第五章
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――――――
西の空に茜色が残る黄昏時。土方は一人車を走らせ、屯所へと帰ろうとしていた。
沖田が部屋を出ていってからすぐに、所用で屯所を離れていた土方。誰かしらに頼めばいい用件だったのだが、少し一人になりたかった。そして、自分をわざと忙しくさせているというのも、あながち間違いではないだろう。
総悟のヤツ、気付いてやがったか・・・・・・。別に逃げ道無くしてるとかそんなんじゃねえが、考える時間を無くそうとはしてるかもしれねえな・・・・・・。
運転席の窓を開け、流れる町並みに紫煙を吐く。こんな風にモヤモヤとした気持ちで車を走らせていると、紗己を抱いた翌日のことを思い出す。
あの日は朝から彼女に逃げられ続け、複雑な気分になったものだ。それがまさか今、こうして明日祝言を挙げることになるとは、誰も考えもしなかっただろう。
俺は・・・いつから気付いてた? 意識しちまったのは、紗己の実家に泊まったあの夜からだ。けど、本当はずっと気付いてただろ。流れに身を任せて、気付かねえふりしてきただけだ・・・・・・。
沖田に言った言葉に嘘はない。紗己との結婚を後悔しているわけでもない。ただどうしても、胸のつかえが取れないのだ。
――――――
あと十分もすれば屯所に着くという頃。なおも運転中の土方の視線の先に、とある公園が見えてきた。そこは、屯所を出ていった紗己を散々捜し回り、ようやく彼女を見つけだした公園だった。
「何か・・・飲むか」
ボソッと呟くと、公園の出入口に設置されている自販機の前に車を停めた。車を降りて、財布から小銭を取り出し缶コーヒーを購入し、そのまま車に戻ろうとしたのだが。ふと、視界に公園内のベンチを捉えた。
土方は購入したばかりの缶コーヒーを手の中で遊ばせながら、一番近くにあるベンチに腰を下ろした。足を組み、気怠そうに夕暮の空を仰ぐ。
あの日と同じ場所。同じ空の色。ここで紗己を強く抱き締めた。無事でいてくれて良かったと、心の底からそう思った。
あの後、屯所に戻ってプロポーズしたんだよな。そうだよ、アイツすぐに理解できてなくて反応遅かったよな・・・・・・。
たった二週間しか経っていないのに、古いアルバムを捲るように懐かしく感じてしまう。それだけ濃密な時間を過ごしていたということだろう。
土方は缶コーヒーをベンチに置くと、背もたれに体を預けて腕を組んだ。やや顔を伏せ気味に、静かに瞳を閉じる。
俺は、一体どうしたいんだろうな。泣かせたくない、傷付けたくない。でも・・・・・・。
今になってこんなことを考えるのは、自分でも卑怯だと思う。それでも紗己を想えば想うほど、彼女の潔い純粋さにいたたまれなくなる。どうにかして、彼女に見合うだけの男でありたいと、清廉潔白な人間でいたいと思ってしまう。己の疚しさを悔いて仕方がないのだ。
――――――
自宅への帰り道、銀時は近道をしようと道路を渡ってその先の公園へと入っていった。周遊コースを、時計回りに歩いていく。
すると、今自分が歩いている数メートル先のベンチに、見知った人物が座っているのが見えた。
げっ、なんでアイツこんなトコにいるんだよ!
瞬時に足を止める。幸い向こうはこちらに気付いていないようなので、少し癪ではあるものの、顔を合わせないように公園を大回りして帰ろうかと思ったのだが。
『時々、すごく辛そうな顔をしてる気がして・・・・・・』
銀時は午前中に聞いた紗己の言葉を思い出す。夕暮れの公園、ベンチに座り虚空を眺める男の表情は、決して明るいものではない。
「・・・・・・」
放っておいていいだろう。普段から見事なまでに馬が合わないのだ。自分が関わるべき問題でもない。そう思うのだが、紗己の悲しそうな顔が頭にちらつき、きっとこのまま帰っても後味の悪さは消えないだろう。
銀時はがっくりと肩を落とすと、頭を掻きながら緩慢な動きで歩を進めた。
「よお、相変わらず暇な役人さんだねー」
「・・・っ」
声を掛けられて、ハッとして顔を上げる。ボーッとしていたため全く気配にも気付かず、突如目の前に現れた銀時に土方は少々驚いた。
「・・・何だ、テメーか。別に暇じゃねーよ。つーか何でテメーがこんなトコにいるんだよ」
「今から帰るとこなんだよ。それとも何か、近道しようと公園突っ切っただけで、職務質問でもする気か?」
からかい半分悪態をつく銀時に、土方は露骨に嫌な顔を見せる。
「・・・なら、さっさと帰れよ」
心なしか、一言一言に力がない。その姿に銀時は嘆息すると、土方の隣――ベンチの端にドカッと腰を下ろした。
思わぬ行動をとった銀時に、土方は眉をしかめる。だが銀時は素知らぬ顔で、流れる雲に視線をやった。
「しけた面だなァ、おい。腹でも下してんのか?」
「・・・ほっとけ、余計な世話だ」
会話があとに続かない。全くもっていつもと勝手の違う雰囲気に調子が狂うのか、銀時はちらり横目で土方を見ると、呆れたように首を横に振った。
しかし、土方からは何のリアクションもない。このまま何かしらの反応があれば、そこから探りを入れようとの腹だったのだが、これでは恐らく時間の無駄だ。
出来る限り不用意な介入はしたくなかったのだが、相手が何も言ってこないのなら仕方がない。放っておいたら、明日はものすごく寝覚めが悪いだろう。
