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2007年9月

談話室で優雅に紫煙を焚いていた家入は、同期たちが引き連れた幼児に目を丸くした。
各々の顔を順に見つめ、火をつけたばかりと思しき長さの煙草を携帯灰皿に突っ込むと胡乱げな目でため息をついた。

「誰がやらかした」

「可能性があるとしたら傑だろ」

「酷い濡れ衣だ」

などという茶番は置いておいて、

「とりあえず、昨日の報告に行く間、この子らのことを頼みたいんすわ」

「俺は?」

「治療も簡単にしかしてやれてねえしさ」

「私からも頼むよ、硝子」

「ねえ、俺は!?」

「うるっせえぞ悟!」

大堰と夏油に隠れるように様子を伺っていた双子を前に押し出すと恥ずかしそうにしてはいたが嫌がる素振りは見せなかった。
村の人間たちに怯える姿から大人が恐怖の対象になっている可能性を考えていたのだが、そうでもないらしい。
いや、単純に大堰たちの世代が大人と認識されていない可能性もある。それはそれで怯えられないのならばいい。

「菜々子、美々子、この人は硝子さん。優しい人
あっちは悟。うるせえ壁だ」

「相変わらずざっくりな説明だな」

ざっくりと言われましても、この界隈の人間を紹介するのは難しいのだ。
家のこととか、術式のこととか…
面倒くさいから全員自己紹介してくれないかな。

「硝子ちゃん」

菜々子か美々子か、どちらの呟きかわからないが、一瞬で室内が静まり返る。
全員の視線が集中する中、家入は懐から棒付きの飴を二つ取り出した。

「まずは治療からだな。
女の子の顔に傷をつけるなんて、一体何処のクズ野郎の仕業だ」

「ああ、それはもう対処した」

「はあ?!」

なにか不味い事を言っただろうか。
夏油に叩かれ、五条に詰め寄られても自覚のない大堰は叩かれた頭をさすりながら不満げに口を尖らせた。

「1人につき一箱な」

「私と世那で合計4箱だな」

「後払いで」

「はいはい」

不貞腐れた五条を放置して大堰は報告とその後の計画を組み立てる。

「帰ってくる?」

「すぐ戻ってきてくれますか?」

大堰と夏油のズボンの裾を引く頼りない力、2人を見上げる揺らぐ2対の瞳には、十分過ぎるほどに覚えがあった。

「おう」

「もちろん」
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