第五章
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「なに、どうしたんだよ。何か気になることでもあんのか?」
「え? いえ、まああの、うーん・・・・・・」
紗己は、少し困ったような表情で言葉を濁す。
これはもしや、本当に何かあるのではと気になった銀時は、紗己が話しやすいように、出来るだけ穏やかな声音で話しを訊き出そうと試みる。
「なんだよそれ。いいから言ってみろって、話くらいならいくらでも聞いてやるよ。わざわざ糖分持ってきてくれたんだしな」
ニヤリと笑いながら、ケーキの入った紙袋をサッと掲げてみせる。
それに気が緩んだのか、紗己は頬にはらりとかかった肩までの長さの髪を耳に掛け、ぽつりぽつりと話し出した。
「副長さんの様子が、変というか・・・ちょっと気になるんです」 紗己の発言に、銀時は首を傾げて眉を寄せた。
「変? アイツは元々変だろ。食いモンにあんな殺人的デコレーションするのは、どう考えても正気の沙汰とは思えねーよ」
マヨネーズのことを思い出しているのだろう、嫌そうな酸っぱそうな顔をする。
そんな銀時にくすりと笑うも、頭の中に誰を思い浮かべたのか、紗己はやや複雑な面持ちだ。
「いや、まあ、それは確かに変わってはいますけど・・・違うんです。そうじゃなくて、もっとこう・・・表情っていうか・・・・・・」
うまくは言えないんですけど、と前置きをした上で言葉を繋げる。
「時々、すごく辛そうな顔をしてる気がして・・・・・・」
「辛そう? アイツがかァ?」
思いの外派手に驚いてしまい、声がひっくり返った。銀時には、紗己が言うところの『辛そうな土方』が全く想像出来ないのだ。
しかし紗己の様子は真剣そのもので、銀時のリアクションに特別な反応を見せることなく、淡々と記憶を辿っている。
「はい・・・実家から帰った日くらいから、そんなふうに気になりだして。どう思います、銀さん?」
唐突に意見を求められ困った銀時は、こめかみあたりを掻きながらうーんと唸った。
だが、今の話だけだとあまりに情報が少なく、これではアドバイスのしようがない。銀時はやや困惑した表情で、
「いや・・・どうって言われてもなあ。具体的に、どんなタイミングで、とかねえの?」
隣の紗己を一瞥して言った。
すると紗己は少し眉を寄せて、何かを思い出すようにゆっくりと話し出す。
「普通に話してる時とか、ふとした瞬間に、時々辛そうな顔をしてるんです。あとは、何となく見られてる気がして、振り向いたら・・・って時もあります」
「ふーん・・・・・・」
そういう時、お前はどういう反応するんだ?
訊こうと思ったが、どうせ彼女のことだからニコッと笑って、「どうかしました?」なんて訊いてるに違いないと思い、追求は止めておいた。
銀時は軽く吐息すると、ポキポキと首を鳴らして隣を歩く紗己の顔を軽く覗き込んだ。
「あんまりさあ、気にすんなよ。あれじゃねえ? お前、今マタニティブルーとマリッジブルーが重なって、きっと敏感になってんだよ」
土方の苦悶の表情の謎を解くよりも前に、もう紗己には苦しんで欲しくないし、彼女が無駄に悩む必要などない。
銀時の中でその気持ちが勝って、大したことではないと言いくるめにかかった。
そんな銀時の思慮にまでは気付かないものの、何かと頼りにしている銀時がそう言うのならそうなのかもしれない、と思い始めた紗己は、
「そうかな・・・」
伏し目がちにぽつり呟いた。
「そうそう、取り越し苦労ってこともあるんだしさ。お前は何も気にせずに、幸せに乗っかってりゃいいんだって」
良い方向に揺れ始めた紗己に、ここぞとばかりに畳み掛ける。
すると紗己の表情もだんだんといつもの穏やかなものに戻り、隣を歩く銀時を見つめ力強く頷いた。
「そう、ですね。うん、考え過ぎな気もしてきました!」
両手を胸の前に持っていき、握り拳を作って明るい声を出す。
「ありがとうございます、銀さん」
「おお」
企みに乗ってくれたと思っているわけではないが、もう彼女の涙を見たくなかった銀時は、自分の言葉を素直に信じてくれた紗己に一安心した。
それから彼女を屯所まで送る間も、また悩むことの無いようにと、他愛ない話だけを心掛けた。屯所の勝手口の少し手前で別れ、銀時は一人来た道を引き返す。
辛そう、ねえ。あの鈍感な紗己がそう思うくらいだから、相当分かりやすいんだろうが・・・・・・。
土方がどれだけ紗己を想っているか、傍から見ていても十分伝わってくる。
そのことには何の疑いも持たない。そして彼女の親にも許しを得て、式までもうあと一日。幸せ絶頂のはずだ。
だとすれば、何故紗己はあんなことを言ってきたのだろう。やはり彼女の気のせいではとも思う。
深い胸の内までは本人でないと分かるわけがない。
だが色々と思い巡らせるうちに、銀時の脳裏を一つの『可能性』が掠めた。
「・・・まさか、な」
