Garnet
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Garnet ―13 〈END〉―
仕事が無くなって時間に余裕ができた私は足の完治後、真っ先に伍番街の教会に向かった。相変わらずエアリスは丁寧に花の手入れをしていて、私が来たことに気付くと心配そうな顔で迎えてくれた。
どうやら誰かから拉致事件のことを聞いたらしい。怪我は無かったのか、何で一人で乗り込んだのだとか、次からは絶対危ない場所には行かないように! だとかまるで母親と話しているような気分になる内容ばかり投げられて思わず笑ってしまった。言っとくけど、私の方が年上だよ?
「大丈夫、レノが助けてくれたよ」
そう言うと、エアリスは「そっか」とすごく嬉しそうに笑った。それから、教会の椅子に座って今日までの事をいっぱい話した。エアリスはうんうんと頷きながら私の話に耳を傾けてくれて、時折冗談を言い合ったりして。年相応の会話ってこんな感じなのかな。ゆっくりとこんな時間を過ごせたのは本当に久しぶりだった。
「ナナシ、幸せそうだね」
最後にエアリスは慈愛に満ちた声でそう言ってくれた。エアリスの声はいつも私の心に光を灯してくれる。子供の頃から、何度この声に救われてきたのだろう。
「エアリスのおかげだよ」
「ふふっ、嬉しい」
彼女は古代種で、神羅が求めて止まない存在。それを彼女が望んでいないことは分かっている。たとえお互いの立場が相容れないものになったとしても私たちは友達であることに変わりはない。
「ねぇ、ナナシ、一人でここに来たわけじゃないでしょ?」
「あ、うん、レノが外に」
拉致事件があってからは絶対に一人で出歩くなとお兄様にきつく言いつけられて、しばらくの間は護衛能力の高いタークスが必ず付くことになった。と言っても、何故かそれはいつもレノが任されていて。みんな優しいなぁ。なんて思ったりして。
すると、エアリスは突然教会の扉に向かって大きな声で「レノー!」 と叫んだ。しばらく無音が続いた後、きぃ、と扉が開き面倒くさそうな表情の赤毛が入ってきた。
「あんだよ、と」
「ナナシをこれ以上泣かせたら承知しないからね!」
びしっとレノに指さして釘をさすエアリス。何だかこっちが恥ずかしくなるセリフに慌ててしまった。レノはきょとんと目を丸くしてから、はっ、と揶揄うように笑う。
「泣かされてんのは俺の方だっての」
はい、分かってます! いっぱい振り回してごめんなさい! 過去を思い出すたびに迷惑しかかけていないことに気付いて、自責の念にとらわれる。徐々に俯き始めた私に気付いたのか、レノは「まぁ…」と再び口を開いた。
「これからは俺がナナシを泣かす方になんだろな、ベッドの上で」
「「……!」」
にやり、と余裕の笑みで揶揄うレノに、エアリスと私は顔を真っ赤にして驚いてしまった。なんてこと言うんだこのバカ! その場に居た堪れなくなって、にやつくレノの背を押しながら「またね!」と去ろうとすると、エアリスは苦笑いで手を振ってくれた。
「もう! 変なこと言わないでよ!」
教会を出てスラムを歩きながら未だに笑っているレノを軽く咎めると、わりぃわりぃと適当に謝られた。次にエアリスに会う時、どんな顔したらいいんだ。先の事を考えてため息が漏れた。
「あ、寄り道したい」
先を歩いていたレノに声を掛けると面倒くさそうに返事をするものの、何処だよ、と行き先を聞いてくる。何だかんだ面倒見がいいというか。向かったのは孤児院の近くにある小さな丘。少しだけスラムの景色が見渡せるここは私の特別な場所だった。
「孤児院に居た頃ね、よくここで昼寝してたんだ」
うーんと伸びをして、丘の空気を吸い込む。久しぶりに訪れた場の空気は以前と全く変わらない。レノも丘の先に立って、そこから見える景色を楽しんでいる様子だった。
「私ね、これからのこと決まったよ」
レノの横に立って景色を一緒に眺めながらそう言うと「おー」とまた適当に返事をされた。もうちょっと気のある返事できないのかな。いつものことだから気にしていないけど。
「明日から都市開発部門の社員として働くことになったの」
あれからお兄様が色々と手を回してくれて、リーブ統括の下で一から始めることになった。まずは一社員としてミッドガルの事、神羅の事を学んでいく必要があった私には、都市開発部門は打って付けの場だ。私は、まだ諦めてないって前に言ったでしょ? と、レノに余裕の目を向ければ、彼はまた鼻で笑った。
「ま、はなから心配なんてしてねえけどな、と」
お前しぶといもんな、と頭を撫でられる。全然褒められた気がしないけど、レノの手の感触が気持ち良くて、ふふ、とはにかんだ。
「私のお守り、もうしなくていいね」
「肩の荷が下りたな、と」
「人をお荷物みたいに言わないでよ!」
相変わらず皮肉しか言わないレノの腕をバシバシ叩く。痛いと言う割には笑っているしやめてやらない。明日からまた忙しい日々が続くし、こんなスキンシップさえ貴重なことに思えるから。
「なぁ」
叩いていた手をあっさり片手で受け止め、グイっと体を引き寄せられる。急に距離が縮まってドクンと胸が高鳴った。間近で合った薄いグリーンの瞳から目が離せない。
「これ、就職祝い」
流れるように両手を首の後ろに回されて、チャリ、と金属が擦れる音が耳を擽った。ゆっくりと手が離れたと思ったら首元に少しだけ重みを感じてふいに視線を降ろす。
「これは……」
胸元にキラリと光るネックレス。その輝きはガーネットのように、レノの髪色のように赤くて。何処か見覚えのある色に言葉を失った。
「あの石、ちょっと加工させてもらったぞ、と」
「……綺麗」
「ちなみに、俺と一緒な」
ん、と横顔を向けられて何事かと目を丸めたが、普段から何もつけていないはずの彼の耳に、ネックレスの石と同じ光を放つピアスがキラキラと輝いていた。同じ石で作った、とはにかむレノにきゅうっと胸が締め付けられて目の奥がツン、と熱くなる。
「約束、やりなおしだな、と」
両手をぎゅっと握られて額をこつん、と合わせあう。
「俺が、ナナシを守ってやる」
死ぬまで、と漠然としたことしか言えないけど。それでもその言葉は私を喜ばせるのに十分な誓いだった。涙を堪えながら、うん、とゆっくり頷くと、レノの唇がゆっくり近づいてきて委ねるように静かに目を閉じた。
さらりと優しい風が二人の体を包み込んでいく。ひんやりと冷たいはずなのに、唇から伝わる熱は全身をじんわりと温めて冷める気がしない。
「ねぇ、レノ」
「ん?」
「大好きだよ」
繋がれた手を離したくないと力込めるとレノはふっと笑って、俺も、と短く答えた。胸元に光る赤が少し温かく感じた。
ガーネットが繋いでくれたこの絆。願わくば、二人でいられる時が永遠でありますように。
〈 END 〉
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