序章
名前変換はこちら
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
――――――
くっそ、かったりーな。口中で呟きながら、自販機のボタンを乱暴に押す。
土方は黒い背中を曲げて購入したばかりの煙草を掴み取ると、待機しているパトカーに乗り込んだ。
「あ、副長。今無線で連絡あって、沖田さんが見回り中に姿消したってんで、見つけたら連れ帰るようにって局長が」
ハンドルを握ったまま、共に巡回中の山崎が声を掛けてきた。
「ああ? んなもんいつもの事じゃねーか、ほっとけ」
封を切ると、引っ張り出した最初の一本を咥えながら答える。非常に面倒くさそうに。
「ここ何日か、沖田隊長様子が変だったからなあ」
車を発進させると、山崎は特に疑問符をつけるでもなく小さく呟いた。
そういや、確かに変だったか。知ってはいたが、気に掛けてやれる程俺も余裕ねえからな。
「ほっとけ・・・」
窓の外に顔を向けて、流れる町並みに溜息と共に紫煙を吐き出す。掠れた声が自分の耳にも届いて、土方は何だかやりきれない気分になった。
失ったものは二度と元には戻らない。大切なもの程この手から零れ落ちていく。
『人斬り集団』と揶揄される自分達だからこそ、きっと求めてはならない領分というのがあるのだろう。
流れる景色の中、通りを歩く家族連れが目に留まり、ふとそんな事を思ってしまった。
俺にしちゃァ良い人生だろ。刀振り回して生きてられんだからよ。
土方は煙草を咥えたまま苦笑いを浮かべ、現在 の自分を胸中で肯定した。
己で選んだ道だ。何一つ後悔など無いし、過去を振り返る気などさらさらない。けれど――
(アイツにとってはたった一人の肉親の命日だ。そりゃァ様子もおかしくなんだろうよ)
勤務中に姿を消した沖田の心境を珍しく慮るのも、普段ならば考えもしない事がこうも胸を過っていくのも、やはり今日が土方にとっても特別な日だからなのだろう。
そしてそんな気持ちを悟られないように、昨日まではいつも通り『鬼の副長』をやってきたのだ。
そう、昨日までは――。
――――――
(あー・・・ちょっと飲み過ぎたか)
ふらふらと見事な千鳥足で門をくぐり、宙を歩くような感覚で玄関まで何とか辿り着いた土方だったが、屯所に戻って来たことに安心したのか、部屋に行き着く前に強烈な睡魔が襲ってきた。
今にも落ちてしまいそうな眠気に負けじと、覚束ない足取りで自室へ向かう。
だが、目的地まであと僅かというところで力尽きてしまった土方は、自室前の縁側に寝そべりぼんやりと虚空を眺める。
「もう一年か・・・」
言いながら胸のポケットを探るが、欲している代物は見つからない。
そういや、さっきの店で全部吸っちまったな。あー、部屋に行きゃァあったか。
立ち上がるのも億劫で、そのまま這って行こうかとも思うが、酔いが回りすぎて身体が言うことを聞かない。
だんだんと全ての事が面倒になり、土方は四肢から力を完全に抜ききった。
(おいミツバ――お前これからずっと年に一回こんな深酒させる気か?)
ゆっくりと瞳を閉じると、思い出す事でしか逢えない人物に悪態をつく。
こっちは明日も朝から仕事なんだよ、絶対これひどい二日酔いになるってマジで。ああ? 何笑ってんだよ、見てないでこっち来いよ・・・。
「・・・さん、駄目ですよ・・・こんな所で寝ちゃ・・・」
お、なんだ本当に来たのか・・・ってんなわけねえか。はっ・・・俺ァ随分都合いい夢見てんな。
「今布団敷きますからね」
・・・夢でまで世話焼いてんのかよ。お前らしいな、こういうところが。
「さっ、寝るならこっちで・・・きゃっ」
なあミツバ――お前これからずっと年に一回深酒させた上に、こんなに悶々とした気分にさせる気か?