今しがた浮かんだものを、声に出すことで否定する。紗己の涙も苦しむ姿も、もう見たくはないのだ。
「え? いえ、まああの、うーん・・・・・・」
紗己は、少し困ったような表情で言葉を濁す。
これはもしや、本当に何かあるのではと気になった銀時は、紗己が話しやすいように、出来るだけ穏やかな声音で話しを訊き出そうと試みる。
「なんだよそれ。いいから言ってみろって、話くらいならいくらでも聞いてやるよ。わざわざ糖分持ってきてくれたんだしな」
ニヤリと笑いながら、ケーキの入った紙袋をサッと掲げてみせる。
それに気が緩んだのか、紗己は頬にはらりとかかった肩までの長さの髪を耳に掛け、ぽつりぽつりと話し出した。
「副長さんの様子が、変というか・・・ちょっと気になるんです」 紗己の発言に、銀時は首を傾げて眉を寄せた。
「変? アイツは元々変だろ。食いモンにあんな殺人的デコレーションするのは、どう考えても正気の沙汰とは思えねーよ」
マヨネーズのことを思い出しているのだろう、嫌そうな酸っぱそうな顔をする。
そんな銀時にくすりと笑うも、頭の中に誰を思い浮かべたのか、紗己はやや複雑な面持ちだ。
「いや、まあ、それは確かに変わってはいますけど・・・違うんです。そうじゃなくて、もっとこう・・・表情っていうか・・・・・・」
うまくは言えないんですけど、と前置きをした上で言葉を繋げる。
「時々、すごく辛そうな顔をしてる気がして・・・・・・」
「辛そう? アイツがかァ?」
思いの外派手に驚いてしまい、声がひっくり返った。銀時には、紗己が言うところの『辛そうな土方』が全く想像出来ないのだ。
しかし紗己の様子は真剣そのもので、銀時のリアクションに特別な反応を見せることなく、淡々と記憶を辿っている。
「はい・・・実家から帰った日くらいから、そんなふうに気になりだして。どう思います、銀さん?」
唐突に意見を求められ困った銀時は、こめかみあたりを掻きながらうーんと唸った。
だが、今の話だけだとあまりに情報が少なく、これではアドバイスのしようがない。銀時はやや困惑した表情で、
「いや・・・どうって言われてもなあ。具体的に、どんなタイミングで、とかねえの?」
隣の紗己を一瞥して言った。
すると紗己は少し眉を寄せて、何かを思い出すようにゆっくりと話し出す。
「普通に話してる時とか、ふとした瞬間に、時々辛そうな顔をしてるんです。あとは、何となく見られてる気がして、振り向いたら・・・って時もあります」
「ふーん・・・・・・」
そういう時、お前はどういう反応するんだ?
訊こうと思ったが、どうせ彼女のことだからニコッと笑って、「どうかしました?」なんて訊いてるに違いないと思い、追求は止めておいた。
銀時は軽く吐息すると、ポキポキと首を鳴らして隣を歩く紗己の顔を軽く覗き込んだ。
「あんまりさあ、気にすんなよ。あれじゃねえ? お前、今マタニティブルーとマリッジブルーが重なって、きっと敏感になってんだよ」
土方の苦悶の表情の謎を解くよりも前に、もう紗己には苦しんで欲しくないし、彼女が無駄に悩む必要などない。
銀時の中でその気持ちが勝って、大したことではないと言いくるめにかかった。
そんな銀時の思慮にまでは気付かないものの、何かと頼りにしている銀時がそう言うのならそうなのかもしれない、と思い始めた紗己は、
「そうかな・・・」
伏し目がちにぽつり呟いた。
「そうそう、取り越し苦労ってこともあるんだしさ。お前は何も気にせずに、幸せに乗っかってりゃいいんだって」
良い方向に揺れ始めた紗己に、ここぞとばかりに畳み掛ける。
すると紗己の表情もだんだんといつもの穏やかなものに戻り、隣を歩く銀時を見つめ力強く頷いた。
「そう、ですね。うん、考え過ぎな気もしてきました!」
両手を胸の前に持っていき、握り拳を作って明るい声を出す。
「ありがとうございます、銀さん」
「おお」
企みに乗ってくれたと思っているわけではないが、もう彼女の涙を見たくなかった銀時は、自分の言葉を素直に信じてくれた紗己に一安心した。
それから彼女を屯所まで送る間も、また悩むことの無いようにと、他愛ない話だけを心掛けた。屯所の勝手口の少し手前で別れ、銀時は一人来た道を引き返す。
辛そう、ねえ。あの鈍感な紗己がそう思うくらいだから、相当分かりやすいんだろうが・・・・・・。
土方がどれだけ紗己を想っているか、傍から見ていても十分伝わってくる。
そのことには何の疑いも持たない。そして彼女の親にも許しを得て、式までもうあと一日。幸せ絶頂のはずだ。
だとすれば、何故紗己はあんなことを言ってきたのだろう。やはり彼女の気のせいではとも思う。
深い胸の内までは本人でないと分かるわけがない。
だが色々と思い巡らせるうちに、銀時の脳裏を一つの『可能性』が掠めた。
「・・・まさか、な」
今しがた浮かんだものを、声に出すことで否定する。紗己の涙も苦しむ姿も、もう見たくはないのだ。