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(Nascondere)
入社して何年とかもう忘れちゃうくらい、私は神羅カンパニーにお世話になってる。
後輩もできて、本当だったらもっと頼りになる先輩!って言われるくらいしっかりしたいのに、私の理想の先輩像と現実は悲しいことに遠くかけ離れていて。
この間は任務先を間違えて大遅刻、先週は転びそうになってルードの足を思いっきり踏んじゃったし、そして昨日は持っていた資料を廊下に盛大にぶちまけた。
つまり、鈍くさい、の一言に尽きる。なんと情けない。
タークスのオフィス前で一人佇む。
今日こそは、問題なく無事に終われますように。最早私の一日はこうして扉前で祈ることから始めるようになってしまった。
「おはようございまーす…」
「あ!先輩!おはようございます!」
恐る恐るオフィスの扉を開けると、まず後輩のイリーナが元気よく挨拶をしてくれた。
その向こうには主任が立っていて、横目で私を見ながら「おはよう」といつもの落ち着きよう。でも私はなんだか落ち着かない。それもそのはず、主任とは最近恋仲になったばかりで、未だその関係に慣れない私は目を合わすのも必死の状態。
仕事に支障を来す可能性があることから、周りに関係を隠そうと主任に言われているだけに、余計に緊張してしまう。
どうやら今オフィスにいるのはこの二人と私だけのようだ。そういえば、レノとルードは昨日から長期出張って言ってたっけ。二人がいない分、事務作業が自動的に増えるので早くしないと帰れなくなってしまう。
そう慌てて席に着こうとしたのが、今日一番の間違いだった。
「…あっ」
見事に足を絡ませてしまった私は勢いよくイリーナの背に向かって倒れてしまい、後ろからタックルされたイリーナはそのまま前にいた主任の胸にダイブ。
主任は突然のことに驚きながらもイリーナを優しく抱き留めて、少しだけ様になる二人の様子に、目を見開いて絶句する。
「ああっ主任すみません!」
「いや、構わない。」
二人が寄り添っていたのは一瞬ですぐにイリーナは身体を離したけれど、その顔は真っ赤になっていて、私のせいとは言え胸がチクンと痛くなった。
いいなぁ、私なんて、最近そんな風に抱きしめてもらったことないのに。
イリーナ、ずるいなぁ…って、今はそんなこと考えている場合じゃない。
イリーナにごめんと謝罪をすれば、いいですよ~ちょっと得しましたし!と満更でもない様子で、軽い足取りで扉から出て行った。
オフィス内には私と主任の二人きり。なんだか、さっきのイリーナの様子もあって、少しだけ気まずい雰囲気。せっかく二人で話せるチャンスだというのに、少しも目を合わせられない。
主任はこんな時でも黙ってるし、パソコンの起動音やら時計の音がやたらと耳につく。なんとか居心地の悪いこの状況を脱出できないものか、と声を絞り出した。
「あ、あの、すみませんでした…私はこのまま事務…っ」
話している途中だというのに、突然、背中に感じる温かい体温。
同時にするりと腰回りに腕が回され、ぎゅ、と抱き寄せられた。
背後からふわりと鼻を擽るシトラスの香りで、ツォンに抱きしめられていると気づく。
「…え?しゅ、にん…?」
こんなことをされたのは初めてで、戸惑いを隠せない声で名前を呼ぶが返事は無い。 すると彼の左手が私の頬に触れ横にそらせると、唇に優しいキスが降ってきた。
ちゅ、と軽いリップ音が耳に入る。突然のことに目を閉じることも忘れて彼の長いまつげを眺めてしまった。短いキスだったはずなのに、何故か時間が止まったかのように長く感じた。
「ん…っ」
「…ふ、随分物欲しそうな顔だな」
唇をゆっくり離され、蕩けた顔で見上げると、満足げに笑む主任の顔。
さらに耳元に顔を寄せ小さく呟かれた言葉にまた全身が蕩けそうになってしまって、この人はやっぱり私の恋人なんだと実感した。
「今日は定時で終われそうだ。家で待っていろ。」
手元に違和感を感じて見下ろすといつの間にか握らされていた何かのカギ。
何のカギかはすぐに察しがついて、心臓のドキドキが止まらない。
今日の私は一段と鈍くさくなりそうです…。