己はお前がいいってんだから、俺はアイツの幸せを願うしかないわけ」
「っ! お前、まさか・・・」
ずっと俯いていた土方が、勢いよく顔を上げて銀時の方を見た。鋭い双眸を見開いて、瞳孔は開き気味になっている。
だがそんな風に見据えられても、銀時は全く意に介さず淡々と言葉を並べる。
「はあ? お前何疑ってんの? まあ、誰がどう紗己のことを想おうが、残念ながらアイツはお前にすっかり毒されてるからね。完全に毒が回ってるからね」
「毒っ・・・て、おい人聞き悪い言い方すんじゃねェっ! 大体それ、答えになってねーだろうが!!」
嫉妬心のおかげで、遅まきながらいつもの強い口調に戻った。しかし銀時は、気怠げな表情でそんな彼を嘲笑する。
「あーやだやだ。テメーのことは棚に上げて、独占欲ばっか強いって。ほんっと勝手な男だねー」
「っ・・・俺は紗己と出会ってからは、他の女と一切関わってねェぞ!」
「なら、いいじゃねえか」
「・・・あ?」
今までの流れをスパッと切ってしまう銀時の発言に、意味がわからない土方は怪訝な面持ちで彼を見やる。
すると銀時は、体を揺らして足を組み、ベンチの背もたれに背中を預けてハァッと息を吐き出した。
「今になってわざわざ蒸し返すこともねーだろ、うまくいってんなら尚更な」
「・・・・・・」
胸の奥が鈍く疼き、土方はその痛みに眉を寄せた。今自分が考え悩んでいることは、下手をすれば幸せな未来を壊しかねない、危険な賭けだ。それも、紗己のためではなく自分のためでしかない。
必ず幸せにするって約束したじゃねえか・・・・・・。紗己と真っ直ぐ向き合いたいからって、それでアイツを傷付けちまったら元も子もねえだろ・・・・・・。
悔しいが、銀時の言う通りだと土方は思う。それでも、自分勝手だとわかっていても、罪悪感を払拭したくて堪らないのだ。
「・・・わかってんだよ、んなこたァ言われなくても・・・・・・」
苦々しく、言葉を地面に吐き捨てた。実に歯切れの悪い土方の姿に業を煮やした銀時は、苛ついたように組んだ足を揺すりながら語調を強める。
「今更ああだこうだ告白されて、それでアイツが喜ぶか? テメーが楽になりたいからって、それで紗己を泣かしていいってことにはならねーよ」
「・・・っ、泣かせたいわけねェだろ!」
限りなく正論に近いことを言われて、土方は悔しさ紛れに声を荒らげた。だが彼の矛盾を見抜いている銀時は、平然と核心を突いてくる。
「自分のやっちまったことを悔いて、それを吐き出したいってんなら、んなもん教会にでも行って神父に懺悔してこいよ」
「・・・・・・」
それを言われたら、ぐうの音も出ない。
本当にその通りなのだ。それが『罪』ならば、懺悔室に入ってくるのも悪くはない。
しかし、相手が神父では駄目なのだ。紗己でないと、彼女に直接伝えなければ、その言葉は何の意味も持たない。
「紗己のこと、泣かすなよ」
「っ・・・」
瞬間、土方は体を強張らせた。突然の銀時の言葉にようやく反応らしい反応を見せたものの、顔を上げることなく眉を寄せて、足元をジッと見ている。
内心、土方にも言い返したい気持ちはある。普段の彼なら、言われっぱなしで大人しくしていることはまずないだろう。
だが、自分の気持ちも見定まらない今の心境では、とてもじゃないがうまく言い返せる気がしなくて、黙っているより他ないのだ。
薄く開いた唇から、長い吐息が漏れ出ている。隣でじっと俯いている土方の姿に、銀時もまた吐息して頭を掻いた。こりゃ重症だな。
今の土方はどうにも頼りなげで、紗己の言うように辛そうにも見える。思い悩んでいる様をありありと見せつけられた銀時は、
