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( どうかこの夢が )
すごく嫌な夢だった。
薄暗くて、見たことも無い部屋の中。
敵と思われる知らない奴に、あいつが、俺を庇って銃で撃たれる場面。
倒れ込む彼女を受け止めようと手を伸ばした所で、飛び起きた。
大量の冷や汗が身体にベタベタとまとわりついて気持ちが悪い。
動悸が激しく、ノドがカラカラに乾いて、荒くなった息すら湿気を感じない。
夢でこんなに動揺したのは、生まれて初めてだ。
必死に息を整えて、ようやく今いる場所が何処か理解してきた。
清潔感のあるベッドに、可愛らしい時計や写真が飾られた部屋。
そうか、昨日、ココに泊まったんだった。
さっきまでの緊張感が、一気に安心感に包まれ冷や汗もいつの間にか引いていた。
ふぅ、と小さく溜息をつき隣を見てようやく家主がいないことに気づく。
何処だ?と辺りを見回すと、台所の辺りから音が聞こえてきた。
のそりとベッドから降りてリビングに繋がる扉を開けると、トントンと音を立てて朝飯を作っているこの部屋の家主、彼女の背中が見えた。
「あ、おはよう。よく寝れた?」
俺の気配に気づいてこっちを振り向きいつもの笑顔を見せてくれる。
顔を見て安心したと同時に、さっきの夢で見た彼女の顔がフラッシュバックして、俺は彼女の元に足早に歩み寄り後ろから強く抱きしめた。
「れ、レノ!?どうしたの?」
驚いて持っていた包丁を落としそうになってるのも気にせず、黙って腕の力を込めて、彼女の感触を確かめる。
俺の様子がおかしい、と思ったのか、そっと包丁を置いて身体を向き直し、真正面から抱きしめ返してくれた。
「·····どしたの?」
「·····たまに」
「?」
「こっちが、夢なんじゃないかと」
そう呟いた声は小さくて、もしかしたら震えていたかもしれない。
情けないとこ、見せてしまった。
腕の中の彼女は少し沈黙した後、俺の顔を覗き込んで頬にそっと触れてきた。
両頬を包み込む彼女の手の心地よさに目を細めようとしたその時、ぐに、と頬を摘まれた。
「··········ふぉい(おい)」
「ふふっ変な顔」
「はなへよ」
「えーどうしよっかなー」
無理やり手をひっぺがし、痛えよ、と少しムッとした顔をすると、彼女はまた笑った。
「夢、じゃないよ」
痛いでしょ?と今度は優しく頬を摩ってくる。
「朝から珍しいこと言って、悪い夢でも見た?」
「·····何でもねーよ、と」
「ふふ、可愛いなぁ、レノったら」
·····可愛いは余計だ。
でも、ぎゅうっと、胸に抱きついて愛おしげに頬を擦り寄せるこいつがたまらなく愛おしくてまた強く抱きしめた。
どうか、この幸せがずっと現実でありますようにと、ただ願うばかり。
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