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2006年1月

年の瀬が迫る高専学生寮。
普段にも増して人の少ない寮内に今日も絶叫が響き渡る。

「えー!世那帰んねえの!?」

「戻んねえよ?」

「なんで!」

「お前ねえ、この時期の北海道よ?寒いったらありゃしねえわ」

年末年始、普段寮生活をしている大した人数のいない学生たちもその多くが実家に帰る。
実家からの再三の催促により帰り支度をしていた五条は、大堰からの気のない見送りの言葉に耳を疑った。

「なんでだよ!じゃあ俺も帰んねえ!」

「いや帰れよ、呼ばれてんだろ」

「やだ!帰ったってつまんねえもん!」

「そーゆー問題か?」

御三家である五条の家の事情は分からないが、呪術師を生業とした家の行事ごとが楽しいわけがない。
品定めとあげ足の取り合い。いかにして他家より優位に立つかしか考えていない魔の巣窟だ。

「何を騒いでるんだ、悟」

「おー傑」

「傑!世那帰んねえって言うんだぜ!ズルい!」

「んなこと言われてもなあ」

談話室での騒ぎを聞きつけた夏油が部屋から降りてくる。
騒ぎの元凶である2人を見つけると、いつものことか、と言わんばかりのため息が零れた。

「で、世那が帰らないって、寮に残るのか?」

「おう。夜蛾さん通して学長にも許可もらったしな。傑は帰んだろ?」

「まあね、2年以降は年末年始関係なく任務が入るらしいからね、今年ぐらいは帰ろうかなって」

「いんじゃねえの。親孝行親孝行」

日頃、態度は比較的優等生な夏油のことである。両親に対しても良い息子を演じているのではないか、と勝手に想像してしまう。

「世那は良いのか?その、ご両親とか…」

「ああ、言ってなかったっけ?
オレ、本家は北海道だけど生まれは神奈川なんだ。術式が出て本家に引き取られたんだよ。
まあ、顔ぐらいは見せにいくつもりではいる」

「聞いてない!」

「はいはい、わるかったって」

半年近く五条の我儘に付き合っていて漸くあしらい方がわかってきたらしい。
頭を撫でると静かになる。尚、機嫌が悪いと噛み付かれるが、機嫌の良し悪しは今のところ夏油のみが判断できる模様。

「甲斐さんが今年は高専に詰めんだって言っててさ、なんか食いに行こうって言われてんだ」

「嬉しそうだね」

「うえ、あー…そう、だな」

頭をガリガリと掻くあからさまな照れ隠しは微笑ましくもある。

「ズルい」

「あん?」

「世那ばっか楽しそうでズルい!俺も残る!」

「いや、無理だろ。我儘言うなや。
あ、そういや五条の家は京都だったよな?」

「そうだけど」

「オレ、アレ食いたい!あーっと、アレだ、もみじ饅頭!」

五条と夏油は顔を見合わせた。
まさか納得させるために適当な事を言っているのではないか。いや、大堰に限ってそんな演技派な事をするわけがない。

「世那、もみじ饅頭は広島だよ」

「え、京都じゃねえの?」

完全に間違えていたらしい。

「じゃあ、赤/福」

赤/福/餅、三重県は伊勢神宮のお膝元で購入できるあんころ餅の一種。

「ちょっとだけ近づいた!」

「マジか、京都ってなにがあんだ?」

「有名どころは結構あるけど、見事に外したね」

涙を浮かべて笑い転げる五条には手刀による制裁が下った。

「しょうがないからGLGの悟様がお土産でも買ってきてやる」

「シンプルに顔の好みで言うなら悟より断然硝子さんだけど、
でもま、ありがとな」
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