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2007年4月

「世那さん」

任務からの体術訓練という地獄のメニューをこなした大堰は1人、自動販売機の前を陣取っていた。
何を買おうと思ってきたのか思い出せない。そもそも買うものが決まっていたかさえ記憶の彼方に遠のいてしまっている。
と、まあ、くだらないことを考えている大堰は夏油ほどではないだろうが、話しかけづらいだろうに律儀に声をかけてきた人物を見やる。

「健人じゃん、おけーり」

「戻りました」

柔らかそうな金髪にぶっきらぼうな顔が少々ミスマッチな気がする後輩が思ったより近くに立っていて驚いた。
合同の体術訓練で見かけなかったから、任務だと予想していたが間違ってはいなかったようだ。

「なに飲む?」

「…コーヒーで」

「はいよ」

飲み慣れたパックジュースに伸ばしかけた手を止め、なんとなくブラックコーヒーを2本購入した。
1本は七海に渡し、久々に買った缶コーヒーに口をつける。
心地よい苦味が口の中に広がる。
ああ、そうだ。飲み込んだ後口の中に残る酸味が苦手で飲まなくなったんだ。

「お忙しそうですね」

「ああ、悟たちか、まあ、特級様だしな」

数少ない特級術師、しかも学生の身分で、2人ほぼ同時の昇格など前代未聞もいいところだ。
追いつけるなどと自惚れるつもりはないが、置いて行かれたと思う浅ましい自分もいる。

「世那さんもですよ。お疲れのように見えました」

疲れた…

体の疲労は大したことではない。
風呂に入って寝れば回復する程度だ。
精神的には、どうだろうか。

「…ちょーっと不安定になってんのかなー」

「やっぱりお疲れなんですね」

「ははっ、そうかもしんない」

なんとなく、過去の話をしたあたりから自分がおかしな事になっている気がしていた。
もっと前からだったかもしれない。
気づかないうちに自分の中で掛けていたブレーキが外れてしまったような感覚。

「健人はさ、自分の弱点とかちゃんと人に話せる?」

「相手によります。
五条さんとかだったら絶対に話しません。ネタにされるのがオチです」

「否定できねえ」

人の嫌がることをネチネチと続けて喜んでる小学生のようなやつだ。寧ろ容易に想像がつく。

「…灰原なら、彼になら言ってもいいかもしれません」

「その心は」

「彼は親友なので」

親友か、なるほど、そうきたか。

「青いねー」

「失言でした。
ですが、先輩方も同じでしょう」

「そう見える?」

「見えますね」

「そっかー」
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