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( 特権 )
「好きです!付き合って下さい!」
いや、このセリフ私じゃないですよ?
ちなみに私が言われた訳でもない。
一番端の校舎裏。私はいつもそこで一人パンを片手に本を読みながら昼休みを過ごす。人通りの少なくて絶好の穴場だったのに、今日は珍しく先客がいるようだ。しかもまさか告白現場に遭遇とは、運が無いな。今日は別の場所を探そうと身を翻しそうとした時、聞き覚えのある声が聞こえて思わず足を止めた。
「あー、ごめん!俺、部活のことで精一杯でさ」
この声は、とそっと校舎の角から覗いてみると、黒いツンツン髪の少年が力いっぱい手を合わせて目の前の女の子に謝る仕草をしているのが見えた。やっぱり、あれは同じクラスで幼馴染みのザックスだ。クラスのムードメーカーで、爽やかでカッコいいと女子からも人気がある彼。最近特にモテるようになった気がするのは恐らくバスケ部のレギュラーになったからかな。そんな肩書きが無くたって私はずっと見てたのに。
やっぱり告白現場なんて見るもんじゃないな。好きな人の人気ぶりに少し遠い人になった気がして素直に凹む。小さく溜息をついて、もう帰ろうと思ったその時。
「なーに?盗み聞き?」
頭上から突然声が聞こえた。さっきまでもっと遠い場所に立っていたはずの彼はいつの間にか見上げなければ顔が見えない程近くにいて、急に縮まる距離感に思わず後ずさりする。
「……ここ私のお昼場所」
「へー、あ!俺も昼飯まだだった!」
「早く教室戻ったら?」
「いーや、お前のパン一個貰おっと」
「え!」
頼むよお願い〜っと仔犬の様な目で懇願されちゃ何も言えなくなる。偶然にも今日はパンを多く買っちゃってたから別にいいか。
「あーこれ、俺の好きな焼きそばパンじゃん!」
うぐ、そうだよ。今日はそれを余分に買ったんだよ。いつもは早々に売り切れる購買の焼きそばパンがまだ残ってて、子供の頃からザックスは焼きそばパン好きだったな〜なんて思い出しちゃったからつい手に取ってしまった。まさか彼に食べられるとは思ってもなかったけど。
「もしかして、俺が好きなの覚えてた?」
私の頭の中を見透かしてたのか、ザックスが心做しか嬉しそうな面持ちで聞いてきて心臓が跳ねた。「冗談だよ」って彼は言うけれど、それ、合ってるよ。
「焼きそばパン、好きなの覚えてるよ」
ザックスが好きな物くらい、ちゃんと覚えてる。だってずっと見てきたんだもん。でも、まだ私にはそれを言う勇気はない。
「じゃあさ、他にも俺が好きでしょうがないのがあるの、知ってる?」
「え?えっと……生姜焼きとか?」
「あー食べ物じゃないんだなー」
「なんだろ、ギター……漫画、あ!バスケ!」
「おしい!それも好きだけど!」
彼からのクイズの答えがどうしても知りたくて、思わず真剣に考え込むと、ザックスはクスクスと笑い出す。笑ってないで答え、早く教えてよ。
「まだ分かんないか、まあいーや、答えはまた今度な」
「え、教えてくれないの?」
「それ言う勇気まだないから」
え?とまたザックスの言うことに首を傾げると、いつの間にか彼は少し照れくさそうに頬を染めていて。まだ未熟な私はその意味が全然分からなかった。
「ねー、教えてよ!」
「いーや、まだ修行が足りん!」
「何よ修行って!焼きそばパンあげないよ!」
「あーダメダメ!ちょうだい!」
昔から変わらない彼に笑みが零れる。みんな、知らないでしょう?幼馴染みだからこそちょっぴり感じる優越感。少し焦れったいけどまだこの関係に甘えていたいな、なんて告白する勇気が出ないことの言い訳にした。
実は彼も同じ気持ちだったなんて、この時知りもしなかったけど。