2006年12月
「大堰!こら、世那!私を見ろ!」
冷え切った両頬を掴み、無理矢理顔を突き合わせる。
ヒュッと笛の様な甲高い音が聞こえると同時に、焦点が定まってきた。
「ゲホッゴホッ、ハッ…けほ…」
「大丈夫か」
肩を揺らし、荒い呼吸を繰り返しながらも確かに頷いた。
崩れ落ちかける体は家入の細腕ではとても支えきれず、薄く積もった雪の上に座り込む。
「どうした」
「…いや、悪い。なんでもない」
らしくない台詞だった。
額に押し当てた手には外気に冷やされた平熱より低い温度しか伝わってこない。
体調が悪くなったとか、そうゆうわけではなさそうだ。
「大丈夫だって、少し驚いただけだから」
視線を合わせようともせず、情けない笑顔でこちらを落ち着かせる様に頭を撫でてくるのが、無性に腹が立った。
「それで誤魔化されると思うなよ」
「うえ…」
不躾に撫でつけてくる手を捻りあげる。
家入は元来、あまり人に踏み込まない。
家入だけでなく、同期の半数以上が他人と一線を引きたがる。それを軽々超えていくのが大堰であり、隠していたことも吐き出させるのが大堰世那という人物だ。
いっそこの場で吐かせるか。
そんな考えが過った家入をため息混じりに嗜める声が降ってきた。
「待って、硝子」
「夏油?」
いつの間にか戻ってきた夏油と五条が家入の後ろから揃って大堰を見下ろしている。
190を超える壁からの威圧感は相当なものだ。
「任務はちゃんとやらねえといけないもんな」
「そ、そう、だな…?」
ニヤリと笑う五条と夏油に何かを察した家入が乗っかった。
大堰に駆け巡る冷ややかな恐怖は、危険を知らせるには遅すぎた。
「ちゃっちゃと終わらせて、世那の尋問な」
「家入、了解」
「夏油、了解」
「大堰、承諾しません!なんだよ尋問って!」