このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

2007年9月

檻の錠を起点に出来る限り出力を絞ったつもりだったのだが、古ぼけた錠と一緒に檻も一部吹き飛んだ。
突然の爆発に驚き、お互いを守る様に小さくなった子供たちをみて頭をかく。

「あれま、やりすぎちまった…
えーっと、来るのが遅くなってごめんな。もう大丈夫だよー」

思い描いていたのはかつての恩人の姿だった。
暖かくて、優しくて、差し出された手を掴みたくなる様な安心感のある、そんな姿だったのだが…
慣れないことをするとどうしようも無い胡散臭さが付き纏うものだ。
お互いの顔と、砕けた檻の入り口でかがみ込んだ大堰の顔を交互に見た少女たちはジリジリと檻の奥に下がっていく。

「だよなー急に信用しろとか難しいよな…
んで、お前いつまでんなおっかねえ顔してんの?」

ガキどもが怯えてんぞ。
振り返ると表情の抜け落ちた夏油の後ろに不可視の壁に群がる有象無象が見えた。
聞こえなければ多少はマシかと思ったのだが、聞こえなくても鬱陶しい奴らだ。

「なあ傑、アイツら、殺したい?
オレたち内側だから、一瞬で消せるぜ?」

大堰の記憶が正しければ、夏油は弱者は守るものだとかなんとか言っていたはずだ。それなのに、今の夏油からは殺意に近いものを感じる。

命に貴賎はないとか言うけど、優劣は存在する。
あくまで大堰の持論だが、知らない非術師より身近な友人。天秤が傾くのは必至だろう。

「やる?やっちゃう?
爆結でどっかーんって、簡単だぜ」

「…この子達に見せるわけにはいかないよ」

「ああ、それもそうか」

今ここで術式反転を行えば、間違いなく子供に見せれる光景ではなくなるだろう。
掃除も面倒だし、窓からの苦言も多くなりそうだ。

「なあオレたちと一緒に行こう。
世の中理不尽ばっかでクソみたいな奴も山ほどいるけどさ、ここよかマシだぜ。多分な」

だから、おいで。
呼びかけると顔を見合わせておずおずと檻から出てきた。

「そうそう、ちゃんと手握ってな。
ついでにそこの兄ちゃんの手も握っといてくれな。顔は怖えしでけえけど優しいから大丈夫だぜ」

「…抽象的すぎないか」

「あ?間違ってねえだろ
おら行くぞ」

元々張っていた結界に視覚遮断を付与し、足元に新たに結界を広げる。
エレベーターの要領で上空に跳ね上げると、少女たちから悲鳴のような歓喜のような声が聞こえてきた。

ガキは無邪気な方がいいよな。
2/10ページ
スキ