第五章
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――――――
「くっそー、やっぱあそこで止めときゃ良かった・・・・・・」
悔しそうに呟くと、盛大に溜息をついた。
昼前の江戸はかぶき町。パチンコ屋の前で項垂れる、腰に木刀を携えた白髪頭の男が一人。
もう有り金も尽きたことだし、家に帰るか・・・と歩き出した時、背後から自分を呼ぶ声に足を止めた。
「銀さん!」
聞き覚えのある声に振り向くと、そこには紅葉が散りばめられた小紋に藤色の帯、薄緑の半纏を羽織り、紙袋を手にした、明るい笑顔の紗己が立っていた。
「おー紗己じゃねえか」
「良かった、会えて。今、万事屋に向かおうとしてたところだったんです」
紗己はそう言って銀時の前まで来ると、手にしていた紙袋をすっと差し出した。
「こないだのお礼です。皆さんで召し上がってください」
「お、ケーキじゃねェか! なんか悪ィなー、気ィ遣わせちまって」
見た目よりもずしりと重い紙袋を受け取り、中を一瞥してそれがケーキだとわかるやいなや、銀時は嬉しそうな顔を見せた。
その姿に紗己がふふっと笑みをこぼすと、銀時は彼女の頭に軽く手を乗せて言った。
「で、どうよ調子は」
「はい、ようやく出させてもらえました」
「え、出させてもらったって・・・何? お前監禁でもされてたの?」
単に挨拶として訊いたのに、思いがけない紗己の言葉に銀時は訝しげな顔をする。それを受けて紗己は「まさか、違います」と笑った。
「ここ三日間、体調崩してたんです。だから、外出も副長さんに止められてて。今日は体調良くなったんで、短い時間ならって」
「ふーん、まあ回復したんならいいけど。しっかし、あのマヨネーズ馬鹿も過保護だねェ。お許しが出なきゃ外に出れないとか、お前嫌になんないの?」
そう言いながら、寝込む紗己のそばに張り付いている、過保護な土方を想像してみる。
今日の外出にしても、きっと渋々了承したに違いない。
その想像がやけにしっくりきて、銀時は半笑いで紗己を一瞥した。
そんな銀時の表情の意味には気付かないが、紗己はくすくすと笑いながら彼の問いに答える。
「闇雲にそんなことを言ってるんじゃないって、分かってますから」
「なんだよ、ラブラブじゃねーか」
嬉しそうに微笑む紗己に安心すると、銀時は腕を頭の後ろに組んで、ゆっくりと歩き出した。
実家から帰京して二日後、溜まっていた疲れが出たのだろうか、紗己は体調を崩し寝込んでしまった。
とにかくつわりが重く、まともに食べられたのは果物とアイスクリームだけ。
これに心配した土方は、すぐに医者を呼んで紗己を診てもらい、時間の許す限り彼女の部屋を訪れ見舞った。
その過保護ぶりはなかなかのもので、紗己が寝込んだ初日はあまりの心配から、自身の文机を彼女の部屋に持ち込み、そこでしばらく書類仕事をしていたくらいだ。
銀時の想像も、あながち外れてはいなかった。
兎にも角にも、土方の指示に従い、昨日まで三日間はずっと安静にしていた紗己。
本来ならば、何かと世話になった銀時にはすぐにでも礼がしたかったのだが、帰省や体調不良も重なり、結局二週間経ってからの近況報告となった。
――――――
銀時と紗己の二人は、ゆっくりとした歩調で会話を楽しみながら、真選組の屯所方面へと歩いていた。
外出する際、「疲れないように、短時間なら」と、紗己の外出を渋々了承した土方。紗己も土方を心配させるのは本意ではないので、行きは体力温存と時間短縮のため、籠屋を使ってかぶき町に出向いたのだ。
ここでも、土方が渋々了承したという銀時の想像は当たっていた。
隣を歩く紗己から近況報告を受けた銀時は、彼女が幸せであることに安堵しつつ、そこに付随する土方の話に興味津々だ。
「そっか、お前の実家に帰ってたか。アイツが結婚の挨拶ねー・・・くくッ」
想像だけで笑えるぜと言って、喉を鳴らして笑っている。
隣を歩く銀時のやけに愉しそうな様子に、紗己は不思議そうな顔を見せた。
「そんなに変ですか? 副長さん、すごい普通でしたよ?」
「その『普通』ってのが、かえっておもしれーんだよ」
ニヤニヤとひとしきり想像を楽しんで、ようやくすっきりしたのか、銀時は話題を変えた。
「んで、式は明日か。良かったじゃねーか、幸せ街道まっしぐらだねェ、紗己ちゃん」
心から彼女の幸せを喜ばしく思っているのだが、少し気恥ずかしい銀時は、わざとおどけた言い方をしてみせた。
そんな銀時の姿に笑顔を見せる紗己だったが、その笑顔がふと曇った気がして、銀時はそれが自分の気のせいであるようにと思いながら、紗己に問い掛けた。
