Garnet
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Garnet ―9―
「レノ、ジャケットはどうした」
寝起きでぼさついた頭をガシガシと掻きながら予定の時間より少し遅れてオフィスに入ると、すでに出勤していたルードが俺の姿を見て声を掛けた。いつもよりシャツを露出させだらしない俺に違和感はたっぷりなようだ。
「破れちまったからその辺で捨てた」
「早く新しい物を支給してもらえ」
「わーってるよ、と」
どかりと椅子にもたれ目の前のモニターに目を向けると、昨日途中で投げ出したままの報告書が目に入ってしょっぱなから嫌な気持ちになる。遠慮なしに大きなため息をついてその続きを打とうとするが全然頭が働いてないから手が動かない。『ああああ』と打っては消して、また打っては消してを繰り返しても一向にやる気がでてくれないのはきっと昨日の出来事のせいだ。
余計なことしたと、少し後悔している。ジャケットなんてあからさまに俺だとわかるようなものを掛け逃げして、どこまで女々しいんだろうか。この一週間、なるべく会わないように気を付けてきた。といっても外での任務が多かったから嫌でも離れられたってのもある。会っても、まだなんでもない顔をできる気がしない。我ながら、俺らしくなくて未練がましいとすごく思う。
他の女抱いて忘れようかと街にでた時もあったが、アイツよりスタイルも色気も何倍も良い女に言い寄ってこられても、全然乗り気になれない自分にものすごく腹が立った。
そんなどうしようもない憤りで荒れ狂いそうになった時にカフェで寝ているアイツを見つけた。変装なんかしていてもすぐにわかってしまう自分にほとほと呆れた。無防備な寝顔をこんなことで晒すなよ、と思いつつ久しぶりに見たナナシがやっぱり愛おしいなんて思ってしまった。
どうせ実りの無いものだったのなら、何故早く俺の中から去ってくれないのか。コントロールできない初めての感情に結局戸惑うしかできない。
「あーぁ、今日も飲みに行くか、と」
「まだ今日は始まったばかりだ。夜の話は少し後にしろ」
「真面目かよ、お前は!」
早く目の前の仕事終わらして、今日は早上がりしてやるとようやくまだ途中の報告書に向き合う気が湧いてきた。
◇
結局今日は一日デスクワークで終わってものすごく肩が凝った。最後に暴れたのはいつだったか、ナナシがスリにあった時が一番最後か。いい加減身体を動かさないと鈍って鈍って仕方がない。
「そろそろでっかいお仕事でもこないかね、と」
「ちょうどいい仕事が来たぞ、レノ」
独り言のつもりだったのに後ろから返事が返ってきて驚いて後ろを振り向くとそこにはツォンさんが立っていた。
「なんですか? でっかい仕事って」
「ナナシ様が何者かに誘拐された」
「……はぁ⁉」
ナナシが、誘拐?
理解しがたい言葉に今日一番のでかい声を出してしまったが、ツォンさんはそれに驚きもせずに話を続ける。
「身代金要求の声明文も届いた……どうやらまだ小さい反社団体の仕業みたいだな」
「馬鹿野郎……なんで護衛つけずに」
「秘書が一人付いていたが、ナナシ様の交渉で彼女だけ解放され助かったようだ」
じゃあ一人で敵地に入ったってことか、なんて無謀なことを。自分が護衛できていたらこんなことにはならなかったのにと拳をきつく握りしめた。するとツォンがレノ、と呼んでばさりと何かを投げる。
「秘書が持っていた。ナナシ様に返しておいてくれと頼まれたそうだ」
「俺のジャケット……?」
「今から命ずる任務は反社団体の場所特定と人質の救出だ。いけるな?」
「……当たり前だぞ、と。タークスの力見せつけてやるよ」
真っ直ぐ、強い声で命じられた俺はツォンさんに向かって余裕の笑みを向けた。
◇
「え、アバランチじゃないの……?」
「お前何か言ったか⁉」
「あ、いいえ、なんにも」
呑気にしているようですが、今私は何処か分からない廃墟らしい場所で両手両足を括りつけられて身動きが取れない状態。静かに抵抗もせずに大人しくしているから男たちも油断して私から目を離してしまっている。なんだか、随分監視が甘いわねこの人たち。アバランチくらいのテロ集団ならもっと組織力がしっかりしている筈なのに、この男たちはそうでもない気がする。すごく怯えている様子だ。
こっそり彼らの会話に聞き耳を立てていると、どうもこれはアバランチの所業ではないようで。過激派反神羅団体を殲滅させるチャンスだと思っていただけに、男達には悪いけどちょっとだけ物足りないような、残念な気持ちだ。
「こ、こんなことして本当に大丈夫なのかよ」
一人の男が震えた声でそう呟いた。するとリーダーらしき男が彼の肩をポン、と叩き落ち着いた声で語りかける。
「大丈夫だ。金さえもらえれば後はすぐに逃げたらいい」
「リーダー……」
「あの神羅を一泡吹かせるんだろう? これはチャンスだ」
「あぁ……そうだよな!」
「場所だってすぐにはバレないさ。ここは奴らの死角だ」
リーダーの落ち着いた声が周りの男達の士気を上げていく。冷静でどこか安心感のあるその声が、何とかなりそうな気持ちにさせてくる。この人だけ他の人と何処か雰囲気が違う。こんな状況に慣れているような、そんな感じ。
とりあえず、今やる気の彼らに下手なことを言っても逆上しかねないだろうし今は大人しくしていよう。奴らに見つからないように自分の服の内ポケットを探る。ポケットに石、ちゃんと入っていた。これだけでも持ってきておいて良かった。今の私の元気の源であるそれを、括られたままの両手でぎゅっと握りしめる。
あの時秘書に託したものが上手く作用してくれますように、と願いながら。