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2006年1月

「なーんでお前らまだ着いてくんだよ」

着なれた黒よりは明るく、しかし、白を着るのはなんとなく癪に触る。
そんな理由で大堰の私服はグレーが多い。

「暇だからねえ」

「正月から仕事したくないし」

「なら、なんで帰ってきたんだよ」

「暇だから、ねえ」

黒一色から着替えた3人が人通りの多い街を歩く。
クリスマスとは違った趣で華やぐ街並みに溶け込むには些か柄が悪い3人は本人達はあまり気にしていないが、周囲の視線を総なめにしていた。

「大堰のご両親って飲める人?」

家入が指差すのは夏油が家からくすねて来た一升瓶だ。高専で飲めばまず間違いなく夜蛾に見つかるからと言い持ってきた。
見つかったところで悪びれもせず飲むだろ。とは思っても言わなかったのは、大堰も同じだからだろう。

「どうだったかな、あんまし覚えてねえなあ」

雪のない正月は久しぶりだ。
いや、雪のない冬の記憶なんてものは覚えていない。
冬はいつも雪深く、どこにも行けず、だだっ広い屋敷で誰にも会わないように息を潜めていた。

「オレが本家に引き取られたのは4歳の時だかな。こっちにいた頃の記憶なんざ大して残ってねえよ。
あ、花屋寄っていいか?」

「構わないよ。私たちは世那についてきただけだからね」

「来たって面白えもんなんざねえぞ」

両親。父親と母親のこと。
覚えているのは、自分と同じ亜麻色の髪の2人が自分を眺めている光景。
住んでいた場所はあまり大きな家ではなかった気がする。よく外にいた記憶があるから公園でも近くにあったのだろう。

「ここは」

「ご覧の通り。墓だな」

花屋で適当に見繕った花束は薔薇やカーネーションが色鮮やかに咲き乱れた墓参りというよりプロポーズにでも使われそうなものだった。
少し適当に注文しすぎただろうか。

寺が管理する墓地は見舞いに来る者がいなくても最低限の手入れはされるらしい。
初めて来たが墓石もその周りも綺麗だった。

「聞いてない」

「硝子さんが悟みてえなこと言い出した」

持ってきた花は置いて帰るには派手すぎるので持って帰ることにした。

「知ってたらもう少し配慮した」

「別にいーよ、殆ど覚えてねえし。此処だって甲斐さんが教えてくれて知ってただけで来たのは初めてなんだ」

親不孝にも程があるだろ。
皮肉るようにいうが、墓に手を合わせる大堰の姿を見た2人には変に揶揄うことも出来なかった。

「4歳ん時さ、事故にあったんだよ。
対向車が居眠り運転だとかで車線逸れて、オレと両親が乗ってた車にぶつかったんだと。
オレは術式が発動して無傷。両親はそれで亡くなった。つっても本家の奴らに聞いた話だけどな」

予想以上に暗くなってしまった雰囲気に大堰は頭を掻く。
2人がついてきてくれたおかげで予定外の報告が両親にできたと、大堰本人は内心かなり喜んでいたのだが、どうやらそういう感じではないらしい。

「だから面白くねえって言ったろ」

「そういうことじゃないよ。
知っていたらもう少しちゃんとご挨拶できただろうし、そもそもこんな風について来たりは…」

「いーってば、そういうのは。
飲める人だったかは知らねえけど、酒供えられたし、2人が来てくれたから、友達だって紹介できたしさ…」

思わぬ告白に足を止めた夏油は同じく足を止めた家入と目を見合わせる。
基本何を考えているか分かり難いのが大堰であるが、その実かなり純粋なのではないか。
開いた距離を小走りで詰めた家入が勢いをそのままに大堰の背中をどついた。

「痛って!え、なに?」

「帰って飲むぞ」

「女子高生とは思えない発言。
夜蛾さんに見つかるとやべえんじゃねえの?」

「まあ、見つかったらその時だよ」

「2人がそういうんならいいけどな、つまみ買って帰ろうぜ」

「乗り気じゃん」
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