Garnet
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Garnet -10-
「おい! ルード!」
今日一番のでかい声で相棒の名を呼ぶと、すでに任務内容を聞かされていたルードが皮手袋をきゅっと填めなおしていた所だった。
「準備はできている」
「あぁ、行くぞ、と」
急いでオフィスを出ようと足を踏み出すと、ルードに鼻を鳴らして軽く笑われた。
「……んだよ」
「いや、急にやる気になったと思ってな」
「ひっさびさの大暴れな予感だからな!」
「ジャケット、捨てたんじゃなかったのか」
「親切な誰かさんが拾ってくれたんだよ、あぁもう、早く行くぞ!」
こいつ絶対揶揄ってやがる。いつもより良く喋ってくる相棒の肩を軽く殴って気恥ずかしさを紛らわした。
「とりあえず、場所の特定だな、と」
「心当たりはあるのか」
「いや……まずは伍番街で情報探しするか」
そう言って、帰ってきたジャケットに腕を通す。いつもの俺のつけている香水とタバコの香りがまだ残っているが、その中にナナシの匂いが微かに混じっていて、胸がぐっと熱くなった。そういえば、伍番街までこれ持ち歩いていたのか。自分から突き放しておいて、本当に何がしたいんだアイツは。そういう俺も何がしたいんだか自分でもわからないから笑えてくるが。
「……もっかい、ちゃんと話さねえとな」
だから、俺が助けに行くまで無事でいてくれ。そう願いながらジャケットのボタンをパチリと締めた。
「……あ?」
ふと、着たジャケットに違和感を抱く。パタパタと軽く叩いて、ポケットにも手を突っ込んで確認してみれば、何か入っている。なんか俺入れていたか? と思ったが、取り上げたそれは全く見覚えのないもので。
「なんだぁ……受信機?」
それは小型の受信機のようなものだった。そんなもの持ち歩いた覚えがない。電源が切れていたそれのスイッチを入れると、ピ、ピ、と音を出して起動した。光を取り戻した小さな画面には発信機があると思われる場所が一つだけ、表示されている。
「これは……っておいおいおいおいルードっ! 主任に報告だ!」
全くアイツはちゃっかりしてやがる。こんなものを寄越して、俺に迎えに来てくれって言っているようなもんだ。
ならばお望みどおり派手に助けに行ってやる、そう気合を入れ直して相棒と共にオフィスを飛び出した。
◇
キラリ、と握りしめていた石の奥が小さく点滅する。いざと言う時の為に植え付けておいた発信機が起動したようだ。レノのジャケットに受信機を滑り込ませておいたのは一種の賭けではあったけど、ちゃんと返してくれたようで安心した。こんなものを持ったところで誰も助けに来ないかもしれないと思っていたけど、キュイン、と聞こえるか聞こえないかくらいの音を鳴らすそれを見つめて少しだけホッとする。あとは彼らが助けに来てくれるのを待つだけなのだが。それまでこの不安定な彼らの暴動をそのままにして置くことが果たして正解なのか私にはわからなかった。
「あなたたち、身代金なんて要求しても神羅は私になんてお金かけたりしないわよ」
意を決して男達の方に向かいそう声を上げると、目の前にいたリーダーがピクリと反応し、特に動揺することなく反論してきた。
「プレジデントの娘を奴らが放っておくはずが無い」
「表向きは、ね。こんなことに大金はたくより魔晄炉増設を優先させるんじゃないかしら」
「ふん、それじゃあお前はここで死ぬしかないってことだ」
「それは困るわね……できれば無事に帰して頂けると助かるんだけど?」
「調子に乗るな」
「あなたたちこそ調子に乗らないほうが身の為よ」
手足を拘束されている私ができることは怯むことなく睨むことしかできないけど、負けじと怪訝の眼差しを向け続けた。こんなところで死んでたまるかって。
「私はこれから神羅を変えていかなくてはならないの、あなたたちに邪魔される暇なんてない」
「う、うるさい黙れ! お前に何ができる⁉」
仲間の一人がやけにイラついた様子で声を上げ、強い力で掴みかかってきた。その様子に周りも怒りが伝線して空気がますますピリついてくる。怯えで揺らいでいる男の瞳を真っ直ぐ見据えると、その目はますます不安の色を帯びていた。
「わからない。でも、あなた達のような人たちをこれ以上増やしていかない為にも、やるしかないと思ってる」
