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(天に向けた独り言)
私が願うことなんて、ただ一つだけ。それは今も、これからも。
幾千に瞬く星空へ、届くのなら今すぐ貴方に——
「ここはそこそこ星が見えるなぁ。ま、エッジと比べたら当然か」
コスモキャニオンだったらもっとすごいんだろうなんて考えたけれど、今私が来たかったのはここだ。生活の拠点にしている場所から少し離れた荒野の丘。ここからは崩壊したミッドガルがよく見える。数年前はこんなに大きな町があるんだって遠くから見ても圧倒されたが、それも懐かしい記憶。
もう何度この丘に足を運んだだろう。一番見晴らしの良い場所に堂々と突き刺さるこの錆びた大きな剣も随分見慣れてしまった。
いつもの如く向かい合うように腰を下ろし、まるでそこに誰かがいるかのように語り掛ける。返事が返ってくることは無いそれは、あくまで私の独り言。
「ねぇ、今日は七夕って言うらしいよ」
ここに来る前セブンスヘブンへ立ち寄った際、マリン達が大きな笹に沢山の飾りつけをしている所を見かけた。聞けばウータイで毎年この時期に行われている催しだとかなんとか。ユフィに聞いたのかな。それにしても笹なんてどこにあったのか……そう言えばウォールマーケットで見たような気がする。恐らくクラウドが探してきたんだろう。
「なんかね、短冊に願い事を書いて笹に括りつけるんだって」
そうすると笹の葉が天に願いを届けてくれるらしい。そんな可愛い言い伝えがウータイにあったなんて知らなかった。そりゃ子供が喜ぶ話だな。意気揚々と短冊に願いを書き連ねていくマリンたちに何を願うのか聞いてみたら、将来なりたいものや家族の健康や幸せだとか、見るだけで心が温まる文言ばかりで微笑ましかった。
「みんな優しい子達だよね。あの子達なら未来も安心だって思える」
膝を抱えて目の前のバスターソードを見ながら、この剣の持ち主だったアイツの逞しい背中を思い出す。本当に温かい人で、何度も彼の言葉に励まされた。自分の事なんて二の次で相手の為に駆け回って、まさにヒーローだと言わんばかりの姿は何度も私の胸の奥を搔き乱した。脳裏に焼き付く彼の笑顔は、今でも私の心に火を灯し続けている。
そんなことをふと思い出してつい目頭が熱くなるのをきゅっと堪えながら、私は再び独り言を続けた。
『願い事、何か書きなよ!』
そう声を上げたデンゼルに、一枚の短冊を渡された。何かあるでしょ?という迷いのない瞳に、私はすごく困惑してしまった。願い事なんて、もう何年も抱くことを忘れていたのだから。
「でも子供たちの視線が痛くて何か書かなきゃって考えて、一つだけ書いてきた」
何だと思う?と半分冗談でバスターソードに向かって語り掛けると、なんとなく「知りたい!教えろよ!」って声が聞こえた気がした。幻聴が聞こえるなんて私もとうとう頭がおかしくなっちゃったかな。でも、そうなった自分も悪い気はしなかった。
「……”みんなの願いが叶いますように”って」
我ながら良い願い事だと思った。夢や希望に溢れた子供たちの未来が明るいものであって欲しいと願っているのは本心だ。
なのに、その短冊を見たマリンは笑うどころか途端に心配そうな表情を浮かべて私にこう問い掛けた。
『自分のことは願わないでいいの?』
本当に、なんて優しい子なんだろうね。私はマリンの頭を安心させるようにそっと一撫でして、『これが私の心からの願いだよ』と笑ってみせた。
……だけど。
「……本当は、一つだけ、あるんだ」
ぎゅっとさっきよりも膝を強く抱き抱える。絞り出すような声になってしまったのは、ずっと言うつもりは無かったから。こんな独り言、誰も聞いてないのに。それなのに、伝えたくなるのは何故なんだろう。
「こんな願い事、叶うわけがない」
だから、皆には言えなかった。言えば皆困るって分かっていた。どうしようもない我が侭だって理解してる。だから、せめて誰もいないここでだけ吐かせてほしい。
届けてくれなくていい。叶わなくてもいい。それでも七夕という今日に少しだけ頼りたくなってしまったんだ。
「……会いたいよ、ザックス……」
溢れる涙と共に零れた言葉。今まで吐くことのなかった大きな独り言は、やはり誰からの返事が返ってくることは無く虚しく空に散っていく。
「……ふ、はは……」
ふと見上げた夜空に光る幾千の星達はいつもより瞬いていて綺麗なはずなのに、今はちょっとだけ残酷に見えてようやく我に返った。
こんなことを願ったって、今すぐ会えるわけじゃない。そんなこと分かっていたのに。いつになく感傷的になってしまった自分が情けない気持ちになった。
「七夕は天の川に引き裂かれた恋人同士が年に一度会うことを許された日……だったっけ。こんな話聞いたからだ」
もしかしたら私も会えるかもなんて、馬鹿げたことを考えてしまった。都合よく期待してしまうのは私の悪い癖だ。
「そうだよ。いつかは会えるんだし……いつかは」
そのいつかが訪れるまでは、私は私のやるべきことをやるって前にこの場所で誓ったのに。らしくもなく弱音を吐いて、こんなところをザックスが見たら「らしくねーぞ!」って言ってくるに違いない。「ま、たまには許してよ」と言うようにバスターソードの鍔を軽く撫でる。思っていたよりも錆びていたそれはざり…っと嫌な触り心地で、何だかザックスにまた小言を言われているような気分になった。意外に甘やかしてくれないんだ、昔からアイツは。
「じゃあまた、独り言を話しにくるよ」
そう言って剣に背を向けると、また何処からか「またな!」と軽快な挨拶が聞こえたような。幻聴とは言え相変わらずあっさりとした様子に、思わずふふっと笑いが込み上げる。もちろん振り返ることはしない、そこにはもう誰もいないって知っているから。
だけど今日だけは、微かにそこにアイツがいたような、そんな気がした。
案外……願い事は叶ってるのかもしれない。
そう思えると帰る足取りは不思議と軽やかになっていった。