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( 夕焼けの向こう )
「ルーファウスお兄様、今時間ある?」
最近仕事で忙しくしていた妹から突然連絡が来た。久方ぶりに聞いたその聞き心地の良い声に心なしか気分も上がる。
「あぁ、1時間くらいならいけそうだ」
「そう!じゃあ少し付き合ってほしいの!」
買い物か?と聞くと違うと言う。ここに来て欲しいと呼ばれて行ったのは神羅ビルの屋上だった。屋上の端で外を見つめている妹を見つけ足早に歩み寄る。特に珍しくもない場所に連れてきて何をしようと言うのだろうか。
「こんなところに呼び出して何をするつもりだ?」
「あっお兄様!見てみて!」
出会うなりピョンピョン跳ねながら外を見るように急かされる。不思議に思いながら視線を遠くに向けると、一面に広がる赤い夕焼けが視界に広がった。神羅の屋上という一番高い場所から見る景色は、邪魔なものは一切なくのびのびとグラデーションの光を放っていた。
「ね、綺麗でしょ」
隣で自慢げに笑う妹。しばらく見ない間にまた大人びた。黒く輝く髪をさらりと靡かせ夕焼けを見つめる彼女は少し前とは別人のよう。
「あぁ、見事だ。」
「でしょ?この間レノと一緒に見た時に感動して!お兄様とも一緒に見たいなって思ってたの!」
またあの赤毛か。相変わらず関係は続いていたのか。それは良い事ではあるが最愛の妹を取られて正直複雑な気持ちなのが本音だ。まぁ、長い年月と幾つもの壁を乗り越えて結ばれた二人なのだから祝福してやりたい気持ちは山々なのだが。
「レノ、こんなロマンチックなことしてくるの、意外でしょ?」
皮肉にも、レノ、という言葉を嬉しそうに発する彼女を見ていると複雑な気持ちはどこかへ飛んでしまった。意外にも単純な所が俺にもあったのかと自嘲するように笑った。結局、彼女が幸せであればそれでいいのだ。
「お兄様にも、大切な人ができたらここに連れてきてあげてね。」
「…突然何だ?」
「だって、今までお兄様の浮ついた話一つも聞いてないんですもの。気になっちゃって。」
「大事な妹のことで頭がいっぱいだからな。」
「私のせい!?…そりゃ、迷惑はいっぱいかけてるけどぉ…」
ぶつくさとボヤキながらしょぼくれる彼女が何とも愛らしい。
もちろん出会いが無いわけではない。むしろ鬱陶しいと思えるほど。それなのに目の前の妹より大切に思える存在に出会えないのだ。そう思うと確かに自分の行く末が心配だな。
「んーでもお兄様に大切な人ができたら私ヤキモチ焼いちゃいそうだからまだ連れてこなくていいかな!」
頭の中を見ていたのかと思うタイミングで彼女がそう言って俺は目を見開いた。
至極真面目な顔で「まだ私だけのお兄様でいて!」などと言うものだから思わず笑ってしまう。
「ふっお前の一番は俺ではない癖によく言う。」
「あら、私はお兄様もレノも同じ位大切よ?」
欲張りなの、とはにかむ顔が夕焼けの赤に包まれ輝いている。
彼女が以前よりも素直になったのは、おそらくこの夕焼けのような赤い髪のタークスのお陰なのだろう。やはり感謝せねばならないな、と頬を綻ばせた。
「安心しろ。今はまだ、俺の一番はお前だけだ。」
いつか、君と同じ位大切な人に出会えた時は、赤毛を放ってとことん妬けばいい。
そう心で呟きながら、沈みかける夕焼けを再び見つめた。