2005年12月
任務開始から約40分、
保護できた生存者は8名。
怪死体で発見されたのは4名。
回収したものの手の施しようが無かったのが2名。
現在緊急処置中が1名。
「やっばいねー、硝子さん手空きそう?」
「空くように見えるなら、次はあんたの目くり抜いてやんよ」
「でっすよねー」
下階は粗方回収が終わったからと上の階に2人が向かった後、事態が急変した。
まずはじめに重傷者がエントランスに落下してきた。
幸い、床に到達する直前に回収され現在治療を受けている。
問題は重傷者とほぼ同時に現れた呪霊、そして変容したエントランス。
(生得領域…)
未完全な領域展開とも言われるこの空間の対処法は、一目散に逃げること。
しかし10人以上の意識喪失者を連れ、治療中の重傷者と非戦闘員を守りながら離脱する術は大堰にはない。
「何がまずいって?」
「結界はデカいほど強度が保ちにくい」
「今のサイズなら」
「攻撃にもよるけど二級が限界だ」
「わたしには一級以上に見えるけど」
「オレの目は大丈夫そうだな」
呪霊を認識したと同時に結界に視覚阻害を付与していた。向こうからこちらは見えていないはず。
しかし、それも時間の問題だ。
「さて、どうすっかなあ」
戯れのように消されたトカゲ様の呪霊はかなり鋭利なもので切り裂かれた様だった。
結界は点や線に近い攻撃に弱い。不得意な相手と当たったものだ。
(傑たちが来るまでどれくらいだ…いや、来ても全滅の可能性もあるんじゃねえか)
うろうろと室内を動き回っていた呪霊の目がゆっくりと大堰を捕らえた。
「やっべえ…」
呪力は感じないはず、見えてもいないはず、しかしあの呪霊は感知している。
「作戦1 結界を縮小して防御に全振りする」
「却下。助けた患者を見殺しにすることになる」
「作戦2 結界を解除してアイツらが来るまで耐える」
「無謀すぎでしょ」
「オレもそう思う」
だがやるしかない。
結界を解除すると待っていたと言わんばかりに呪霊が笑みを作る。
「キモ」
「言っちゃったー」
家入から距離をとりつつ呪霊に突っ込んでいく。
大堰は自分で言う通り、戦闘向きの術式では無い。それでも非戦闘員を攻撃に晒さないため、呪霊と家入の間に自分の身を置く。
術式順転・結
全部を囲うには相手が強すぎる。ならば確実に弱点をつけばいい。
呪霊の関節一つ一つが小さな結界に囲われる。
(練習したかいあったわー)
応用術式・爆結
手足が捥げてくれれば多少の時間稼ぎにはなるだろう。そんな大堰の考えは脆くも崩れ去った。
「うっそだろー」
爆散した手足を不思議そうに眺めていた呪霊が、何を思ったか手を振り回した途端、元に戻った。
戻ったのだ。無くなったはずの手足が。
「呪霊は呪力の塊みたいなものだから自己回復できるらしいって本当だったんだー」
「妙に説明口調!てか、先に教えてくれよ!」
どうする。
考えたところでできることなどたいして無い。
治されようと腕を飛ばし足を断ち、少しでも呪霊を前進させないこと、それだけ。
「串刺しはできないのか?!」
「できりゃやってんよ!」
外装が硬いのか、先を尖らせても結界が刺さらず、寧ろ玩具のように砕かれてしまう。
(爆結用の結界は呪霊を貫通してる筈だろ?
意味わかんねえ)
分からないことに頭を回している暇はない。
何度目か分からない拘束が破られた。どうやらこの呪霊、馬鹿じゃないらしい。
真面にぶつかっては負ける。
「そう慌てんなさんな、もうちょい遊ぼうぜ」
一か八か、関節に絞っていた結界を呪霊の首に掛けてみた。
(かかった!)
