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(バレンタインなんてクソくらえ)
どうも、皆さんこんばんは。
突然ですが、実は今日ってバレンタインなる日らしいんですよ。
世の恋する女性達は知ってますよね。世間では思いを込めた手作りチョコを愛しいあの人に手渡して思いを伝える風習があるみたいなんですけど、誰ですかそんなこと決めた人。
でもね、私ね、自分でも驚くほどお菓子作りが下手なんですよ。
そもそも料理自体得意じゃない。タークスの仕事はお金に困らないから、大抵の食事は外食か適当に買ったもので済ましている。だから生活には困らなかった。
ところがどっこい最近付き合うことになった赤髪の同僚にとんでもないことを要求されて私は今超絶困惑している。
「付き合って初めてのバレンタインくらい、手の込んだ手作りが欲しいぞ、と」
そう言われたのは確か三日前くらいだったか。予想外過ぎる言葉にさすがに耳を疑ったわ。イベント事とか面倒くせぇ、と付き合うまでそんなことを口走っていた男が突然女子みたいなこと言うから私別人と付き合ってるのかな?と一瞬思ったよね。
「いや私の料理下手レノも知ってるでしょ?」
「知ってる、たまにはお前の作ったもん食べてみてぇ」
「えーー」
「ま、頼むぞ、と」
そう言われてさすがに何も作らない彼女でいるのも悪いと思った私は渋るのもそこそこにして小さく返事をした、いやしてしまった。
もし出来なかったら目玉焼きでも出しておこう、そうしよう。それくらいなら出来る!……多分!
という訳で、あっという間にバレンタイン当日を迎え、私はと言うと今玉子ではなくチョコレートと向かい合っている。あまりにも料理をする習慣が無さすぎて緊張しきった私はギリギリまで本気で目玉焼きを作る気でいた。だけど今日は折角のバレンタインデーだし、レノも多少なりとも期待をしている。こんなことで呆れさせる訳にはいかないと変なプライドが働いて、私は意を決して不慣れ過ぎるお菓子作りに挑んでいる最中。
作ろうとしているのはガトーショコラ。友達に聞いたら「混ぜて流して焼くだけだから簡単だよー!」って言うから。貰ったレシピに基づいて材料を掻き集め、計りを使ってボウルに入れている。一々計って入れるのがものすごく面倒。でもいつもこれを間違って膨らまなかったり逆に爆発させてしまうのだ、私は。だから慎重に、人にあげる物だから丁寧に材料を入れていく。
全ての材料を入れて、そろそろ飽きてきたなんて考えながらクルクルと掻き混ぜる。勝手に作ってくれる機械があるなら作って欲しい、ってそんなことしたら手作りとは言わないのか。つくづくこういう女の子らしいことは向かないな。
するとピンポーンとインターホンが鳴る音がして、何となく相手を察したから何も反応しないでいると合鍵を持っていたレノがガチャリと扉を開けて入ってきた。
「うお、甘ったるい匂い」
「あんたが所望したから作ってんのに何だその言い草は」
「悪い悪い、まさかホントに作ってくれるなんてなぁ」
ニヤニヤと満更でも無い様子で近づき、レノは私の背後からすっと顔を突き出して奮闘中のチョコレート生地ををまじまじと見つめる。「何作ってんの」って聞いてくるもんだからガトーショコラ、と答えるとレノは驚いた顔をした。
「初心者が作れんのか?」
「混ぜて焼くだけでしょ?」
「そんな簡単に済ませられるなら何で今まで失敗すんだよ…」
余計なお世話だい。ムカついたから文句言うならやらん、と言ってやった。そんなこと言ったってレノはご機嫌取りをするわけでもないし、ケタケタと私の必死な姿を笑ってくる。レノらしいけどなんか腹立つなぁ。
「なあ、ちょっと味見させろよ」
「え、まだ途中だって」
「いいだろ、と」
レノは私の制止を無視して、指でチョコを一掬いする。トロトロと溶けたチョコは私の目の前でツーっとレノの指から落ちていく。
「うわ、あっまそ…」
溶けたチョコってなんで固まったチョコより甘そうに見えるんだろう。元々甘いものがそんなに好きではない私はうげぇ、と顔を顰めてそれを見つめた。それを見たレノは口に運ぼうとしていた指をピタリと止めた。
「レノ?……わわ」
レノは何を思ったのか指に付いたチョコをすっと私の口元に運ぶ。うげぇとか言ったから無理矢理食べさせる気だ、と危機を感じた私は断固として食べたくないとぎゅっと口を噤んだ。
「……っ!?!?」
しかし口に突っ込まれると思っていた指は優しく唇にとろり、とチョコを塗り付け、いつの間にか近づいてきていたレノの舌がその唇ごとベロリと舐めた。
「うわ、あっま……」
予想もしなかったことをされた私はピタリと固まってしまった。
そりゃ甘いでしょうよ。バターも入ってますからね!レノはまだ口の端に残ったチョコを親指で拭うとそれをまた舐め、呆然とする私をニヤリと怪しく笑って見つめる。
「うん、悪くねぇぞ、と。んじゃ、出来上がりを楽しみにしてるわ」
満足したのかレノは私から離れ、リビングのソファに向かって歩き出した。突然の甘い攻撃に頭が働かない私はしばらく無心でチョコ生地を掻き混ぜていた。
そして、ガトーショコラは焼く時間を盛大に間違え元気に焦げた。
「混ぜて焼くだけっつったじゃねーか」
「レノのせい!」
やっぱりバレンタインは私には向いてない。
目玉焼き、美味しいです。
Happy Valentine♡