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2007年9月


「随分と勝手を言ってくれるな」

「さーせん」

平坦な声に肩を竦め、謝罪を口にしつつもぺろっと舌を出す大堰にため息しか出ない。

「世那が任務を手伝ってくれるのなら有り難い話だけど、犠牲になるのは話が違う」

交渉は夜蛾個人では決定権が足りないため、持ち帰りということになった。
任務の振り分けについては夜蛾にも思うところがあったようで多少は改善されるだろう。しかし、大堰には上層部からの招集がかかる可能性が伝えられた。

「犠牲じゃねえよ」

「それなら、カードってどういう意味だ」

「それを聞くー?」

「教えてくれるだろ?」

「うー…」

「唸ってもダメだよ」

「チッ」

頭ひとつ分以上大きい夏油に詰め寄られ、壁に縋り付く。
気のある異性ならば心が高鳴るところなのだろうが、生憎そんな気などカケラもない大堰の心臓は全くもって違う意味で早鐘を打つ。

「高専の爺さんたちはオレの術式が欲しいんだと」

「結界術式を、なぜ?」

「保険」

結界は術師の中では珍しいものではない。
しかし、術式となると話は変わる。
結界術式の最高峰を司るのは、高専における守りの要。

「天元様…」

「それ以上言ってくれるなよ、コレだって縛りギリギリなんだ」

芝居めかした言い方に夏油は眉を顰める。

「高専はオレを手元に置く代わりにアイヌに呪霊やら呪物やらの情報を渡す。
アイヌはうちを手放す代わりに高専の内情が手に入る。
win-winってわけだ」

「生贄と変わらない」

「かわる。全然ちげぇよ。
オレはここに来れてよかった。だって、此処にはお前らがいる」

けらけらと笑い声をあげる大堰は、珍しく満遍の笑みを浮かべていた。
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