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( happybirthday )
『お姉ちゃん、明日、夕方5時に、迎えに行くから待っててね』
昨日、そんな手紙が家のポストに入っていた。可愛くて、女の子らしい字。封筒の裏にはマリン、と三文字が綴られていた。最近よく通うようになった、セブンスヘブンというバーで出会った女の子だ。
丸い大きな瞳と黒いサラサラの髪が可愛くて、とても人懐っこい愛らしい子。出会ってすぐに仲良くなった。お店に行くたびにお菓子を一つ、彼女にあげるのが定番。大して高くもないお菓子だけど、輝くような笑顔で喜んでくれる。マリンの笑っている顔がとても癒しになるのだ。
そんな天使のような子が、今日、何をしてくれるのかは分からないけど、ここまでわざわざ迎えに来てくれるのだから、私は大喜びで今出かける支度をしている。
時間はもうすぐ夕方5時になろうとしている。
まだかな、まだかな、とわくわくが止まらなくてソワソワしていると、ピンポン、と家のチャイムが鳴って、はーい!と返事をしながら家のドアを開けた。
「マリンちゃん!いらっしゃ…」
「おう、マリンじゃないが迎えに来たぜ」
「!バレットさん!」
扉の前にいたのが想像してた人とは違って、目を真ん丸にして驚いてしまった。マリンのお父さん、バレットさんは少しだけ照れ臭そうに笑って私の前に立っていた。
「マリンが忙しいから俺に行けって言ってきてよ、、」
「そうなんですか、ありがとうございますっ」
忙しい、って何をしているんだろうか、今いち状況が読めなくて首を傾げていると、
自分が迎えでガッカリしたと勘違いしたバレットさんが、「悪いな」とバツの悪そうに言うもんだから慌ててそうじゃないと訂正した。
見た目はいかつくて怖そうなのに、どこか繊細な部分を持っているバレットさんは、想像よりも優しい人なんだろうな、って思う。
「ところで、今からどこに?」
「聞いてねーのか?セブンスヘブンに行くんだよ」
いつもの場所じゃないか。なぜ迎えが必要なんだろう。ますます不思議に思えてきた。
「あのー、言ってくれたら、自分で行けたんですけど…」
「あーそれは、5時まで来てほしくねーからだな」
「何でですか?」
「それは、あんたの…って、いや、」
急にどもり始めるバレットさん。いやいや、私の、なんですか?と視線を向けると、気まずそうに今のは忘れてくれ、だって。何か、言えない理由があるんだろう。これ以上は聞かないことにした。
しばらくお互い沈黙の状態で歩いていると、ふと、バレットさんが私の方へ振り向いた。
「いつも、マリンの相手、してくれて悪いな」
「え…」
「あんたに世話になってるって、よく話してるからよ」
「そうなんだ…いえ、私の方がマリンちゃんにお世話になってます」
普段、バレットさんはあまりお店にいないと聞いたことがある。だから、二人の親子水入らずの貴重な時間に、私の話題が出てくるのは正直嬉しい。へへ、と照れ臭さを感じながら、返事をすると、バレットさん嬉しそうな表情をしていた。
「だからよ、今日はいつもの礼だ。」
いつの間にか、セブンスヘブンの前に辿り着いていて、バレットさんはコンコンと軽くドアをノックした。いつもはノックなんてしないのに、何でだろう、と思っているとゆっくりドアが開いて、私の視界は突然、キラキラに包まれた。
「「「お姉ちゃん!お誕生日おめでとーーー!!」」」
パーンと大きなクラッカーの音が鳴り響いて、一瞬、目を瞑ってしまった。
ゆっくり瞼をあげて、見えた先には、部屋の真ん中のテーブルに置かれた、大きなケーキと、見るからに美味しそうなご馳走たち。
そしてそれを囲む、見慣れた人たちの姿。その中心には、マリンちゃんがいる。
「お姉ちゃんを驚かせたくって、内緒で準備したんだよ!」
いつもの愛らしさを纏ったマリンちゃんが、いつもより興奮気味にそう言った。
あ、私、そういえば今日誕生日だったんだ。
毎日、バタバタと過ごしてきて、自分のことを忘れていた。ぽかん、と口を開けて呆けていると、「まさか忘れてた?!」と私の心を読んだマリンちゃんが驚いていた。
「毎日忙しいと忘れちゃうよね、いつもお疲れ様」
優しく声を掛けてくれたのは店主のティファさん。きっと、料理はティファさん特製なんだろう。とても美味しそうで、早く食べたい気持ち。
ケーキは、、なんだか、ちょっと歪?
「ケーキ、私が手伝ったんだよ!お姉ちゃんの大好きなリンゴのケーキ!」
私の好きなもの、覚えててくれたんだ、嬉しいな。
ところどころ、クリームがよれているけど、マリンが頑張って作ったものと思うと何もかもが愛おしくて、にやついた顔でケーキとマリンを見つめた。
「ありがとうございます…っ」
徐々に込み上げてくる嬉しい気持ちで、目の奥がツン、と熱くなってきた。
私、何もしてないのに、こんなにしてもらっていいのかな…。
「俺達も、あんたには感謝、してんだぜ。」
私の気持ちをまるで分っていたかのように、後ろにいたバレットさんが、そう言ってくれた。やっぱり、優しい人だ。
マリンちゃんも、うんうん、と大きく頷いて、ティファさんも優しく微笑んでくれている。
「お姉ちゃん、おめでとう!いつも、ありがとう!」
マリンちゃんの、元気な声が部屋中に響いて、私の心がどんどんポカポカ温まってきた。あぁ、今日まで頑張って良かったな。
「ありがとう」
年に一度の、忘れられない日になったよ。