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2006年6月

想像以上に充実した戦利品を手にホクホク顔で(見た目にはわからない)店を出た家入を待っていたのは、着飾って出かけてきたのであろう女たちと、そんな女たちに囲まれ乍も無表情で携帯をいじる大堰だった。

(そういえば、あいつも顔が良いんだったな)

普段、絵画か彫刻のような顔面を持つ同期を見慣れているせいで感覚が少し麻痺している気がする。

「世那」

普段決して呼ばない名前を戯れに呼んでみた。
パッと上がった目は少し離れた場所にいる家入を的確に捉えた。
貼り付いた鉄仮面がふわりと弛み、軽く手が挙げられる。

「邪魔」

道を塞いでいた女たちを一瞥し此方へ向かってくる姿に気分が浮き上がる。

「お前も十分クソだな」

「付き合ってんのにひでえ言われようだな」

自然な動作で持っていた荷物が奪われた。
側から見れば彼女をエスコートする彼氏だろうが、もちろんそんな関係では無い。
大堰の目は日の下で見ると金色に見えることがある。この目で蔑まれるのは、さぞ恐ろしく、背徳的だっただろう。

(私の連れだからな、回収させてもらうよ)

大堰を取り囲んでいた女たちの視線に家入の気分は最高潮まで押し上げた。

「いいもん買えたか?」

「まあね」

「次は?」

「服見たい。でもその前に昼にしよう」

「そういや朝飯食ってねえな」

「しょうがないから奢ってやるよ」

「めっちゃご機嫌じゃん、こっわ」

捻りを入れた家入の拳は大堰の体に当たる前に不可視の壁に当たって止まった。
五条の無限とは違う明確な壁の感触に首を傾げる。

「わりい、切り忘れてた」

大堰が小さな動作で手印を切ると、拳に当たっていた感触が消え、仄かな温かさを感じる布地が肌に触れた。

「結界?」

「そ、化粧だか香水だか知らねえけど、鼻曲がりそうでさ、匂い切るのに使ってた」

「無駄遣い」

「有意義と言え」
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