序章
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そう広くもないあたりが不思議と落ち着く、こじんまりとした部屋。掃除も行き届いている。
土方は入口に立ったまま、鋭い眼差しで部屋の中を観察する。そこへ紗己が、座布団を用意して「どうぞ」と言った。
「ああ」
返事をしながら出された座布団に腰を下ろすと、その反動で煙草の灰がぽとりと畳に落ちた。
「あ・・・すまん」
言いながら、落ちた灰を指で掬い取る。
いつもはポケットに入れている携帯灰皿を、一旦自室に戻った際に置き忘れてきたことを今になって思い出す。
土方は咥えている煙草をこれ以上部屋を汚さないようにと上向きにして、灰皿はないかと周囲を見回した。
「ごめんなさい、灰皿の用意がなくて・・・これ、使ってください」
用意していなくて当然なのに、紗己は申し訳なさそうに謝罪をすると、鏡台の上にあった陶器の器を差し出した。
「いいのか、これ駄目になっちまうぞ」
「大丈夫です、かんざし入れにしているだけですから」
そう言って再度器に手を添えると、土方の方に軽く押した。
「・・・そうか、悪ィな」
どのみち困っていたのだ。土方は遠慮なく器の底に煙草を押し付けた。
やはりと言うべきか、嫌な静寂が流れている。
気を紛らすべく土方が湯呑みに手を伸ばすと、紗己も同じく湯呑みを手にしたところだった。
土方は適温の茶を啜ると、この空気を打破するために思い切って口を開く。
「あ・・・っ「あー・・・」
ここでもまた被ってしまう。どうやら行動パターンが同じらしい。
「あ、ああのっどうぞお先に!」
「ああいや・・・あー、そのなんだ・・・」
しどろもどろになりつつも、この一言を伝えるためにここに来たのだと、土方は己を奮い立たせる。
「・・・悪かったな」
言わなければいけないと、今日一日思い続けていた言葉を何とか絞り出した。
一方の紗己は、ピクッと肩を震わせて俯く。
「あ・・・いえ・・・・・・」
きっと謝られるだろうとは思っていた。だが実際に謝罪されると、何となく気持ちが沈んでしまう。
そんな彼女の心情を知る由もない土方は、当然の如く謝罪の言葉を続ける。
「俺の顔なんて見たくねーだろうけど、どうしても昨夜のこと謝りたくてな・・・」
「えっ?」
ぽつり呟いた土方の言葉に、紗己は俯いていた顔を勢いよくぱっと上げた。
(『え?』・・・って、え?)
紗己の口からこぼれた疑問符に、土方は怪訝な顔をする。
「・・・だから、俺の面なんて見たくねーから朝から逃げ回ってたんだろ・・・・・・?」
不機嫌そうにそっぽを向いて言い放つ土方に、紗己は必死に首を横に振った。
「え・・・って違っ、そうじゃないです!」
「え?」
「・・・そうじゃないんです、副長さんの顔を見たくないとか、そんなのじゃなくて、その・・・恥ずかしくて・・・・・・。だから、顔見たくないとか、そんなのないです!」
「お、おう、そうか・・・」
力説する紗己の姿に圧倒されながらも、土方は少しだけほっとした。
良かった、そこまで嫌われてなかったか。
そう思った次の瞬間。土方は今しがた胸に過ぎった感情を全否定したくなった。
ちょ・・・なんで安心してんだよ俺! 別に嫌われてても構わねえだろっ、ああ全っ然構わねえ!!
