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2006年8月

任務報告を終えた大堰は、自室に戻らずぶらついていた。
普段なら任務だ授業だと忙しいのに、残念ながら本日は休日。全く何も予定がない。
しかし、なんとなく部屋に引き篭もっていてはいけない気がする。
談話室に人影はなく、寮内はかなり静かだ。

「すーぐるくん、あっそびーましょ」

ぶらぶらと歩いて、大堰が訪れたのは夏油のへやだった。
理由は単純明解。五条の部屋より近いから。

「世那か、悟かと思ったよ」

「失敬な、オレはあそこまでクズじゃねえよ」

世間一般で見ればどんぐりの背比べである。

「何かあったかい?」

「べっつにー任務終わったのに誰もいねえから寂しかったんかなー
つーことで、お邪魔しまーす」

「ふふ、はい、いらっしゃっい」

夏油の部屋は意外と物が多い。
その殆どは五条が持ち込んだと思われるテレビゲームやボードゲームだが、しっかり整頓されている割にどこか散らかったようにも見える。

「コーヒーでいいかい?」

「砂糖はいらねえよ」

「分かってるよ」

夏油の淹れるコーヒーは美味しい。インスタントとは思えないほど美味しい。
そのコーヒーにアホほど砂糖を入れる五条は、味覚が死んでいるのではないかと大堰は思っている。

「で、」

「ん?」

「なんかあったのはそっちの方だろ」

「…何もないよ」

マグカップを持つ手がピクリと反応した。
切長な目がスッと動いて視線が外される。
その仕草がまるで、自分は関わってはいけないのだと言われているようで酷く腹が立った。

「誤魔化すんじゃねえよ」

「誤魔化してないよ」

「なら、オレの目え見て言えや」

夏油の顔を掴み上げ、無理矢理視線を突き合わせる。
泣き出しそうに見えたのはきっと見間違いではないはずだ。

「吐け」

「言い方が悪すぎるよ」

長く息を吐き出した夏油は、観念したように呟いた。

「弱者生存。
術師は非術師生存のために存在する。そうあるべきだと思っていたんだけどね、
少し揺らぎそうになっただけだよ」
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