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( 良いとこ持ってかれた )
社長が仮装をしてハロウィンパーティーをしたいそうな。
イリーナが護衛帰りにそんな話を持って帰ってきた。その表情は至極高揚していて、どうやら社長と話が盛り上がっていた様子。にひひと笑いながら何やら意味深な箱を取り出してきて、私を含むタークスのメンツは目を真ん丸にした。
「という訳で、くじで何の仮装するか決めましょう!」
唐突にも程がある!
余程二人の計画はスムーズに進んだんだろう。しかも衣装は全て社長が用意してくれるらしい。レノがめんどくせぇ、とやる気のない声をあげるが、イリーナの社長の命令ですよ!の言葉に皆諦めたように項垂れた。
一人ずつ箱に入ったくじを一枚取り出し、周りに見えないように中を見る。
私は、吸血鬼。露出の高いものじゃなくて良かったと胸を撫で下ろす。後ろでレノが「はー?!ぜってーやだ!」と暴れてる。とんでもないものを引いたみたい。ご愁傷さま…。ルードは無言で開いた紙を凝視しているし、イリーナは相変わらず楽しそうにしている。主任は…私の隣でルードと同じようにピタリと固まってしまっていた。その時、主任が手に持っていたくじの内容がうっかり目に入り、私も動揺で固まった。
「しゅ、主任、これ…大丈夫です…?」
「……さぁな……」
平静を装ってはいるものの、よく見れば若干顔が引き攣ってる。え、ホントにこれを主任が着るの?怖いもの見たさの複雑な心境を言葉に出来なくて、ただ二人並んで沈黙を貫いた。まあ、似合う、気はする…。
***
ハロウィン当日。
私は早々に仮装の準備を終わらせ、パーティの準備をしていた。さすが、社長の用意してくれた衣装は生地から全てが豪華。吸血鬼のマントは裏地まで上品な光沢を放っている。
「あーもー早くパーティ終わらして帰りたいぞ、と!」
「ぶっくくレノ先輩似合ってますよ!ね!ルード先輩!」
「レノ、諦めろ…」
勢いよく部屋に入ってきたのは、ぶつくさと文句を言いながらもふわふわの猫耳としっぽが可愛いレノと、ミニスカポリスが似合ってるイリーナ、そして頭に釘を刺した(?)フランケンシュタインの格好に全く違和感の無いルードだった。
「さ、三人とも、よく似合ってる…!ふはっ」
「笑うんじゃねーよ!牙折るぞ!」
意外にも良く似合ってるみんなの仮装に笑いが込み上げる。レノは不機嫌そうだが、ルードに宥められ諦めの表情を浮かべていた。ふわふわの耳、後で触らせて貰おう。
「後は主任と社長ですね〜」
イリーナの言葉にビクッと体が反射で跳ねた。主任の仮装と言えば…本当にあれを着るのか?見ていいのか?この中で一人だけ知ってる私だけがソワソワと落ち着かない。
「皆揃っているか?」
タイミング良く入ってきたのは社長。その軽やかに入ってきた我が社のトップの姿に皆唖然とする。意識の高い人間は仮装の意識も高い。絵本からそのまま出て来たのではないかと思うくらい本格的な王子姿が良くお似合いです社長…。そこら中に小さな宝石が散りばめられた衣装は一体いくらかかったのだろう。まさかそこに白馬待たせてませんよね?
キラキラと輝く歯を見せて笑う違和感の無い王子社長に皆固まったが、そんな時に高い順応性を持っていたのは意外にもイリーナだった。
「主任がまだなんですよ~」
「まさか仮装が嫌で逃げたんじゃないだろな」
レノの言葉にありえる、と納得しそうになる。あんな仮装をさせられるくらいなら多忙を理由にとんずらしそうだ。だけど、それを聞いた社長はふふふと怪しげな笑みを浮かべた。
「ツォンはちゃんとそこに居るぞ」
そこ、と指さす扉の方向に皆の視線が集中する。カツ、と靴の音が聞こえると同時に、部屋の扉が開いた。何故か力が入り汗ばむ手。人の仮装を見るのにこんなに緊張するものなのか。誰かのゴクリと唾を飲む音が聞こえてくる。シン、と静まり返る部屋にゆっくりと入ってきた人物に、社長以外のメンバーが言葉を失った。
「良く似合ってるぞツォン、口説きたくなるな」
「冗談はやめてください社長…」
「え、しゅにん…ですか?」
「他に誰がいる」
嫌悪全開の表情でそこに立っていたのはスラリと長い生足がギリギリまで露出され長い黒髪を靡かせた美人ナース。黒いパンプスがよりスタイルの良さを際立たせる。ご丁寧にメイクまでされて少しがたいは良いが女性に間違われても仕方がないのでは。いやクオリティ高すぎません!?
「ぶっは!主任マジかよ!似合いすぎだろ!」
後ろではレノが爆笑してるしルードは肩を震わせて明らかに笑いを耐えている。イリーナは自分より美人に仕上がっている主任にショックの色を隠せずに落ち込んでいた。社長はニコニコと満足げに主任を見つめるし、何だかもう空間がカオス状態。これ誰が収集つけるんだろう。なんて思っていたら主任が後ろからスッと取り出したのは特大サイズの注射器…え?注射器?
「これ以上うるさくするならこれを突っ込むぞ…」
ドスの効いた声でレノ達に圧を掛けるとあっという間に彼らは大人しくなった。待ってそんな小道具どっから用意してきたんですか。神羅はそんなものも作ってるんですか?え?ツッコミ追い付かないんですけど!
私の心のツッコミはさておき、一瞬でその場を収めた美人ナース主任の威力にさすがとしか言いようが無い。
すごすごと準備の続きを始めるレノ達を見て何だかおかしくなって笑ってしまった。
それを主任は見逃していなかった。
「君にも笑えなくなる注射が必要か…?」
「え、あの、え?私?」
笑顔でズイっと迫る主任の目は全く笑っていない。こわっ!こわいです主任!
「君には特別な薬にしないといけないな」
それ、怒ってます?それとも楽しんでます?
後で覚えていろ、耳元で囁かれた言葉の意味は分からないままの方が幸せかもしれない。
〈end〉