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2007年8月

目的地でもあった自動販売機の前に夏油はいた。
そして、その隣に見知らぬ女性もいた。
大堰は別に人見知りというわけではないのだが、

(空気おっも!)

距離があり何を話しているのかは聞き取れないが、絶対に重い話をしている。
会話に入りたくない。しかし夏油に絡みに行きたい。
柱の影に隠れて葛藤していると、不意に女性と目があってしまった。

「世那?」

「おー…おつかれー」

女性の視線を辿った夏油に気づかれ、隠れていられなくなってしまった。
何事もなかった様に装って当初の予定通りパックジュースを購入し迷った末、女性とは反対側の夏油の隣に腰を下ろした。
大堰の存在に気づいた瞬間、夏油の目に恐怖とも罪悪感とも取れる揺らぎが見えたのは気のせいだったのだと頭の隅に追いやる。

「お疲れ様、どうしたの?」

「なんとなく入りにくくて…
いや、逢引中の男女の間に入るのはいくらオレでもちょっと…」

「馬鹿なの?」

相変わらずストレートなことで。
普段ならばきっちりと結われている髪がこぼれ落ち、アダルティな雰囲気を醸し出す夏油に臆するはずもなく、いつも通りの軽口を叩く大堰の額に手刀がクリティカルヒットした。

「世那、この人は…」

「君はどんな女が好みかな」

紹介しようとした夏油の向こうから乗り出す金髪美女に考えるより早く口が動く。

「黒髪黒目。直毛でロングだと尚よし」

「答えるんだ」

「だって聞かれたし。大堰世那っす」

「九十九由基。そうか、君が“天元の”」

「あ?」

何処かで聞いたような名前だと俄に回り始めた思考が急速冷凍した様に冷えていく。

「あんた、なにもんだ」

「九十九由基。呪術高専所属の特級呪術師さ」

「…随分と物知りな特級様だことで」

冷静を取り繕った思考が告げてくる。
敵ではない。だけど、この人は決して味方に成り得ない存在だ。
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