そりゃねえだろ、いくら俺がひでェことしてきたからって、この仕打ちはねえだろ。
「ちょ・・・待って・・・・・・さん・・・っ」
待たねーよ、これ俺の夢なんだから。
「・・・さん・・・・・・」
ああ心配すんな、自分勝手にはしねえよ――。
くっそ、かったりーな。口中で呟きながら、自販機のボタンを乱暴に押す。
土方は黒い背中を曲げて購入したばかりの煙草を掴み取ると、待機しているパトカーに乗り込んだ。
「あ、副長。今無線で連絡あって、沖田さんが見回り中に姿消したってんで、見つけたら連れ帰るようにって局長が」
ハンドルを握ったまま、共に巡回中の山崎が声を掛けてきた。
「ああ? んなもんいつもの事じゃねーか、ほっとけ」
封を切ると、引っ張り出した最初の一本を咥えながら答える。非常に面倒くさそうに。
「ここ何日か、沖田隊長様子が変だったからなあ」
車を発進させると、山崎は特に疑問符をつけるでもなく小さく呟いた。
そういや、確かに変だったか。知ってはいたが、気に掛けてやれる程俺も余裕ねえからな。
「ほっとけ・・・」
窓の外に顔を向けて、流れる町並みに溜息と共に紫煙を吐き出す。掠れた声が自分の耳にも届いて、土方は何だかやりきれない気分になった。
失ったものは二度と元には戻らない。大切なもの程この手から零れ落ちていく。
『人斬り集団』と揶揄される自分達だからこそ、きっと求めてはならない領分というのがあるのだろう。
流れる景色の中、通りを歩く家族連れが目に留まり、ふとそんな事を思ってしまった。
俺にしちゃァ良い人生だろ。刀振り回して生きてられんだからよ。
土方は煙草を咥えたまま苦笑いを浮かべ、
己で選んだ道だ。何一つ後悔など無いし、過去を振り返る気などさらさらない。けれど――
(アイツにとってはたった一人の肉親の命日だ。そりゃァ様子もおかしくなんだろうよ)
勤務中に姿を消した沖田の心境を珍しく慮るのも、普段ならば考えもしない事がこうも胸を過っていくのも、やはり今日が土方にとっても特別な日だからなのだろう。
そしてそんな気持ちを悟られないように、昨日まではいつも通り『鬼の副長』をやってきたのだ。
そう、昨日までは――。
――――――
(あー・・・ちょっと飲み過ぎたか)
ふらふらと見事な千鳥足で門をくぐり、宙を歩くような感覚で玄関まで何とか辿り着いた土方だったが、屯所に戻って来たことに安心したのか、部屋に行き着く前に強烈な睡魔が襲ってきた。
今にも落ちてしまいそうな眠気に負けじと、覚束ない足取りで自室へ向かう。
だが、目的地まであと僅かというところで力尽きてしまった土方は、自室前の縁側に寝そべりぼんやりと虚空を眺める。
「もう一年か・・・」
言いながら胸のポケットを探るが、欲している代物は見つからない。
そういや、さっきの店で全部吸っちまったな。あー、部屋に行きゃァあったか。
立ち上がるのも億劫で、そのまま這って行こうかとも思うが、酔いが回りすぎて身体が言うことを聞かない。
だんだんと全ての事が面倒になり、土方は四肢から力を完全に抜ききった。
(おいミツバ――お前これからずっと年に一回こんな深酒させる気か?)
ゆっくりと瞳を閉じると、思い出す事でしか逢えない人物に悪態をつく。
こっちは明日も朝から仕事なんだよ、絶対これひどい二日酔いになるってマジで。ああ? 何笑ってんだよ、見てないでこっち来いよ・・・。
「・・・さん、駄目ですよ・・・こんな所で寝ちゃ・・・」
お、なんだ本当に来たのか・・・ってんなわけねえか。はっ・・・俺ァ随分都合いい夢見てんな。
「今布団敷きますからね」
・・・夢でまで世話焼いてんのかよ。お前らしいな、こういうところが。
「さっ、寝るならこっちで・・・きゃっ」
なあミツバ――お前これからずっと年に一回深酒させた上に、こんなに悶々とした気分にさせる気か?
そりゃねえだろ、いくら俺がひでェことしてきたからって、この仕打ちはねえだろ。
「ちょ・・・待って・・・・・・さん・・・っ」
待たねーよ、これ俺の夢なんだから。
「・・・さん・・・・・・」
ああ心配すんな、自分勝手にはしねえよ――。
1/14ページ