2005年12月
都内にて一般人が呪胎を確認。
「で、呪胎どこよ」
「生まれちゃったかねー」
「あれってそうゆう表現でいいんだっけ?」
「さあ?」
報告を受け向かった先は規制線が張られた集合住宅の一角。
急を要すると言うことで非番だった東京高専1年の4人が派遣されたのだが、情報とは異なり呪胎が確認できない。
「呪霊は確認できていませんが、1級以上であることはまず間違いないかと。
現在1級以上の術師を派遣していただける様調整中です。
皆さんには生存者の救助を最優先にお願い致します」
「はーい」
「わかりました」
補助監督官は淡々と事務的な通達だけ行うと集まってきた野次馬の対応に走っていってしまった。
大堰の顔見知りである甲斐と比べると対応の違いが嫌に目立つ。
「帳は必須だね」
「ここに1人取られるのは痛いよ」
「補助監督にやらせりゃいいじゃん」
とは言うものの、当の補助監督官は手が空きそうにない。待っているのも時間の無駄だろう。
「んじゃ、オレがやる
帳は結界の内。結界はオレの専売特許だろ」
「ちょっと違うと思うけど、」
保護や護衛といった任務には大堰の結界術式は非常に有効だろう。今回の任務に於いても、おそらく主軸として考えられていたはず。
それが帳の保持のために任務本隊に参加できなくなるのは中々の痛手だ。
「世那が抜けるのは痛いな」
「オレもそう思う。なので、こんなん作ってみた」
「なにそれ?」
「嘱託式結界」
「なにそれ」
大堰が取り出したのは、呪符が巻かれた掌台の杭だった。
手渡された家入は手の上で転がして眺めると、そのまま夏油に渡した。
同じように見聞した夏油は五条に渡し、五条は杭に施された術式を見ようとして大堰に奪われた。
「まだ試作品段階だけどな、まず帳を下ろします」
闇より出て闇より黒くその穢れを禊ぎ祓え
静かな暗唱に呼応して空中からどろりとした帳が下りてくる。
帳が地面に達すると、振りかぶりながら杭を地面に突き立てる。
「悟、呪力込めて打ち込め」
「おっしゃ任せろ!」
呪力を纏った拳で打ち付けられたにしては杭はあまり沈み込まなかった。
軽く弄り、倒れないことを確認すると大堰はひとつ頷いた。
「この杭が術式を保持する基点になる。
呪力を補填しねえとなんねえのが難点だが、まあ、試作品にしては上出来だな」
「五条のでコレなら、結構呪力いる感じ?」
「理論上ではそんなに要らねえはずだ。今回は容量の設定ミスったみてえだな」
「悪戯に抜かれる可能性があるね」
「そこだよなあ…呪力で叩き込んでっから多少の力じゃ抜けねえけど…」
とりあえず視覚と呪力だけ遮断しとくか。と言って軽く手を振ると見えない壁が杭を覆う。
四角く壁が完成すると杭が景色に溶けて消えた。
「うし、じゃあ…」
「「生存者/呪霊探しに行きますか」」
「…は?」
重なった声が聞き取れなかったわけではない。
「私たちの任務は生存者の保護だよ、悟」
「んなのつまんねえじゃん。呪霊見つけて、ぶっ飛ばせば全部解決だろ」
「…一般人は呪霊から身を守る術がない。私たちが呪霊を探している間に犠牲者が増えてしまう」
「それは、しょうがない」
頭をバットで思いっきり殴られたような衝撃だった。
そういえば悟も五条の、御三家の人間だったな、と思い出させるような、ある種の絶望感だった。
「日本国内で呪いの被害による怪死・行方不明者は年間約10,000人。出会っちゃったもんはしょうがない。運がなかったんだよ」
「犠牲者は少ないに越したことはない」
「そーゆー正義感振り回したような優等生発言って嫌いなんだよね」
売り言葉に買い言葉で煽り合う器用な馬鹿たちをいい加減止めるべきか、家入が口を開くより先に割り入ったのは聞いたことのない冷たい声だった。
