序章
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目的であった謝罪をとりあえず済ませはした土方だったが、そこから先のことを何一つ考えていなかった自分に気付く。
(謝って・・・どうしたらいいんだ? )
具体的な方向性は皆無で、出来ることなら何も無かった事にしてしまいたいくらいだ。
ともあれ悪いのは全て自分で、本来ならば傷付いているであろう紗己を気遣わねばならない立場だ。
だが紗己は何かを求めてくることもなく、むしろこちらを気遣っているようにも見える。
これはこれで困る。罪悪感を払拭できるような要望を明示してほしい。また自分勝手な考えが顔を出してきた。
コイツは俺に一体どうしてほしいんだ? なんで何にも言ってこねーんだ、いや・・・あんまり無理難題言われても困るんだが・・・つーかそっちから言ってくんねーと、こっちも譲歩できねェだろうが・・・・・・。
手の内の探りあいをしているつもりなのだが、紗己の腹が全く読めない。困った土方は、頬を掻きながら彼女の名を呼んだ。
「なあ・・・えーっと・・・・・・紗己」
「は、はいっ」
驚いた紗己は姿勢を正すが、正座をしていたためにその動きが股関節に響いたらしく、鈍い痛みに少しだけ顔を歪めた。
「っ・・・」
「大、丈夫か・・・・・・?」
目の前の紗己の表情に、思わず腰を浮かせて声を掛けるが、隣に移ることも出来ず向かい合ったままでオロオロするばかり。そんな土方を尻目に紗己はすぐ笑顔に切り替えた。
「平気です、全然平気ですから! ごめんなさい、話の腰折っちゃって・・・それで、どうしました?」
「いや・・・痛ェだろ、すまん・・・」
って、違う! どうして欲しいか訊くつもりだったんだろ!! いや、悪かったとは素直に思ってるし、これはこれでこの場では謝るのが当然っちゃァ当然なんだがあ゛ーもうどうすりゃいいんだ!!
結構な無表情で、心は意外とお喋りだ。
大人の男とは思えない情けなさだが、彼以外に男を知らない紗己は、クールに振舞う姿の裏側に気付くこともない。
「そんなには痛くないですよ、平気です」
「・・・・・・」
柔らかな笑みを湛える紗己を見て、土方の中にある良心が存在を主張してきた。
なんで「平気」とか言うんだよ、平気なわけねーだろ・・・・・・。
肉体はともかく、心が平気なわけがない。
紗己の心情を推し量ると心苦しくて、その胸の重石を少しでも軽くするために、土方は真実の一部を明かし懺悔する。
それが自分勝手な行為だとは気付きもせずに。
「あのな、こんなの言うのどうかとは思うんだが・・・悪ィ、酔っ払っちまってて・・・あん時の記憶ねーんだ・・・」
「・・・・・・」
紗己はすぐには何も言わなかったが、少しの間を置いてから、いいんですとだけ静かに答えた。
「いいわきゃねーだろ、俺ァ・・・」
言いかけて口を噤む。人違いで抱いただけなんだ――とでも言う気か、俺は?
いくらなんでもそれは言えない。人違いの相手が昔の女とまでは言わなくとも、どっちにしろこんなに気分の悪いことはないだろう。
ただただ楽になりたい一心だったが、少しだけまともな思考を取り戻す。
「夢・・・夢の中でその・・・してたつもりだったんだが・・・」
要点を省いたところで、やってしまったことに変わりはない。土方は言葉尻を濁してしまった。
しかし、聞かされた紗己は泣くわけでもなく怒るわけでもなく、見事なまでに落ち着き払っている。
向かい合い気まずそうにしている土方に対し、
「ストレス溜まってると、そういう夢見るって・・・聞いたことあるような気もします。大変なお仕事なんですね」
気遣うような表情で、ゆっくりとそう言った。
これには土方もただただ唖然とするばかりだ。
そこ!? 反応するのそこかよっ! 大体「聞いたことあるような気もする」ってなんだその微妙な記憶は、ただの思い込みじゃねーか! どんなけ気ィ遣ってくれてんだよ!!
