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(Con te)
神羅のヘリポート、そこが私の隠れ場所。
格納庫に広がるオイルの匂いも好きだけど、何より好きなのは夜のヘリポートから見える街の景色。街より少しだけ高い場所から見る光景は、プレートの煌びやかな光だけでなくスラムの淡い灯まで眺めることができて、ミッドガルという街の大きさに圧倒される。
私の悩み、苦しみなんて、ちっぽけなものなんだろう。そんな気分に少しだけさせてくれるこの場所が好きだった。
何かに逃げたい衝動に駆られた時、無意識にこの場所に来てしまう。ヘリポートに着陸してそのままのヘリをそっと撫でて、いつもご苦労様と心の中で語り掛けた。私たちの荒い操縦にもよく耐えてくれている。
そして、ふらっと外に目を向けた。相変わらず煌々と輝く街のライトが私のいる場所まで照らしている。いつもだったら、この輝きを見て元気、出せるのにな。今日はどうしても、そんな気分にならない。
まだ暖かい季節だと言ってもやはり夜は冷えるのか、冷たい空気に体が震えて両手で自身を抱きしめた。もう帰ろう。ここで立ち竦んでいても、意味がない。
「風邪を引くぞ」
突然後ろから聞こえてきた低い声。それと同時に、肩に掛かる微かな重み。
すっぽりと包み込む大きさのそれからじんわり伝わる温かみと、私のよく知るタバコの香り、それが彼のジャケットだと分かるのは容易だった。
「…ルードが風邪引くよ。」
「こうすれば問題ない。」
ジャケット越しに背中に重みを感じて、彼の腕が私の体を抱き込む。包み込むような優しい抱き方が彼の人柄を物語っていて、目の奥が熱くなってくる。今は、優しくしないで欲しいのに。
「…傷は?」
俯きがちに、少しだけ震える声で問うと、私を抱き込むルードの腕の力が少しだけ増した。
「かすり傷だ、マテリアで完治した。」
嘘だ。抱きしめる腕から微かに鉄の匂い、してるよ。
あの時、撃たれた瞬間の記憶は無い。でも結構な出血だった。地面にボタボタと滴り落ちる血の光景が、今でも私の脳裏に焼き付いて離れてくれない。大事な人を失くす、そんな漠然とした恐怖が一瞬で体中を蝕んだ感触がまだ残っている。本当なら私が流すものだったのに。逃げ損ねた私を庇わなければ、こんなことに、ならなかったのに。
「もう、あんなことしないで。」
如何なる時も任務遂行を優先するのがタークスのルールだ。足手まといには時には非情になることもやむを得ない。たとえそれが恋人でも、だ。
「体が勝手に動いた、どうしようもない」
「…ずるい言い方」
もうしないって、嘘でも一言そう言えばいいだけじゃない。変な所正直で、不器用な人。でもそんなところが好きになったのだから、私も大概どうしようもない。
「無理なことを言うお前の方が、ずるいな」
ふ、っと後ろから笑う声が聞こえて、抱きしめていた腕を緩めたと思えばその手で私の頬を掴み、後ろからキスを求められた。
ゆっくりと近づくルードの口づけに、静かに目を閉じて身を委ねる。唇から感じる温もりが、冷えかけていた心を奥からじんわりと温め直してくれる。何で、キスって、こんなに安心するんだろう。街の輝く光を見ても何も感じなかったものは、愛する人のキス一つで簡単に光を灯し始める。温まる体から込み上げてくる涙。私は、あなたの前ではこんなにも弱くなってしまう。
「無事、で…良かった。」
「安心しろ。お前を残してそう簡単には死なない」
そう言って再び降りてきたキスは、まるで誓いを込めているようで。私は体を反転させ、誓いに応えるように力いっぱい彼の体を抱きしめた。ルードは、何も言わずまた抱きしめ返してくれる。どこまでも、優しい人。ずっと、離れたくない、大切な人。
「帰ろう」
うん、帰ろう。
今日も、私たちの家に共に帰れることに感謝して。