2007年6月
「そんなにこの顔が好きか」
「あ?あー、まあ、そうね」
寝かされていたベッドに頬杖をつく家入に何と無しに受け答えをしていた大堰は続いた言葉に動きを止めた。
「お姉さんに似ているからか?」
「はい?」
今なんと?
「えーと…それは、もしかしなくてもオレがなんか言ったんだよな?」
「だいぶ意識は混濁してたみたいだけど、まさか『お姉ちゃん♡』なんて可愛い呼び方されるとは思わなかったよ」
「うわー…ぜってえ言ってねえだろ」
ニヤニヤと楽しそうな視線に耐えきれず頭を抱え込むと脇腹が少し引きつれるように痛んだ。
「しかし、大堰に兄弟がいたとは知らなかった」
「血の繋がりはねえよー…」
今の自分はきっと、情け無いぐらい真っ赤な顔をしている。
「オレが本家に引き取られた頃に施設にいた人だよ。
最年長だったから色々と構ってもらった記憶があるわ。つっても、すぐ売られてったから名前とかは覚えちゃいねえけどな」
連れてこられたばかりの余所者だった自分を仲間に引き入れてくれた人だった。
優しい人だった気もするがあまり覚えていない。
「ふーん」
「聞いたくせに!」
正直なところ家入と似ているかと言われるとそうでもなかった気がする。
自分が幼かった事もあるだろうが、もっと優しげな…少なくとも煙草の香るアダルティでアンニュイな女性ではなかったはずだ。