勘違いで寝ぼけてしかも人違いで抱いた女なんだから、嫌われてて当然だしむしろその方が気が楽だろう。
冷静に考えると、そうなのだ。けれど、何故か冷静ではない方の自分が前面に出てしまっている。
得体の知れない感情に操られまいと、土方は煙草の箱から新たに一本取り出そうとした。
しかし力みすぎて手元が狂い、一気に数本が畳に散らばってしまった。なんかもう、最悪だ。
土方は入口に立ったまま、鋭い眼差しで部屋の中を観察する。そこへ紗己が、座布団を用意して「どうぞ」と言った。
「ああ」
返事をしながら出された座布団に腰を下ろすと、その反動で煙草の灰がぽとりと畳に落ちた。
「あ・・・すまん」
言いながら、落ちた灰を指で掬い取る。
いつもはポケットに入れている携帯灰皿を、一旦自室に戻った際に置き忘れてきたことを今になって思い出す。
土方は咥えている煙草をこれ以上部屋を汚さないようにと上向きにして、灰皿はないかと周囲を見回した。
「ごめんなさい、灰皿の用意がなくて・・・これ、使ってください」
用意していなくて当然なのに、紗己は申し訳なさそうに謝罪をすると、鏡台の上にあった陶器の器を差し出した。
「いいのか、これ駄目になっちまうぞ」
「大丈夫です、かんざし入れにしているだけですから」
そう言って再度器に手を添えると、土方の方に軽く押した。
「・・・そうか、悪ィな」
どのみち困っていたのだ。土方は遠慮なく器の底に煙草を押し付けた。
やはりと言うべきか、嫌な静寂が流れている。
気を紛らすべく土方が湯呑みに手を伸ばすと、紗己も同じく湯呑みを手にしたところだった。
土方は適温の茶を啜ると、この空気を打破するために思い切って口を開く。
「あ・・・っ「あー・・・」
ここでもまた被ってしまう。どうやら行動パターンが同じらしい。
「あ、ああのっどうぞお先に!」
「ああいや・・・あー、そのなんだ・・・」
しどろもどろになりつつも、この一言を伝えるためにここに来たのだと、土方は己を奮い立たせる。
「・・・悪かったな」
言わなければいけないと、今日一日思い続けていた言葉を何とか絞り出した。
一方の紗己は、ピクッと肩を震わせて俯く。
「あ・・・いえ・・・・・・」
きっと謝られるだろうとは思っていた。だが実際に謝罪されると、何となく気持ちが沈んでしまう。
そんな彼女の心情を知る由もない土方は、当然の如く謝罪の言葉を続ける。
「俺の顔なんて見たくねーだろうけど、どうしても昨夜のこと謝りたくてな・・・」
「えっ?」
ぽつり呟いた土方の言葉に、紗己は俯いていた顔を勢いよくぱっと上げた。
(『え?』・・・って、え?)
紗己の口からこぼれた疑問符に、土方は怪訝な顔をする。
「・・・だから、俺の面なんて見たくねーから朝から逃げ回ってたんだろ・・・・・・?」
不機嫌そうにそっぽを向いて言い放つ土方に、紗己は必死に首を横に振った。
「え・・・って違っ、そうじゃないです!」
「え?」
「・・・そうじゃないんです、副長さんの顔を見たくないとか、そんなのじゃなくて、その・・・恥ずかしくて・・・・・・。だから、顔見たくないとか、そんなのないです!」
「お、おう、そうか・・・」
力説する紗己の姿に圧倒されながらも、土方は少しだけほっとした。
良かった、そこまで嫌われてなかったか。
そう思った次の瞬間。土方は今しがた胸に過ぎった感情を全否定したくなった。
ちょ・・・なんで安心してんだよ俺! 別に嫌われてても構わねえだろっ、ああ全っ然構わねえ!!
勘違いで寝ぼけてしかも人違いで抱いた女なんだから、嫌われてて当然だしむしろその方が気が楽だろう。
冷静に考えると、そうなのだ。けれど、何故か冷静ではない方の自分が前面に出てしまっている。
得体の知れない感情に操られまいと、土方は煙草の箱から新たに一本取り出そうとした。
しかし力みすぎて手元が狂い、一気に数本が畳に散らばってしまった。なんかもう、最悪だ。