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( 最高のクリスマスプレゼントを君に。)
「クリスマスイブ、かあ」
ぽつりと呟いた言葉は誰に届くわけでもなく静かな部屋に溶けていく。
窓から外を覗けばしんしんと白い雪が降っていてまさにホワイトクリスマス。街は聖なる夜を愛する人と過ごそうという人たちで賑わっているのだろう。
そんな中私は悲しいことに部屋で一人きりの聖夜を過ごすつもり。私だってこんな日に寂しく一人でいるつもりはなかった。肝心の愛する人は今日も今日とて長期の任務で帰ってこれないのだから仕方がない。本当は会う予定だったのに急に仕事が入ったと言われて行く予定だったレストランも泣く泣くキャンセル。
それでも不貞腐れずに今日のこのイベントを楽しもうと一人分のケーキやチキンまで買ってきたのだから誉めて欲しいくらい。彼と付き合うのはそれだけ大変なのだ。
無音も嫌だからテレビをつければ何かの特番が流れて完全にクリスマスモード。クリスマスが終ればあっという間に今年が終る。
「ホントに、あっという間だったな」
年を重ねればその分時が過ぎていく感覚も早くなる。私も着々と年を取っているのだと実感させられて何だか虚しい気持ちになった。
お酒でも飲もうかな。今日の為にちょっとだけ高級なワインを買ってきたし、今日くらい贅沢してもいいよね。
「かんぱーい」
テーブルに置いたワイングラスにトクトクと赤ワインを注いで、自分で自分に乾杯の挨拶をする。グラスの中に入った深みのある赤を眺めて、何となくアイツを思い出した。今頃何処で何をしているんだか。
ああ駄目だな。何で冬って、クリスマスって、人恋しさが増すのだろう。
こんな夜なんて何度も過ごしてきているのに、今夜はどうにも寂しさが募る。
いつもは楽しくなるテレビの音声でさえ煩わしくなってしまうのだから困ってしまう。これでは折角のクリスマスが楽しめないじゃないか。
「レノのばーか。早く帰ってこーい」
ピリリ
涙が出る一歩手前で、誰からも連絡は来ないだろうと思っていた携帯が軽快な着信音を鳴らした。
鼻をぐしぐしと擦って泣きそうになるのを止めてから電話に出ようと画面を見た瞬間、目がこれでもかと真ん丸になった。表示に出ていた名前は、今まさに求めて止まない人だったから。
「も、もしもしレノ⁉」
『おー元気か、と』
電話の向こうから穏やかで愛しい声が聞こえて自然と胸が温かくなる。さっきまで寒くて仕方が無かったのに声を聞くだけで温まれるのだからすごいと思う。
レノのいる場所は外なのか声に混じって強い風の音も入り込む。そんな所からでも電話をしてきてくれたことに嬉しくなった。
「ちょっと聞きたいことがあってよ、お前今何が欲しい?」
はて、突然何を言うかと思ったら。クリスマスプレゼントでもくれるのだろうか。しかし、急に欲しいものを聞かれても何も思い浮かばないし浮かぶとすればどうしようもない物で。
「うーん……、レノ」
結局思いつかなかったからいつもは言わないことを言った。困らせるってわかっているから言わなかったことだけど、今日の私はちょっとだけかまってちゃん。さっき飲んだワインが効いて思考がおかしくなっているのかも。
しかしそんな無理を言ってしまったからレノは押し黙ってしまって嫌な沈黙が流れる。ああやっぱり困らせてしまった。彼も遊んでる訳ではないことくらい分かっているのに。
「あ、ごめ——」
「それはこれからあげるつもりだけど?」
「え?」
思わぬ返答にキョトンとしてしまったのをレノは感じ取ったのか電話の向こうでクスクスと笑っている。
家の前でクリスマスケーキを販売をする店員の声が聞こえる。それは何故か電話の向こうからも同じ声が微かに聞こえて、ピクリと耳が震えた。
「てか、もうずっと前にあげてしまったもんをどうプレゼントしたらいいんだってか」
「え、え?レノ、今何処に」
「とりあえず、いい加減寒いからドア開けてくんね?」
その言葉を聞き終わる前に、私は立ち上がって玄関に向かって走り出していた。
扉を開けた先にはさっきのワインの色とは比べ物にならないくらい鮮やかな赤が広がって、迷うことなくその胸に飛び込む。
「うお!倒れるかと思ったぞ、と!」
驚いてよろめくレノにぎゅうっと力を込めて抱き着き、久しぶりのレノの匂いをいっぱいに吸い込んだ。この香りは紛れもなく、本物だ。求め焦がれたものがここに居るという幸せを噛み締めて、ふとピタリと止まる。急に動かなくなった私を見たレノは不思議そうに首を傾げた。
「どした?」
「最高のクリスマスプレゼントがきた……」
そう呟くとレノは至極満足そうに笑って私を抱きしめ返すと耳元でこう囁いた。
「メリークリスマス」
どうか愛する人たちが素敵な聖夜を過ごせますように。
<end>