爆結するには不安定。しかし、首の結界では呪霊もそう易々とは破壊できないだろう。
「早く降りてこいクズども!」
保護できた生存者は8名。
怪死体で発見されたのは4名。
回収したものの手の施しようが無かったのが2名。
現在緊急処置中が1名。
「やっばいねー、硝子さん手空きそう?」
「空くように見えるなら、次はあんたの目くり抜いてやんよ」
「でっすよねー」
下階は粗方回収が終わったからと上の階に2人が向かった後、事態が急変した。
まずはじめに重傷者がエントランスに落下してきた。
幸い、床に到達する直前に回収され現在治療を受けている。
問題は重傷者とほぼ同時に現れた呪霊、そして変容したエントランス。
(生得領域…)
未完全な領域展開とも言われるこの空間の対処法は、一目散に逃げること。
しかし10人以上の意識喪失者を連れ、治療中の重傷者と非戦闘員を守りながら離脱する術は大堰にはない。
「何がまずいって?」
「結界はデカいほど強度が保ちにくい」
「今のサイズなら」
「攻撃にもよるけど二級が限界だ」
「わたしには一級以上に見えるけど」
「オレの目は大丈夫そうだな」
呪霊を認識したと同時に結界に視覚阻害を付与していた。向こうからこちらは見えていないはず。
しかし、それも時間の問題だ。
「さて、どうすっかなあ」
戯れのように消されたトカゲ様の呪霊はかなり鋭利なもので切り裂かれた様だった。
結界は点や線に近い攻撃に弱い。不得意な相手と当たったものだ。
(傑たちが来るまでどれくらいだ…いや、来ても全滅の可能性もあるんじゃねえか)
うろうろと室内を動き回っていた呪霊の目がゆっくりと大堰を捕らえた。
「やっべえ…」
呪力は感じないはず、見えてもいないはず、しかしあの呪霊は感知している。
「作戦1 結界を縮小して防御に全振りする」
「却下。助けた患者を見殺しにすることになる」
「作戦2 結界を解除してアイツらが来るまで耐える」
「無謀すぎでしょ」
「オレもそう思う」
だがやるしかない。
結界を解除すると待っていたと言わんばかりに呪霊が笑みを作る。
「キモ」
「言っちゃったー」
家入から距離をとりつつ呪霊に突っ込んでいく。
大堰は自分で言う通り、戦闘向きの術式では無い。それでも非戦闘員を攻撃に晒さないため、呪霊と家入の間に自分の身を置く。
術式順転・結
全部を囲うには相手が強すぎる。ならば確実に弱点をつけばいい。
呪霊の関節一つ一つが小さな結界に囲われる。
(練習したかいあったわー)
応用術式・爆結
手足が捥げてくれれば多少の時間稼ぎにはなるだろう。そんな大堰の考えは脆くも崩れ去った。
「うっそだろー」
爆散した手足を不思議そうに眺めていた呪霊が、何を思ったか手を振り回した途端、元に戻った。
戻ったのだ。無くなったはずの手足が。
「呪霊は呪力の塊みたいなものだから自己回復できるらしいって本当だったんだー」
「妙に説明口調!てか、先に教えてくれよ!」
どうする。
考えたところでできることなどたいして無い。
治されようと腕を飛ばし足を断ち、少しでも呪霊を前進させないこと、それだけ。
「串刺しはできないのか?!」
「できりゃやってんよ!」
外装が硬いのか、先を尖らせても結界が刺さらず、寧ろ玩具のように砕かれてしまう。
(爆結用の結界は呪霊を貫通してる筈だろ?
意味わかんねえ)
分からないことに頭を回している暇はない。
何度目か分からない拘束が破られた。どうやらこの呪霊、馬鹿じゃないらしい。
真面にぶつかっては負ける。
「そう慌てんなさんな、もうちょい遊ぼうぜ」
一か八か、関節に絞っていた結界を呪霊の首に掛けてみた。
(かかった!)
爆結するには不安定。しかし、首の結界では呪霊もそう易々とは破壊できないだろう。
「早く降りてこいクズども!」