第五章
名前変換はこちら
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
――――――
「動き回ってて平気か、紗己」
心配、というよりはやや険しい表情をした土方が、茶を飲みながら言った。疲れもあるだろうし、紗己と二人きりではないということもあるのだろう。
だが紗己は、土方の表情を特に気にすることなく、
「はい、私は平気ですよ」
いつもと変わらない、柔らかな笑みで答えた。
正午前には屯所に戻ってきた紗己。帰ったら顔を見せるよう土方から言われていたため、早々に土方の部屋を訊ねたところ、書類仕事をしていた彼は紗己の帰宅に安心したように穏やかな表情を見せてくれたのだ。
まだ新しい記憶に頬を緩めていると、土方と共に休憩していた山崎が、湯呑み片手に話し掛けてきた。
「そうだ紗己ちゃん、花嫁衣装新調しなかったんだって?」
「はい。母が式の時に着たものを、父が先日送ってくれたんです」
「そっかー、いい親孝行じゃない。それにしても楽しみだなあ、紗己ちゃんの白無垢姿! ねえ副長!!」
「えっ!?」
いきなり同意を求められ、土方は驚きの声を上げた。そんな恥ずかしいことを訊かれたら、いつもなら何かしら口が勝手に動くだろうし、部下の言葉など軽く一蹴するだろう。
しかし、今は口が動く前に紗己の視線に気付いてしまった。まさか彼女の目の前で、照れ隠しとはいえつっけんどんな態度は取れない。
土方は紗己から一度目を逸らすと、開け放たれた障子の外と天井を交互に見て、大きな手で口元と頬を隠すようにひと撫でした。
「あー、いやまあ・・・」
ちらり紗己に視線を移すと、恥ずかしそうに言葉を続ける。
「・・・楽しみだよ」
「副長さん・・・」
紗己は感嘆の吐息を漏らし、嬉しそうに微笑んだ。その姿を見て、土方もまた目を細めている。
とても穏やかな空気に包まれている二人の様子に、山崎はまたも面白そうにニヤニヤとした笑いを浮かべた。
「ちょっとちょっと、何二人の世界に入り込んでんですかあー」
「え?」
「ばっ・・・何言って・・・」
「もおー、見てるこっちが照れちゃうじゃないですかー。こりゃあ今夜から精が出ますね、副長!」
非常に愉しげに、斜め向かいに座る土方をからかっている。だが、からかう相手が悪いということに、幾度痛い目に遭おうと気付くことはないらしい。
紗己がすぐ隣にいるのにも関わらず、部下に下ネタをお見舞いされた土方は、恥ずかしさが爆発したのか頭から湯気が噴出しているのかと見紛う程の真っ赤な顔をしている。すぐさま山崎に飛びかかると、襟ぐりを掴んでそのまま廊下に向かって放り投げた。
「あいたたた・・・痛ってぇ、何すんですか副長・・・」
床板にしたたか腰を打ち付けた山崎は、涙目で恨みがましく土方を見上げる。
「馬鹿なこと言ってんじゃねえっ!! テメーは片付けに精出してろっ」
仁王立ちの鬼の副長から発せられた怒声を一身に浴びた山崎は、廊下を転げるように逃げていった。
「・・・っとに、馬鹿かアイツは・・・・・・」
怒るのにもパワーを消費するのか、土方は疲れた顔で再び腰を下ろした。乾いた口内を潤すために、自身の湯呑みに手を伸ばして軽く茶を啜る。すると紗己が、山崎の湯呑みを盆に片しながら話し掛けてきた。
「あの、副長さん。さっき山崎さんが言ってた、精が出るって話ですけど・・・・・・」
「えっ、そ、それがどうかしたか!?」
まさか彼女がその話題について言及してくるとは思っていなかった土方は、驚きと気まずさから肩をびくっと上げて頬を引き攣らせた。
全く頭に無いと言えば嘘になるが、『ヤりたくてたまらない』と思われたとしたら心外だ。次に紗己が何と言うのか息を呑んで待っていると、彼女は少し困ったような表情で、それでも柔らかく微笑んだ。
「お仕事、大変だとは思いますけど、あんまり精を出しすぎて、無理しないでくださいね」
「・・・は、仕事? ・・・あぁ仕事! そうだそうだよ仕事だ仕事っ!!」
何も気付いていない紗己の発言を受けて、ホッとした土方は仕事を連呼した。ただ、その心中は複雑な模様だ。
まあ、別にいいっちゃいいんだが・・・ちょっとは意識して欲しいもんだ。
そう思いはするが、この鈍感さが彼女らしいと土方は胸中で呟く。そして、いつも通り自分に向けられる紗己の穏やかで柔らかな笑顔に、あの夜からずっと胸の奥が鈍く疼くのだ。
