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2007年9月

「どうして」

眼下に広がる村は大騒ぎだ。
なにせ閉じ込めていたはずのものが目の前から"急に"居なくなったのだから、村中ひっくり返すような大捕物が繰り広げられている。
上空から見下ろすと小さな灯りが散らばって蠢く様はさながら羽虫の群れだ。

「あ?なにが?」

「…君らしくなかった」

空中に固定された世那の結界の中、夏油の両腕には檻の中にいた少女たちが疲れたように眠っている。

「だって、傑はアイツらを殺したかったんだろ?
確かにどうでも良かったけどさ、友達が人殺しになる瞬間なんざ見たくねえし、こんなちっせえガキにんな姿見せたくもねえ。
オレの親友たちは強えんだって自慢してたいから、かな?」

オレ、結構自分勝手だな。
零れたのはそんな事カケラも思ってもいなそうな平坦な声だった。

「前にも言ったけどさ、吐き出したかったら吐いていいんだぜ?
弱音とか恨み節とかさ溜めてたって気分悪くなるだけだろ」

出会った頃と変わらない、見ていないようで腹の底まで見透かされているような目が苦手だった。
それでも、その目が自分を写していないと足が浮いているような所在の無さを感じるようになったのはいつ頃からだっただろうか。

「オレはさ、お前らより弱いよ。
だから悟と並べられて"最強"背負わされてる傑にどんな重圧が掛かってんのかなんざわかんねえよ。でもさ、…なんつーのかなー」

ガリガリと頭部を掻く仕草。

「…傑がさ、非術師を鏖殺したいとか言っても、オレは別にいいと思うんだわ」

予想だにしなかった台詞に危うく少女たちを落としかけた。

「たださ、どっか行っちまうのが嫌なんだよな…
悟が1人で最強でもいい
硝子さんが他と違う道を行くでもいい
傑が非術師を嫌いで殺したくてもいい
オレは全部肯定するし賛同する。
でも、頼むから、オレのそばからいなくならないで…」

初めて聞いた大堰の本音だったと思う。

「世那、私は…」

「帰るか」

背伸びをしながら立ち上がった大堰がいつもと同じ、やる気の抜け落ちた死んだ魚の目をしていたから、
さっきまでの悲痛な声は幻だったのでは無いかと、一瞬本気で疑った。

「帰ってから、あったかいもんでも飲みながら話そうぜ」

「…冷たいものがいいかな」

「やっぱ?まだまだあっついもんなー」
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