土方には全くもって紗己の腹が読めない。
それもそのはずだ。端から無いものは読めやしない。紗己には何の魂胆もないのだから。
(謝って・・・どうしたらいいんだ? )
具体的な方向性は皆無で、出来ることなら何も無かった事にしてしまいたいくらいだ。
ともあれ悪いのは全て自分で、本来ならば傷付いているであろう紗己を気遣わねばならない立場だ。
だが紗己は何かを求めてくることもなく、むしろこちらを気遣っているようにも見える。
これはこれで困る。罪悪感を払拭できるような要望を明示してほしい。また自分勝手な考えが顔を出してきた。
コイツは俺に一体どうしてほしいんだ? なんで何にも言ってこねーんだ、いや・・・あんまり無理難題言われても困るんだが・・・つーかそっちから言ってくんねーと、こっちも譲歩できねェだろうが・・・・・・。
手の内の探りあいをしているつもりなのだが、紗己の腹が全く読めない。困った土方は、頬を掻きながら彼女の名を呼んだ。
「なあ・・・えーっと・・・・・・紗己」
「は、はいっ」
驚いた紗己は姿勢を正すが、正座をしていたためにその動きが股関節に響いたらしく、鈍い痛みに少しだけ顔を歪めた。
「っ・・・」
「大、丈夫か・・・・・・?」
目の前の紗己の表情に、思わず腰を浮かせて声を掛けるが、隣に移ることも出来ず向かい合ったままでオロオロするばかり。そんな土方を尻目に紗己はすぐ笑顔に切り替えた。
「平気です、全然平気ですから! ごめんなさい、話の腰折っちゃって・・・それで、どうしました?」
「いや・・・痛ェだろ、すまん・・・」
って、違う! どうして欲しいか訊くつもりだったんだろ!! いや、悪かったとは素直に思ってるし、これはこれでこの場では謝るのが当然っちゃァ当然なんだがあ゛ーもうどうすりゃいいんだ!!
結構な無表情で、心は意外とお喋りだ。
大人の男とは思えない情けなさだが、彼以外に男を知らない紗己は、クールに振舞う姿の裏側に気付くこともない。
「そんなには痛くないですよ、平気です」
「・・・・・・」
柔らかな笑みを湛える紗己を見て、土方の中にある良心が存在を主張してきた。
なんで「平気」とか言うんだよ、平気なわけねーだろ・・・・・・。
肉体はともかく、心が平気なわけがない。
紗己の心情を推し量ると心苦しくて、その胸の重石を少しでも軽くするために、土方は真実の一部を明かし懺悔する。
それが自分勝手な行為だとは気付きもせずに。
「あのな、こんなの言うのどうかとは思うんだが・・・悪ィ、酔っ払っちまってて・・・あん時の記憶ねーんだ・・・」
「・・・・・・」
紗己はすぐには何も言わなかったが、少しの間を置いてから、いいんですとだけ静かに答えた。
「いいわきゃねーだろ、俺ァ・・・」
言いかけて口を噤む。人違いで抱いただけなんだ――とでも言う気か、俺は?
いくらなんでもそれは言えない。人違いの相手が昔の女とまでは言わなくとも、どっちにしろこんなに気分の悪いことはないだろう。
ただただ楽になりたい一心だったが、少しだけまともな思考を取り戻す。
「夢・・・夢の中でその・・・してたつもりだったんだが・・・」
要点を省いたところで、やってしまったことに変わりはない。土方は言葉尻を濁してしまった。
しかし、聞かされた紗己は泣くわけでもなく怒るわけでもなく、見事なまでに落ち着き払っている。
向かい合い気まずそうにしている土方に対し、
「ストレス溜まってると、そういう夢見るって・・・聞いたことあるような気もします。大変なお仕事なんですね」
気遣うような表情で、ゆっくりとそう言った。
これには土方もただただ唖然とするばかりだ。
そこ!? 反応するのそこかよっ! 大体「聞いたことあるような気もする」ってなんだその微妙な記憶は、ただの思い込みじゃねーか! どんなけ気ィ遣ってくれてんだよ!!
土方には全くもって紗己の腹が読めない。
それもそのはずだ。端から無いものは読めやしない。紗己には何の魂胆もないのだから。