そんな気分を味わいたくない銀時は、もう一度隣の男を横目で見ると、吐息してからゆっくりと視線を空へと移した。
西の空に茜色が残る黄昏時。土方は一人車を走らせ、屯所へと帰ろうとしていた。
沖田が部屋を出ていってからすぐに、所用で屯所を離れていた土方。誰かしらに頼めばいい用件だったのだが、少し一人になりたかった。そして、自分をわざと忙しくさせているというのも、あながち間違いではないだろう。
総悟のヤツ、気付いてやがったか・・・・・・。別に逃げ道無くしてるとかそんなんじゃねえが、考える時間を無くそうとはしてるかもしれねえな・・・・・・。
運転席の窓を開け、流れる町並みに紫煙を吐く。こんな風にモヤモヤとした気持ちで車を走らせていると、紗己を抱いた翌日のことを思い出す。
あの日は朝から彼女に逃げられ続け、複雑な気分になったものだ。それがまさか今、こうして明日祝言を挙げることになるとは、誰も考えもしなかっただろう。
俺は・・・いつから気付いてた? 意識しちまったのは、紗己の実家に泊まったあの夜からだ。けど、本当はずっと気付いてただろ。流れに身を任せて、気付かねえふりしてきただけだ・・・・・・。
沖田に言った言葉に嘘はない。紗己との結婚を後悔しているわけでもない。ただどうしても、胸のつかえが取れないのだ。
――――――
あと十分もすれば屯所に着くという頃。なおも運転中の土方の視線の先に、とある公園が見えてきた。そこは、屯所を出ていった紗己を散々捜し回り、ようやく彼女を見つけだした公園だった。
「何か・・・飲むか」
ボソッと呟くと、公園の出入口に設置されている自販機の前に車を停めた。車を降りて、財布から小銭を取り出し缶コーヒーを購入し、そのまま車に戻ろうとしたのだが。ふと、視界に公園内のベンチを捉えた。
土方は購入したばかりの缶コーヒーを手の中で遊ばせながら、一番近くにあるベンチに腰を下ろした。足を組み、気怠そうに夕暮の空を仰ぐ。
あの日と同じ場所。同じ空の色。ここで紗己を強く抱き締めた。無事でいてくれて良かったと、心の底からそう思った。
あの後、屯所に戻ってプロポーズしたんだよな。そうだよ、アイツすぐに理解できてなくて反応遅かったよな・・・・・・。
たった二週間しか経っていないのに、古いアルバムを捲るように懐かしく感じてしまう。それだけ濃密な時間を過ごしていたということだろう。
土方は缶コーヒーをベンチに置くと、背もたれに体を預けて腕を組んだ。やや顔を伏せ気味に、静かに瞳を閉じる。
俺は、一体どうしたいんだろうな。泣かせたくない、傷付けたくない。でも・・・・・・。
今になってこんなことを考えるのは、自分でも卑怯だと思う。それでも紗己を想えば想うほど、彼女の潔い純粋さにいたたまれなくなる。どうにかして、彼女に見合うだけの男でありたいと、清廉潔白な人間でいたいと思ってしまう。己の疚しさを悔いて仕方がないのだ。
――――――
自宅への帰り道、銀時は近道をしようと道路を渡ってその先の公園へと入っていった。周遊コースを、時計回りに歩いていく。
すると、今自分が歩いている数メートル先のベンチに、見知った人物が座っているのが見えた。
げっ、なんでアイツこんなトコにいるんだよ!
瞬時に足を止める。幸い向こうはこちらに気付いていないようなので、少し癪ではあるものの、顔を合わせないように公園を大回りして帰ろうかと思ったのだが。
『時々、すごく辛そうな顔をしてる気がして・・・・・・』
銀時は午前中に聞いた紗己の言葉を思い出す。夕暮れの公園、ベンチに座り虚空を眺める男の表情は、決して明るいものではない。
「・・・・・・」
放っておいていいだろう。普段から見事なまでに馬が合わないのだ。自分が関わるべき問題でもない。そう思うのだが、紗己の悲しそうな顔が頭にちらつき、きっとこのまま帰っても後味の悪さは消えないだろう。
銀時はがっくりと肩を落とすと、頭を掻きながら緩慢な動きで歩を進めた。
「よお、相変わらず暇な役人さんだねー」
「・・・っ」
声を掛けられて、ハッとして顔を上げる。ボーッとしていたため全く気配にも気付かず、突如目の前に現れた銀時に土方は少々驚いた。
「・・・何だ、テメーか。別に暇じゃねーよ。つーか何でテメーがこんなトコにいるんだよ」
「今から帰るとこなんだよ。それとも何か、近道しようと公園突っ切っただけで、職務質問でもする気か?」
からかい半分悪態をつく銀時に、土方は露骨に嫌な顔を見せる。
「・・・なら、さっさと帰れよ」
心なしか、一言一言に力がない。その姿に銀時は嘆息すると、土方の隣――ベンチの端にドカッと腰を下ろした。
思わぬ行動をとった銀時に、土方は眉をしかめる。だが銀時は素知らぬ顔で、流れる雲に視線をやった。
「しけた面だなァ、おい。腹でも下してんのか?」
「・・・ほっとけ、余計な世話だ」
会話があとに続かない。全くもっていつもと勝手の違う雰囲気に調子が狂うのか、銀時はちらり横目で土方を見ると、呆れたように首を横に振った。
しかし、土方からは何のリアクションもない。このまま何かしらの反応があれば、そこから探りを入れようとの腹だったのだが、これでは恐らく時間の無駄だ。
出来る限り不用意な介入はしたくなかったのだが、相手が何も言ってこないのなら仕方がない。放っておいたら、明日はものすごく寝覚めが悪いだろう。
そんな気分を味わいたくない銀時は、もう一度隣の男を横目で見ると、吐息してからゆっくりと視線を空へと移した。