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愚者の王冠

三月がそれに気がついたのは収録の休憩中だった。

(新しいのアップされてんじゃん)

ちょっとしたトラブルがあってスタッフが走り回る中、動画を再生するのは流石に憚られる。
しかし気になる。
前回の動画は新曲のお披露目だったから、いつもの流れなら次は作曲風景を撮影したもののはずだ。
サムネはクラウンではお馴染みの部屋の中心に仮面をつけた3人が集まったいつもと同じものに見えて、顔の右側を仮面で隠すカナがギターを構えたちょっといつもと違うものだった。
なにより『感謝』と名を打たれたタイトルに気を引かれてしょうがない。

「うぅー…」

「さっきから何を唸ってるんだい?」

「下岡さん」

コーヒーを片手に一つ席を開けて座っていた大御所が席を詰めてくる。
別に隠し立てするようなことでもないのでスマホの画面をそのまま見せると下岡はほう…と顎髭を撫でた。

「クラウンか、最近よく話題に上がるよね」

「はい。俺たちの寮でも結構みんな見出るんですけど、新しいのがアップされててもーめっちゃ気になっちゃって」

いつも通り何も書かれていない概要欄に目を通してから刻々と増えていくコメント欄を開く。

新しい動画を喜ぶ声、いつもと違う雰囲気に戸惑う声、まるでライブをしている時に投げかけられるファンからの声のようだと思った。


「今度の音楽特番で彼らにオファーをかけたんだけどね、断られちゃったんだよねえ」


「ええっ?!」


響き渡った椅子の倒れる音に多くのスタッフが振り返った。
慌てて周りに頭を下げ、なんとも居心地の悪い椅子に座り直す。


「ど、え、な、なんで?」


「今の自分たちには相応しくないんだってさ」


撮影再開を知らせる声に下岡はコーヒーを飲み干し立ち上がる。


「いい曲歌うのにね、彼ら。
是非とも輝くステージで見てみたいものだよね」
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