「くっそー、やっぱあそこで止めときゃ良かった・・・・・・」
悔しそうに呟くと、盛大に溜息をついた。
昼前の江戸はかぶき町。パチンコ屋の前で項垂れる、腰に木刀を携えた白髪頭の男が一人。
もう有り金も尽きたことだし、家に帰るか・・・と歩き出した時、背後から自分を呼ぶ声に足を止めた。
「銀さん!」
聞き覚えのある声に振り向くと、そこには紅葉が散りばめられた小紋に藤色の帯、薄緑の半纏を羽織り、紙袋を手にした、明るい笑顔の紗己が立っていた。
「おー紗己じゃねえか」
「良かった、会えて。今、万事屋に向かおうとしてたところだったんです」
紗己はそう言って銀時の前まで来ると、手にしていた紙袋をすっと差し出した。
「こないだのお礼です。皆さんで召し上がってください」
「お、ケーキじゃねェか! なんか悪ィなー、気ィ遣わせちまって」
見た目よりもずしりと重い紙袋を受け取り、中を一瞥してそれがケーキだとわかるやいなや、銀時は嬉しそうな顔を見せた。
その姿に紗己がふふっと笑みをこぼすと、銀時は彼女の頭に軽く手を乗せて言った。
「で、どうよ調子は」
「はい、ようやく出させてもらえました」
「え、出させてもらったって・・・何? お前監禁でもされてたの?」
単に挨拶として訊いたのに、思いがけない紗己の言葉に銀時は訝しげな顔をする。それを受けて紗己は「まさか、違います」と笑った。
「ここ三日間、体調崩してたんです。だから、外出も副長さんに止められてて。今日は体調良くなったんで、短い時間ならって」
「ふーん、まあ回復したんならいいけど。しっかし、あのマヨネーズ馬鹿も過保護だねェ。お許しが出なきゃ外に出れないとか、お前嫌になんないの?」
そう言いながら、寝込む紗己のそばに張り付いている、過保護な土方を想像してみる。
今日の外出にしても、きっと渋々了承したに違いない。
その想像がやけにしっくりきて、銀時は半笑いで紗己を一瞥した。
そんな銀時の表情の意味には気付かないが、紗己はくすくすと笑いながら彼の問いに答える。
「闇雲にそんなことを言ってるんじゃないって、分かってますから」
「なんだよ、ラブラブじゃねーか」
嬉しそうに微笑む紗己に安心すると、銀時は腕を頭の後ろに組んで、ゆっくりと歩き出した。
実家から帰京して二日後、溜まっていた疲れが出たのだろうか、紗己は体調を崩し寝込んでしまった。
とにかくつわりが重く、まともに食べられたのは果物とアイスクリームだけ。
これに心配した土方は、すぐに医者を呼んで紗己を診てもらい、時間の許す限り彼女の部屋を訪れ見舞った。
その過保護ぶりはなかなかのもので、紗己が寝込んだ初日はあまりの心配から、自身の文机を彼女の部屋に持ち込み、そこでしばらく書類仕事をしていたくらいだ。
銀時の想像も、あながち外れてはいなかった。
兎にも角にも、土方の指示に従い、昨日まで三日間はずっと安静にしていた紗己。
本来ならば、何かと世話になった銀時にはすぐにでも礼がしたかったのだが、帰省や体調不良も重なり、結局二週間経ってからの近況報告となった。
――――――
銀時と紗己の二人は、ゆっくりとした歩調で会話を楽しみながら、真選組の屯所方面へと歩いていた。
外出する際、「疲れないように、短時間なら」と、紗己の外出を渋々了承した土方。紗己も土方を心配させるのは本意ではないので、行きは体力温存と時間短縮のため、籠屋を使ってかぶき町に出向いたのだ。
ここでも、土方が渋々了承したという銀時の想像は当たっていた。
隣を歩く紗己から近況報告を受けた銀時は、彼女が幸せであることに安堵しつつ、そこに付随する土方の話に興味津々だ。
「そっか、お前の実家に帰ってたか。アイツが結婚の挨拶ねー・・・くくッ」
想像だけで笑えるぜと言って、喉を鳴らして笑っている。
隣を歩く銀時のやけに愉しそうな様子に、紗己は不思議そうな顔を見せた。
「そんなに変ですか? 副長さん、すごい普通でしたよ?」
「その『普通』ってのが、かえっておもしれーんだよ」
ニヤニヤとひとしきり想像を楽しんで、ようやくすっきりしたのか、銀時は話題を変えた。
「んで、式は明日か。良かったじゃねーか、幸せ街道まっしぐらだねェ、紗己ちゃん」
心から彼女の幸せを喜ばしく思っているのだが、少し気恥ずかしい銀時は、わざとおどけた言い方をしてみせた。
そんな銀時の姿に笑顔を見せる紗己だったが、その笑顔がふと曇った気がして、銀時はそれが自分の気のせいであるようにと思いながら、紗己に問い掛けた。