「動き回ってて平気か、紗己」
心配、というよりはやや険しい表情をした土方が、茶を飲みながら言った。疲れもあるだろうし、紗己と二人きりではないということもあるのだろう。
だが紗己は、土方の表情を特に気にすることなく、
「はい、私は平気ですよ」
いつもと変わらない、柔らかな笑みで答えた。
正午前には屯所に戻ってきた紗己。帰ったら顔を見せるよう土方から言われていたため、早々に土方の部屋を訊ねたところ、書類仕事をしていた彼は紗己の帰宅に安心したように穏やかな表情を見せてくれたのだ。
まだ新しい記憶に頬を緩めていると、土方と共に休憩していた山崎が、湯呑み片手に話し掛けてきた。
「そうだ紗己ちゃん、花嫁衣装新調しなかったんだって?」
「はい。母が式の時に着たものを、父が先日送ってくれたんです」
「そっかー、いい親孝行じゃない。それにしても楽しみだなあ、紗己ちゃんの白無垢姿! ねえ副長!!」
「えっ!?」
いきなり同意を求められ、土方は驚きの声を上げた。そんな恥ずかしいことを訊かれたら、いつもなら何かしら口が勝手に動くだろうし、部下の言葉など軽く一蹴するだろう。
しかし、今は口が動く前に紗己の視線に気付いてしまった。まさか彼女の目の前で、照れ隠しとはいえつっけんどんな態度は取れない。
土方は紗己から一度目を逸らすと、開け放たれた障子の外と天井を交互に見て、大きな手で口元と頬を隠すようにひと撫でした。
「あー、いやまあ・・・」
ちらり紗己に視線を移すと、恥ずかしそうに言葉を続ける。
「・・・楽しみだよ」
「副長さん・・・」
紗己は感嘆の吐息を漏らし、嬉しそうに微笑んだ。その姿を見て、土方もまた目を細めている。
とても穏やかな空気に包まれている二人の様子に、山崎はまたも面白そうにニヤニヤとした笑いを浮かべた。
「ちょっとちょっと、何二人の世界に入り込んでんですかあー」
「え?」
「ばっ・・・何言って・・・」
「もおー、見てるこっちが照れちゃうじゃないですかー。こりゃあ今夜から精が出ますね、副長!」
非常に愉しげに、斜め向かいに座る土方をからかっている。だが、からかう相手が悪いということに、幾度痛い目に遭おうと気付くことはないらしい。
紗己がすぐ隣にいるのにも関わらず、部下に下ネタをお見舞いされた土方は、恥ずかしさが爆発したのか頭から湯気が噴出しているのかと見紛う程の真っ赤な顔をしている。すぐさま山崎に飛びかかると、襟ぐりを掴んでそのまま廊下に向かって放り投げた。
「あいたたた・・・痛ってぇ、何すんですか副長・・・」
床板にしたたか腰を打ち付けた山崎は、涙目で恨みがましく土方を見上げる。
「馬鹿なこと言ってんじゃねえっ!! テメーは片付けに精出してろっ」
仁王立ちの鬼の副長から発せられた怒声を一身に浴びた山崎は、廊下を転げるように逃げていった。
「・・・っとに、馬鹿かアイツは・・・・・・」
怒るのにもパワーを消費するのか、土方は疲れた顔で再び腰を下ろした。乾いた口内を潤すために、自身の湯呑みに手を伸ばして軽く茶を啜る。すると紗己が、山崎の湯呑みを盆に片しながら話し掛けてきた。
「あの、副長さん。さっき山崎さんが言ってた、精が出るって話ですけど・・・・・・」
「えっ、そ、それがどうかしたか!?」
まさか彼女がその話題について言及してくるとは思っていなかった土方は、驚きと気まずさから肩をびくっと上げて頬を引き攣らせた。
全く頭に無いと言えば嘘になるが、『ヤりたくてたまらない』と思われたとしたら心外だ。次に紗己が何と言うのか息を呑んで待っていると、彼女は少し困ったような表情で、それでも柔らかく微笑んだ。
「お仕事、大変だとは思いますけど、あんまり精を出しすぎて、無理しないでくださいね」
「・・・は、仕事? ・・・あぁ仕事! そうだそうだよ仕事だ仕事っ!!」
何も気付いていない紗己の発言を受けて、ホッとした土方は仕事を連呼した。ただ、その心中は複雑な模様だ。
まあ、別にいいっちゃいいんだが・・・ちょっとは意識して欲しいもんだ。
そう思いはするが、この鈍感さが彼女らしいと土方は胸中で呟く。そして、いつも通り自分に向けられる紗己の穏やかで柔らかな笑顔に、あの夜からずっと胸の奥が鈍く疼くのだ。