真っ直ぐ彼等の目を見据えて話すと、私の想いが少しだけ伝わったのか男達の目が泳ぎ始め、先程よりざわめきが生じる。「今からでもやめた方がいいんじゃないか」なんて声を上げるメンバーも出てきたが、リーダーだけは微塵も動じていなかった。依然として蔑む目で私を見ていた彼は突然大きな声で高らかに笑いだし、隠し持っていたピストルを私に向けて構えだした。
「お嬢様はまだ、世間を知らなすぎるようだね」
相変わらずの落ち着いた低い声が聞こえた瞬間、バンッと頭が割れるような銃声が部屋中に響いた。
一瞬、何が起こっているのか理解できなかった。しかし音の直後に左足に走った激痛が全てを物語らせ、苦痛に顔をゆがめた。
「……ああぁぁぁっ!」
「そう言って何度、俺達は裏切られてきたと思う? 神羅はいつだって俺たちを騙してきただろう!」
今まで感じたこともない激しい痛みで冷汗が噴き出て、息が上手くできない。足からは鮮血がとめどなく流れて、体中の血の気が引いていくのを感じる。今更になって、唐突に死を意識した。
「うぐぅ……っ」
バカだ、私。想いを強く持てば何とかなるって心のどこかで思っていた。でも肝心な人に想いが伝わらない所か逆撫でしてしまって。自分を過信した結果がこれだ。なんて浅はかだったんだろう。そもそも人を信じられない自分が何を伝えたかったんだろう。撃たれた痛みと自身の無力さに対する悔しさで涙が込み上げてきた。
「お、おい、やり過ぎなんじゃ……」
血だらけで蹲っている私を眺めていた仲間の一人が恐る恐るリーダーに意見した。今まで落ち着いて激励してきた彼が躊躇いなく銃を扱う猟奇的な一面を目の当たりにして周りが動揺している。
「なんだ? こんなことで怖気付いちゃ何もできないぞ?」
「でも、死んでしまったら意味がないだろう!」
「足を撃っただけだ。死にはしないさ」
そうは言っても、このまま出血が止まらなければ命の危険があるのは明らかだ。しかしリーダーは何も表情を変えない。その恐ろしさから周りも何も言えなくなってしまった。今は完全にこいつの独壇場だ。突然全身を侵食してきた恐怖と足の痛みで、頭が上手く働かない。
もしかしたら本当に誰も助けに来てくれないかもしれないのでは。痛みのせいか急に悪い考えばかりがグルグルと頭の中を回り始める。負の感情を抑えるように赤い石を握りしめる力を込めて、ぎゅっと涙をこらえた。
「ん? お前、何を持っている?」
「あ、だめ……!」
リーダーがそれに気付いて石を奪い取ろうとするが、それを奪われまいと懐に隠すようにして身を丸めた。
「なんだ? 何がそんなに大事なんだ?」
「あんたには関係ないでしょ……っ!」
瞬間、パンっと今度は銃声ではなくもっと乾いた音が響いた。左頬がジンジンして、目がチカチカする。
「まだ痛めつけられないとわからないか……?」
リーダーの瞳が、露骨に怒りで歪み始める。やばい、と思った時には既に肩を強い力で押され後ろに勢いよく押し倒されていた。ぐ、と首を掴まれ力を込められる。急に襲う息苦しさで途切れ途切れの呻き声が口から洩れた。このままでは殺される、と嫌でも死を覚悟させられた瞬間。
「……な、なんだ⁉」
ドーン! という派手な爆発音が鳴り響き、辺りが一気にざわつく。
「くそ、奴らか⁉ おい、爆発した場所を探れ!」
「リーダー!」
私に跨ったままのリーダーが声を荒げる。その束の間、仲間が大声で名前を呼ぶと同時に白い靄が部屋中に広がり始め、瞬く間に周辺を白く覆った。
「爆発の煙か……っ⁉」
モクモクと広がるそれに困惑している間に、何も見えなくなってしまい、男達は突然視界を奪われたことで、戸惑いと焦りの声を上げる。
「くそ……っ」
リーダーの顔もよく見えない。でも明らかに動揺している声が聞こえる。今のうちにこの場を何とか逃げられたらと思うのに、貧血で目が眩んで上手く身体が動かない。靄で白く見えているだけなのか、もう意識が飛ぼうとしているか、わからなくなってきた時だった。
「……ぐぁっ!」
バキッと殴るような衝突音とリーダーの呻き声が耳を突き、身体の上に感じていた重量感が一気に軽くなった。
「お前、誰の上に乗っかってんだよ、と」
直後、聞こえてきた聞き覚えのある声に、失いかけていた意識が一気に現実に引き戻された。