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愚者の王冠

「ただいまー」

「「おかえりなさーい!」」

日が沈み急に冷え込んできた外から逃げるように一枚扉を潜ると、柔らかな灯りと盛大な合唱に迎えられ、本人すら気付かぬほど自然に大和の表情は綻んだ。

「おかえり大和さん!早かったな」

「おー思ったより撮影がスムーズでさ」

きゃっきゃっと群がる子供達を引き連れダイニングルームに顔を出せば、キッチンから三月が顔を覗かせた。

「よかったじゃん!
なんか揉めるかもって言ってたからさ、今日も遅いんだと思ってた」

夕食にはもう少し時間がかかるようで、ツマミにと出された小鉢に箸をつけながら今日の撮影を思い返す。

「空いてる役があるって言ったじゃん?」

「あー監督さん一押しの役者が頷かないってやつ?そういえばどうなったんだ?」

「推薦で別のやつが入ったよ」

「あちゃーダメだったのかー」

テキパキと並べられていく大皿にこっそり手を伸ばすとすかさず叩き落とされた。

「…それがさ、そいつが上手いのなんのって、
そりゃ連ドラの初日だし俺も千さんも結構作って行ったけどさ、台詞回しからアクションから何をやらせてもNGなし」

「よかったじゃん、なんでそんな不満そうなんだよ」

「いや、不満ってわけじゃないんだけどさあ」

舞台で経験があると言うのなら、ある程度アクションの心得があるのもわかる。
1話限りとはいえ名の知れたドラマに出るのだから役を作り込んでくるのも道理だろう。

「ミツさー天羽蛍って知ってるか?」

「アマハホタル?いや、知らない。
役者なら俺より大和さんの方が詳しいだろ」

「うーん…」

藍色の髪に飴色の瞳、堂にいった演技に耳通りの良い声。
近くで見て気がついたが、顔の左側だけ化粧の上からでも微かに色が違うのが見てとれた。

「どっかで見たことあるんだよな…」
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