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2005年9月


「世那はどのくらいまで囲めるんだっけ?」

「単純に囲うだけなら1級だな。爆結すんなら2級がギリだな」

「爆結は取り敢えず要らないかな」

爆結とは、質量のある物を囲った結界を強制的に収縮させる事で結界ないの圧力が高まり、臨界点で爆発を起こさせる、結界術式の応用の様な物だ。

「展開する数が増えりゃ強度が分散しちまうから、コイツら全部囲うとしたら2級でも危ねえかもしれねえな」

任務開始からはや15分、絶賛校内鬼ごっこ中である。
狭い場所では校舎に被害が出ると考えた結果、校庭にでも誘い出そうと言うことになった。
しかし、呪霊は1体ではなかった。初めに見つけた呪霊を誘き寄せている間に、1体、2体…と増え、現在5体の呪霊に追われている。

「どうにか動きを止めたいな」

「一瞬でもいいか?」

「ダメ」

「クッソが!」

呪霊は総じて形容し難い形状をしていることが多い。
今、背後から迫っているモノたちも、頭から手足が生えたモノやら5本脚で器用に走るモノなど簡潔に言うならば気持ち悪い。
何より芋虫の様な呪霊が最も早く動くことが解せない。

「後ろ向きに走るのは危ないよ世那」

「おー安心しろ今にも転びそうだ。
傑、取り敢えず外に出るぞ。このままじゃ埒があかねえ」

「しょうがないか。窓1枚ぐらいは勘弁してもらおう」

言うが早いか、手近な窓を窓ガラスごと破って外に出ると呪霊たちも2人を追って飛び出してきた。
呪力で強化されているためにできる芸当である。普通の人が真似をしたら怪我では済まないだろう。
また、大堰と夏油の2人に比べて呪霊の方が幾分大きい上、順番に出てくるなどと言う考えを持ち得ない為被害が窓だけで済まなかったことを示しておこう。

「ここからどうする」

「取り敢えず囲う!」

術式順転・結

無数の不可視の壁が呪霊を囲んでいく。
全身を囲われるモノもいれば一部が結界から出ているモノもおり、精度の甘さが窺える。

通常結界は、対象を指定、位置を指定、結界の展開条件を指定、と3段階の認識を必要とする。
今の場合、対象指定が不十分だった為に結界の大きさが呪霊にあっていなかったのだろう。

(要練習だな)

1体、結界を破る呪霊がいた。
今回“窓”が確認していた準1級相当の呪霊はアレだろう。
追ってくる時、妙に早かった芋虫状の呪霊。
的が絞られたことにより照準が定められた結界は呪霊を貫いた。

「串刺し公」

「ドラキュラじゃねわ!」

身動きが取れなくなった呪霊を大きく囲い、漸くひと段落ついた。

「つっかれたー!」

「世那との任務は楽でいいね」

「ざっけんな!てめえも仕事しやがれ!」

「私は今、駒を集めているところなんだよ」

「こま?
そういや、呪霊操術ってどう使うんだ?」

呪霊とは人の負の感情をもとに発生ものであり、基本的に術師からは生まれない。
では呪霊操術で扱う呪霊はどこから来るものか、

「ああ、世那は初めて見るのか」

そういうと夏油は頑丈に拘束された芋虫呪霊に手を伸ばした。
呪霊は吸い込まれる様に形を崩し、夏油の掌で黒い球体として集まっていく。その呪霊玉(世那命名)を夏油はごく自然な動作で飲み込んだ。

「はあ!?おっ前何やってんだよ!」

「コレが所謂調伏の儀なんだよ」

こともなげに言う夏油に色々と言い募りたい大堰がそれらを飲み込み出てきたのは、不味そうだと言う一言だった。

「まあ、好んで食べたい味ではないかな」

「だろうな!」

負の感情の塊が美味しいとはとても思えない。
しかし、食べるなと言ってしまっては夏油の術式が根底から使用できないことになってしまう。
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