このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

2007年6月

まだ昼だというのに薄暗い工場内を見渡しても、残念ながら目の届く範囲に呪霊は見当たらない。
呪霊を見つけるのが早いか、五条に追いつくのが早いか…
少なくとも膝を抱えて小さく丸くなっていては何方にもたどり着けやしない。

「はぁ…やってみっか」

術式順転・結

集中するために結んだ手印を起点に広がる結界は、強度より柔軟性に重きを置いて、拒絶より許容にシフトしたもので、大堰は感知式結界と呼んでいた。
広がっていく結界に触れた無数の呪力の大まかな形と大きさ、位置が頭に流れ込んでくる。

「うえ…気持ちわりい…」

ほんの数メートルの範囲を検索しただけでこの情報量。
五条はこれを常時展開していると考えただけでも鳥肌が立ってきた。

「やっぱあいつすげぇなあ」

感知に引っかかった呪力は動くものが2つに動かないものが1つ。無難に動かないものから攻めるとしようか。
重たい足に力を込めて勢いよく立ち上がると、情報量にパンクしかけた脳がぐらりと揺れた。

(きもちわりい…)

だからと言って立ち止まっているわけにもいかない。
仕事だと己に言い聞かせ、回る視界をやり込めた。


僅かに、普段であれば気のせいだと思えてしまうほど本当に微かに、視界の隅で空間が歪んだ気がした。
それに手を伸ばしたのは殆ど条件反射の様なものだったが、今は自分の反射神経を褒め称えたい気分だ。

「さ、とるっ!」

「危ねえだろバカ世那!」

「え、わりい。まさか掴めるとは思わなくて」

…あれ、これ俺が悪いのか?
弁明してからふとよぎった疑問を即座に言葉に出来るほど頭が働いていなかったようで、掴めてしまった五条の袖を離せないまま、暫しの沈黙が流れる。

「…なあ、悟。オレ、なんかしたか?」

大袈裟に肩が揺れた。
それでも逃げないでいてくれるだけで何だか嬉しかった。

「悟を傷つけたってなら謝る。
でも、何したかもわかんねえまんま謝罪だけして終わりなんてしたくねえ」

「世那って変なとこ律儀だよな」

「そうか?」

いつもの色が戻ってきた五条の瞳に小さく息を吐いた。
からからと笑う五条を見てるとなんだか安心できる。絶対に言ってやらないけど。

「…世那は足手纏いなんかじゃないからな」

「は?」

「だーかーらー!世那は足手纏いなんかじゃねえからな!」

さっきまで笑っていたはずの五条が形の整った眉をこれでもかと言うほど寄せ、口を尖らせて、まるで子供の様に拗ねた顔をしている。
なんだってそんな台詞が出てきたのか、さっぱり分からなかった。
2/6ページ
スキ