「あーあ、こんな男のどこがいいんだか。頭堅いし短気だし・・・」
わかりやすい悪口を堂々と並べ始めた。
隣の土方が、俯きながらも顔付きを変えて苛立っているのもお構い無しに、そのまま言葉を続ける。
「過ぎたことくよくよ気にする、面倒くせえ男だし」
「・・・っ」
思わず土方の両手が膝の上で拳をつくった。
それは、自分の心の内を見透かされていると認識するのに、十分足りる言葉だった。他人から言われることで、如何に自分が囚われているかを気付かされ、またも土方はいたたまれない気分になった。
しかし銀時は優しくも冷たくもない声で、自身の気持ちを夕闇に覆われた空に吐き出す。
「ハァ・・・俺にはさっぱり理解出来ねーが、それでも紗己はお前がいいってんだから、俺はアイツの幸せを願うしかないわけ」
「っ! お前、まさか・・・」
ずっと俯いていた土方が、勢いよく顔を上げて銀時の方を見た。鋭い双眸を見開いて、瞳孔は開き気味になっている。
だがそんな風に見据えられても、銀時は全く意に介さず淡々と言葉を並べる。
「はあ? お前何疑ってんの? まあ、誰がどう紗己のことを想おうが、残念ながらアイツはお前にすっかり毒されてるからね。完全に毒が回ってるからね」
「毒っ・・・て、おい人聞き悪い言い方すんじゃねェっ! 大体それ、答えになってねーだろうが!!」
嫉妬心のおかげで、遅まきながらいつもの強い口調に戻った。しかし銀時は、気怠げな表情でそんな彼を嘲笑する。
「あーやだやだ。テメーのことは棚に上げて、独占欲ばっか強いって。ほんっと勝手な男だねー」
「っ・・・俺は紗己と出会ってからは、他の女と一切関わってねェぞ!」
「なら、いいじゃねえか」
「・・・あ?」
今までの流れをスパッと切ってしまう銀時の発言に、意味がわからない土方は怪訝な面持ちで彼を見やる。
すると銀時は、体を揺らして足を組み、ベンチの背もたれに背中を預けてハァッと息を吐き出した。
「今になってわざわざ蒸し返すこともねーだろ、うまくいってんなら尚更な」
「・・・・・・」
胸の奥が鈍く疼き、土方はその痛みに眉を寄せた。今自分が考え悩んでいることは、下手をすれば幸せな未来を壊しかねない、危険な賭けだ。それも、紗己のためではなく自分のためでしかない。
必ず幸せにするって約束したじゃねえか・・・・・・。紗己と真っ直ぐ向き合いたいからって、それでアイツを傷付けちまったら元も子もねえだろ・・・・・・。
悔しいが、銀時の言う通りだと土方は思う。それでも、自分勝手だとわかっていても、罪悪感を払拭したくて堪らないのだ。
「・・・わかってんだよ、んなこたァ言われなくても・・・・・・」
苦々しく、言葉を地面に吐き捨てた。実に歯切れの悪い土方の姿に業を煮やした銀時は、苛ついたように組んだ足を揺すりながら語調を強める。
「今更ああだこうだ告白されて、それでアイツが喜ぶか? テメーが楽になりたいからって、それで紗己を泣かしていいってことにはならねーよ」
「・・・っ、泣かせたいわけねェだろ!」
限りなく正論に近いことを言われて、土方は悔しさ紛れに声を荒らげた。だが彼の矛盾を見抜いている銀時は、平然と核心を突いてくる。
「自分のやっちまったことを悔いて、それを吐き出したいってんなら、んなもん教会にでも行って神父に懺悔してこいよ」
「・・・・・・」
それを言われたら、ぐうの音も出ない。
本当にその通りなのだ。それが『罪』ならば、懺悔室に入ってくるのも悪くはない。
しかし、相手が神父では駄目なのだ。紗己でないと、彼女に直接伝えなければ、その言葉は何の意味も持たない。