* SS集 (FF) *
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
〈とにかくあやまれ!〉
「邪魔するよ!!」
神羅内の人間でもあまり近寄ろうとしない地下三階オフィスに騒然と現れた女。入ってくるなりでかい声で発されたセリフは何処かのお笑い劇を思い浮かばせて、その場にいたタークスの面々は思わず「邪魔すんなら帰って」と言いそうになった口を慌てて塞いだ。これを言った瞬間きっと自分の命は無くなってるだろうと本能的に察したからだ。彼女を怒らすと怖いのはずっと前から有名な話。
「一昨日ヘリ使ったの誰。操縦したの誰」
怯えるタークスの前ですごい剣幕で仁王立ちする様はまさに阿修羅のごとく。ぎろりと辺りを睨みつけ言われた言葉に、該当しなかった者はすぐさまホッと胸を撫で下ろす。
ただ、二人だけを除いて。
「「こいつ(だ)」」
「まぁーーーたアンタたちか!!」
責任を擦り付けるようにお互いを指さす赤髪とスキンヘッドをロックオンすると、どすどすと音が聞こえそうな足取りで歩み寄り二人の胸倉をガシっと掴む。
「私が大事にだーいーじーに育てたヘリちゃん何機爆破させれば気が済むのかな君たちはァ」
機械オタクの女はみんなこうなるのだろうか、近くに寄られると青筋がくっきり見えて余計に怖い。レノとルードはその勢いに気圧されながらも、自分の言い分を主張する為に口を開いた。
それにしても怖い。泣く子も黙るタークスより怖い人間がいるとするならば恐らく一番は彼女かもしれない。
「帰りはルードが操縦してたぞ、と」
「レノがちゃちゃ入れなければ無事だった」
「あー?あそこで俺が口出さなけりゃモンスターの群れに突っ込んでんだろ」
「言われなくても気づいていた。それに結局避けて山に突っ込んでる」
「擦り付け合いは見苦しいわよ!そこになおれ!!」
目の前で小さな喧嘩を始めた相棒たちを叱咤し、床に正座!と言うと彼らはしぶしぶそこに座り始める。後ろでその様子を眺めていたツォンは、この二人も彼女には逆らえないんだなと静かに憐みの目を向けた。
「あんた達にどんな都合があろうがこっちにゃ関係ないのよ。愛情込めて育てた宝物をあっさり壊されてこんな始末書一枚で片付けられた私の気持ち、わかる?ねぇわかる?」
「「ごめんなさい」」
いつの間に手に持っていたのかクルクルと筒状に巻いた始末書であろうモノでぺちぺちと二人の頬を叩きながら喋る様は最早鬼同然。さすがの二人もこれ以上楯突いては死しかないと直感したのか声を揃えて土下座する。完全に第三者のツォンもこの場から立ち去りたい気持ちになった。
「わーるかったよ、次からは気を付けるって」
「すまない」
「……わかればいいのよ」
素直に謝ると彼女は落ち着いたのかその怒気を少し抑え溜息をついた。意外にもすんなり終わったお説教にレノとルードも呆気に取られる。さっきの勢いはどこへやら、吊り上がっていた眉もいつの間にかハの字に垂れ下がり、へたりと二人の前に座り込んだ。急にどうした?と二人は彼女の顔を覗き込む。
「……怪我したんじゃないかって、心配したんだからね」
う、これは。
さっきと同一人物?俯いて涙目な彼女にぐっと心を掴まれそうになってレノとルードは無意識に自身の胸を掴んだ。突然可愛すぎないか?え、誰これ?
困惑を隠せない二人はおろおろとうまく言葉を出せずにいると、彼女はぐしゅ、と袖で涙を荒々しく拭い勢いよく立ち上がった。
「次壊すようなことしたらギロチンの刑だからね!」
そしてバタバタとオフィスを出ていった。その背中を三人はぽかんと見送る。
「今日はいつになく怖かったぞ、と。なぁ相棒……」
「あぁ……」
彼女の存在はとにかく心臓に悪い。色んな意味で。
しかしこの二人は彼女を怒らすのがどうしてこうも上手いのか、と心の中で溜息をついたツォンだった。
〈end〉