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( さむくてあったかい )
「さっぶ!!さっっっぶ!!」
とんだ災難にあった。
レノと共に北の大氷河へ調査に来て、順調に事が済んで早く帰れることに喜んでいたらまさかのヘリの故障。さらには頭上から大量の雪の塊が落ちてきて二人一緒にモロ被り。ビシャビシャ雪まみれで今にも凍死しそう。
「うううう凍る…温かいスープ…コーヒー…飲みたい…」
「言うな、余計に寒くなるぞ、と」
「変わらずはだけたあんたの胸元見てる方がもっと寒い」
「苦しいの嫌なんだよ」
そういう問題か。あんたの肌は寒さを感じないのか、羨ましいな!と思っていたらくしゅん、とレノがくしゃみをした。意外にも寒かったようだ。そらそうか。強がらずに前締めたらいいのに。
雪道を自力で歩いてなんとかアイシクルロッジまで辿り着いた。今夜はここで一晩過ごして明日辺り迎えに来てもらおうと一安心していたら、また新たな問題が発生。
「え、ベッドがひとつしかない…?」
目の前では申し訳なさそうに宿屋の店主が頭を下げている。え、レノと一緒のベッドで寝ろってこと?いやいやいや待って待って、無理無理いやいや、恥ずかしくて無理!!
いや、私は良いんだけど、好きだし。ええ、片思いなんですけど、好きなんですよ。だからこんなラッキーなこと今後ないかもしれないってくらい嬉しいんだけど、レノの気持ちを無視してそんなことできないし。
どうしよう、これは言葉が出てこない。と黙っていたら先に口を開いたのはレノの方だった。
「そこでいいぞ、と」
あっさりと店主に「準備してくれ」と先払いの宿代を渡し、しれっと案内された部屋へ向かうレノの腕を慌てて引っ張った。
「待って待ってレノ!一緒の部屋でいいの!?」
「そんなこと言ってる場合じゃねーだろ、いい加減風邪ひきそうなんだよ」
「う、そ、そうだけどさ…」
確かに今はこの濡れて冷えた身体を温めることが先決だ。触れたレノの腕もさっきより冷たい。先に着替えるなりなんなりしてから後でこの問題を考えようと、仕方なくレノの後ろに着いていった…
「——のに何で」
「ん?」
「私、なんで今レノに後ろから抱っこされてるんだろ?」
「さみーから」
「そうだねーくっつくと温かいねー…いやだから!」
「あーもううるせーな」
少し黙ってろ、と後ろから抱きしめる腕の力を込められて余計に逃げられない。数分前は着替え終えて温かいコーヒーを飲んでいたはずなのに。「もう眠い」とベッドの中に潜り込んだレノにじゃあ私はその辺のソファで…と声を掛け動こうとした瞬間、腕を引かれてこの状態。薄いシャツしか身に纏ってないだけに、レノの肌の感触が何となくリアルで、とんでもなく恥ずかしい!
「や、もう離してよ…っ」
「やだ、なんで」
「なんでって、心臓持たない!」
こんな状況、冷静にしていられるわけが無い。好きな人に抱きしめられて心臓が通常運転でいられる人この世にいる?バクバクとでかい振動をたてて口から全部出てきそう。うう、首筋にレノの髪の毛が触れて擽ったい。吐息をリアルに感じて、顔中に熱が集まる。
「そ、もそも!好きじゃない女にこんなことしないでっ、よ!」
「…好きならやっていいのか?」
「え?ま、まぁ…」
「なら問題ないぞ、と」
「は?」
今なんて言った?と聞こうと開いた口は、いつの間にか目の前にあったレノの唇で塞がれた。突然のことに頭が働かず、離れた後も口をパクパクしているとレノの口端が微かに吊り上がる。
「俺も好きなんだよ、お前が。いい加減気付けよばーか」
少しだけ照れ臭そうな顔が眩しい。うう、これは夢か。寒さで朦朧とした頭が見せた幻か?
「何でもいい夢なら覚めないで!」
「何言ってんだお前」
「いたっ」
ぺこんとおでこに軽くデコピンをされた。痛いってことは夢じゃないのか、ということは現実!?
今の状況が幻ではないと気付いてまた熱くなる顔。それを見たレノは満足そうに笑って私の頬を優しく撫でた。
「な、両想いってことだから大丈夫だろ?」
「まあそうか…ってあれ?私まだ好きって」
「あのな、お前、バレバレだからな」
「なんと!!」
恥ずかしくてきゃーっ!と顔を手で覆う。それでも耳まで顔を赤くしていることはバレてしまうのだけれど。だからレノは笑いながら私の手を掴んで、何度も頬にキスをして反応を楽しんでくる。レノらしからぬ甘い雰囲気にこれ以上は心臓が爆発してしまうんですが!
コンコン
「あのーすみません、今しがた予約のキャンセルが入って二人部屋が空いたのですが…」
また唇が触れそう、という所で鳴るドアの音にピタリと動きが止まった。
ナイスタイミングー!!なのか?は分からないけど心臓が耐えきれそうになかったからドアの向こうから聞こえる店主の声にホッと胸を撫で下ろす。よし、部屋を移してもら——
「あーこのままで大丈夫だぞ、と」
「え!!」
レノの返事に「分かりました」と店主が応え、パタパタと足音が遠く離れていく。
「え、え?レノ?」
「このまま一緒に寝るんだから平気だよなぁ?」
にたりと笑う顔に少しだけ狂気を感じた。既にシャツのボタンに手を掛けているその素早さに、何故か今更、私とんでもないひとを好きになったんじゃないかって、そう思ったんです。
「たっぷりあったまろーな、と」
この人やっぱ顔がいいわ。と突っ込まずにはいられない笑顔のレノに迫られて、最早拒むことなんて出来ずコクコクと頷く。
そもそも拒む気なんてないんですよ、好きですから。
〈end〉