2007年6月
浮き足立っていたのかもしれない。
「世那と任務とか久々じゃね?」
「だな。半年ぶりぐらいか」
五条と大堰が派遣されたのは、関東近郊にある廃工場だった。
取り壊しが決まったものの事故が相次ぎ工事が進んでいない。そして、つい先日、死者が出た。
「確認できただけでも1級が3体だ。気をつけろよ」
「了解」
「俺も残れりゃいいんだけどな、別件に行かないといけなくなっちまってな。すまん」
「大丈夫だって。甲斐さんは心配しすぎだ」
呪術師界の繁忙期は、事前調査などを行う窓や補助監督の方が先にやってくる。
久しぶりに会った甲斐は目に見えて窶れていた。
「そーそー、弱っちい世那は最強の俺が守ってやるからな」
「はいはい。任せたぜ、悟」
「おまえさんも、無茶するなよ」
この頃、最強の名を今まで以上に縦にする五条は、自分に向けられた言葉に目を見開いて固まった。
「な?」
「はい…」
「ふはっ!」
不遜な態度が急にしおらしくもなれば笑ってしまうのはしょうがないだろう。
「変な奴だな」
「いい人だろ」
甲斐に見送られ踏み入れた工場は、倒壊寸前とまではいかないものの中々ボロっちかった。
(解体作業中だって話だし、多少壊れたって文句は言われねえだろ)
それなりの広さがある工場内を闇雲に探し回るより誘き寄せて纏めて片付ける方が手っ取り早いだろう。
効率を考えるなら大堰を囮に呪霊を集めて五条が吹っ飛ばすのがいいだろう。
(足手纏いでも使い道はあるってか)
「どういう意味だよ、それ」
「えっと、なにが?」
冷ややかな声と突き刺さる蒼い瞳を向けられ、何か怒っているようだ、ということは分かった。
しかし、なにに対しての怒りか分からない。
(オレ、なんか、変なこと言ったか?)
任務について考えていたせいで少し意識が散漫としていたかもしれないが、特におかしな事を言った記憶はない。
「もういい」
「は、おい!悟!」
呼び止めるより早く五条は目の前から消えた。
どの様な運用をしたのか分からないが術式による移動をしたのだろう。
早く合流した方がいい事はわかっているのに怒らせてしまったという事実に足が動かない。
「助けて傑…オレ、悟がわからない」