「うるせえよ」
「で、呪胎どこよ」
「生まれちゃったかねー」
「あれってそうゆう表現でいいんだっけ?」
「さあ?」
報告を受け向かった先は規制線が張られた集合住宅の一角。
急を要すると言うことで非番だった東京高専1年の4人が派遣されたのだが、情報とは異なり呪胎が確認できない。
「呪霊は確認できていませんが、1級以上であることはまず間違いないかと。
現在1級以上の術師を派遣していただける様調整中です。
皆さんには生存者の救助を最優先にお願い致します」
「はーい」
「わかりました」
補助監督官は淡々と事務的な通達だけ行うと集まってきた野次馬の対応に走っていってしまった。
大堰の顔見知りである甲斐と比べると対応の違いが嫌に目立つ。
「帳は必須だね」
「ここに1人取られるのは痛いよ」
「補助監督にやらせりゃいいじゃん」
とは言うものの、当の補助監督官は手が空きそうにない。待っているのも時間の無駄だろう。
「んじゃ、オレがやる
帳は結界の内。結界はオレの専売特許だろ」
「ちょっと違うと思うけど、」
保護や護衛といった任務には大堰の結界術式は非常に有効だろう。今回の任務に於いても、おそらく主軸として考えられていたはず。
それが帳の保持のために任務本隊に参加できなくなるのは中々の痛手だ。
「世那が抜けるのは痛いな」
「オレもそう思う。なので、こんなん作ってみた」
「なにそれ?」
「嘱託式結界」
「なにそれ」
大堰が取り出したのは、呪符が巻かれた掌台の杭だった。
手渡された家入は手の上で転がして眺めると、そのまま夏油に渡した。
同じように見聞した夏油は五条に渡し、五条は杭に施された術式を見ようとして大堰に奪われた。
「まだ試作品段階だけどな、まず帳を下ろします」
闇より出て闇より黒くその穢れを禊ぎ祓え
静かな暗唱に呼応して空中からどろりとした帳が下りてくる。
帳が地面に達すると、振りかぶりながら杭を地面に突き立てる。
「悟、呪力込めて打ち込め」
「おっしゃ任せろ!」
呪力を纏った拳で打ち付けられたにしては杭はあまり沈み込まなかった。
軽く弄り、倒れないことを確認すると大堰はひとつ頷いた。
「この杭が術式を保持する基点になる。
呪力を補填しねえとなんねえのが難点だが、まあ、試作品にしては上出来だな」
「五条のでコレなら、結構呪力いる感じ?」
「理論上ではそんなに要らねえはずだ。今回は容量の設定ミスったみてえだな」
「悪戯に抜かれる可能性があるね」
「そこだよなあ…呪力で叩き込んでっから多少の力じゃ抜けねえけど…」
とりあえず視覚と呪力だけ遮断しとくか。と言って軽く手を振ると見えない壁が杭を覆う。
四角く壁が完成すると杭が景色に溶けて消えた。
「うし、じゃあ…」
「「生存者/呪霊探しに行きますか」」
「…は?」
重なった声が聞き取れなかったわけではない。
「私たちの任務は生存者の保護だよ、悟」
「んなのつまんねえじゃん。呪霊見つけて、ぶっ飛ばせば全部解決だろ」
「…一般人は呪霊から身を守る術がない。私たちが呪霊を探している間に犠牲者が増えてしまう」
「それは、しょうがない」
頭をバットで思いっきり殴られたような衝撃だった。
そういえば悟も五条の、御三家の人間だったな、と思い出させるような、ある種の絶望感だった。
「日本国内で呪いの被害による怪死・行方不明者は年間約10,000人。出会っちゃったもんはしょうがない。運がなかったんだよ」
「犠牲者は少ないに越したことはない」
「そーゆー正義感振り回したような優等生発言って嫌いなんだよね」
売り言葉に買い言葉で煽り合う器用な馬鹿たちをいい加減止めるべきか、家入が口を開くより先に割り入ったのは聞いたことのない冷たい声だった。
「うるせえよ」