2005年12月
「で、なんであんな強力な手を隠してた」
「隠してねえよ、制御できねえから、おいそれと使えねえだけだ」
補助監督に送られて、報告もそこそこに自室のベッドに押し込まれた大堰は何故か着いてきた同級生達に詰め寄られていた。
「世那」
「だーうっせえな!大体な!対して戦闘向きでもねえのに単純な結界術式だけで2級だとでも思ってたのかよ!オレ死ぬぞ、マジで。
それと、硝子さん!煙草吸うならせめて窓を開けてくれ!」
「はーい」
詰め寄っているのは夏油が主で、家入に関しては喫煙所の扱いなのかもしれない。
「術式反転の爆だっけ、爆結と何が違うの?」
「簡単に言うと、結界の中を爆発させるか外を爆発させるか、だな」
結界術式は基本的に結界で囲んだ中のものに作用する。
その反転は結界内のものに一切干渉せず、結界外の特に結界に触れているものに干渉する。
あくまで干渉するだけで、効果の範囲が指定できない。威力は大きいが制御できない爆弾そのものだ。
「聞いてない」
「言ってねえからな。
さっき言った通り、扱いきれねえんだ。戦力に数えられるもんじゃねえ。だから報告しなかった。
別に珍しいことじゃねえだろ」
「今回は使った」
「非常事態だった。…なに拗ねてんだおめえは」
普段なら喧しいぐらいの五条が静かだ。
任務終了から、何かを言おうとはするもののモゴモゴと口を動かすだけで非常にもどかしい。
今もあからさまに拗ねているポーズを取って普段と比べ物にならないほどしおらしくしている。
「世那、怒ってる」
「はあ?」
怒るって何をだ?
思い当たる節は、あったな。
「あー、アレか…いや、怒っちゃいねえよ。
むしろ悪かったな。ありゃ完全に八つ当たりだ。
傑も、悪かった」
「私は、別に…」
「始まる前からアレじゃ遣り難かったろ」
事情も説明していないのに怒鳴り散らかして、馬鹿みたいに相手を威嚇して、自分の主義主張を押し通しただけだ。
すまない。
改めて頭を下げる大堰に対し不遜な声が降ってくる。
「…なんか奢れ」
「はあ?」
「パフェ、クレープ、パンケーキ!」
「あーはいはい、わかった、わかったよ」
「私、カートンでいいぞ」
「じゃあ、ワンケースで」
「はいは…いや、便乗してんじゃねえわ!」