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(苦いcoffee)
ルードが入れる食後のコーヒーは絶品だ。
香ばしい香りが鼻を掠めて、一口飲めば甘味と苦みが程よく口の中に広がってまさに私好みの味。
だけど、今日のコーヒーは……
「にがい」
私がそんな一言を口にすると隣に座っていたルードはきょとんと目を瞬かせた。サングラスを掛けていないからかその様子がすごく伝わる。
「どうした?」
「いつもと味が違う。砂糖入れた?」
「もちろん入れた」
いつもと変わらない、と当たり前のように言われて私の眉間はより一層皴を寄せる。
ルードはそう言うけれど絶対違うと思う。もう何回ルードの入れるコーヒーを飲んできたと思ってんの。私の舌は間違わない自信があるんだから。
まさかルード……!?
「ルード、疲れてない?!マッサージしようか?ツォンさんにもうちょっと優しくしてって私から言うよ?!」
「急に何だ」
「いや、連日の激務で味覚が可笑しくなったかと」
「違う」
ハッキリ言いきられた。じゃあどうしたらこんなに味が変わるんだ。
ルードをもう一度見ても何でもない顔しているし、これは逆に怪しいとしか思えない。味が違うって言えば普通味見して確かめるでしょ。
「……何か隠してない?」
「……何も」
「本当に?」
「……ああ」
いーーーーや間が怪しいわ。ちょっと目が泳いでるし!明らかに怪しい。私だって一端のタークスなんだから、舐めて貰っちゃ困る!
しらばっくれても無駄だよというジト目でルードをじっと見つめると、観念したのか眉が垂れ下がりはぁっと溜息を吐いた。
「口を開けろ」
「は?」
何で口?と思ったけど言われるがままに口をあーんと開けると、ぽいっと何かを投げ入れられた。
驚いてむぐっと口を閉じると、サクッとした食感に噛むと瞬時に口内に広がる甘い味。やだ、すごく、美味しい!
「んむ、これ……マカロン?」
「今日何の日か覚えているか?」
「今日って……あ」
壁に掛けてあったカレンダーと確認すると今日は…3月14日、ということは。
「ホワイトデーだ」
そう呟くと、ルードは満足したように優しく微笑んだ。
「口の中が甘くなるから、今日のコーヒーは少し砂糖少なめだ」
「なるほど~!ありがとう、ルード~!」
なんて出来た恋人なんでしょう。ルードの細かい気遣いに思わず感動で泣きそう。ホワイトデーまで用意してくれて、食べる時のことまで考えてくれて。ルードのこういう所、本当に好き。嬉しくてむふふと思わず笑ってしまう。ルードもそんな私を見て、照れくさいのかそっぽを向きながら私の頭を撫でた。
さっきまで苦くて飲みにくかったコーヒーはマカロンの甘味と中和されて程よい味。ここまで計算できる男、そういないと思う。まだあるぞ、と出された箱の中には色とりどりのマカロンが並んでいて目をキラキラと光らせた。折角ルードがプレゼントしてくれたものだし大事に食べよう。
「ところで、ホワイトデーにマカロンを贈る意味、知っているか?」
「へ?」
そんなこと聞いたことが無かったからブンブンと首を横に振ると、ルードは「調べてみろ」と言う。
気になったからその場で携帯を取り出して検索をする。すると思いの外すぐその答えは出てきて、目をパチパチと瞬かせた。ルードを振り返ると彼はまたそっぽを向いて、でもその耳は真っ赤になっていた。髪の毛が無いからよくわかるなぁ。
「~~~ルード!私もだよ!」
嬉しくて嬉しくて、感極まった私は思いっきりルードの首に抱きついた。勢いが良すぎてそのままソファーに倒れこんでしまったけど、ルードは怒らないしむしろ嬉しそうだった。
それから私は、コーヒーに入れる砂糖の量を減らした。ルードが隣に居たら、何もかもが甘く感じられるような気がしたから。
※ホワイトデーにマカロン=『特別な人』