Pearl
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+ Pearl -2-(1のレノside)+
そいつはいつも遅くまで残業していて、既にほとんどの社員が退勤して静まり返ったエントランスをトボトボと歩いていくところをよく見かけていた。
いつも疲弊している印象だった。美人が台無し。そりゃこんな時間まで毎日残らされていちゃ仕方ないか。よっぽど仕事ができないのか、最初はそれくらいの印象で気にも止めて無かったが、何時からだったか見かける度に気になるようになった。
ある日久しぶりに食堂に向かえば初めて昼間のアイツを見つけた。同僚と会話をしながら昼飯を食べている彼女は帰る時の疲れ果てた様子はまだなく、笑顔で話している。笑った顔かわいいじゃん、なんてポケッと考えていたら主任から呼び出しの電話が鳴ったせいで飯食べ損ねてしまった。その日は腹ぺこで任務に行かされた。
無性に気になった彼女のデータを調べるのはタークスには至極簡単なもので、あっという間に情報は手に入った。彼女は都市開発部門のナナシと言うらしい。名前まで可愛い、なんて浮かれたことを考えながら資料室の隅に隠れて昼寝をする準備をする。薄暗くてあまり人の出入りしないこの部屋は恰好のサボり場所だ。隅に座り込みウトウトと微睡み始めたあたりで、ガチャリと部屋のドアが開く音がした。入って来たのはたった今まで頭に思っていた彼女で、突然の事にドクンと胸が高鳴る。
「今日こそは早く帰りたいなぁ。課長に何も言われませんように!」
レノがいることに気付いておらず誰もいないと思っているのか、資料を漁りながらボソボソと独り言を言い始めたナナシ。
「でも無理そうだなあ。あの薄毛課長、もう私の退勤時間忘れてそうだし……」
薄毛、とサラリと吐かれた悪口を聞いて思わず吹き出しそうになるのを必死で堪えた。彼女がその薄毛課長とやらに会った時の視線の先を想像してしまった。
するとどこからか携帯の鳴る音がする。自分のではなくどうやらナナシの携帯のようだ。ナナシは携帯に表示された名前を見てゲッと嫌な顔をながら通話を始めた。
「はいナナシです。はい、え? 今日中にですか? あぁはい、わかり、ました。用意しておきます」
どんどん声のトーンが下がっていき、良い内容でないことが容易にわかる。
「今日は課長じゃなく剛毛部長だった……」
薄毛じゃなくて次は剛毛か。さっきからいちいち上司のキャラ濃いんだよ。まあうちも人のこと言えないけど。ハゲな相棒にロン毛主任だし。ていうか今日も残業決定お疲れさん。なんて考えていたらますます笑えてきて堪えるのが大変だったわ。気付かれなくて良かった。
「明日休みだから録り溜めたドラマ見てお酒飲みたかったのに! まあいつものことか。仕事しよう」
ナナシは少しだけ項垂れた後、すぐに姿勢を直しまた資料を探し始めた。そして大量の資料を手に取り、パタパタと資料室から去っていく。
明日休み。酒を飲みたい。色々と情報を残してくれたお陰でジワジワと興味が湧いてきた。一度ナナシと話をしてみたい。そう思って何かきっかけはないかと考えた。
どうせなら面白く偶然を装って誘うことにしよう。
◇
「あ」
自分の社員証を落としておくという小さな罠にまんまとかかり受付まで届けにきたナナシと目が合う。我ながら見事だったな、俺様。
拾ってくれた礼と言うことにしてほぼ無理矢理飲みに誘ったらナナシは嫌がりつつも意外にすんなりついてきた。最初は訝しげにこちらの様子を伺っていた彼女だが、酒を飲み始め話していく内に少しずつ心を開いていった。仕事の話、プライベートの過ごし方、趣味とか、酒の力でどんどんナナシの口が軽くなっていく。ちなみに彼氏はいるのかと聞いたら、いたら毎日残業してないって言っていた。
「毎日残業だと大変だろ。上司に文句とか言わねえの?」
「そりゃ言いたい時あるけど、この会社に入社を決めたのは自分ですから仕方ないです。それに都市開発の仕事好きなんですよね。与えられた仕事は何にしても責任持ってやりきりたいし」
多少無理してでも自分が携わったことが街の為になると思うと嬉しいし頑張れる。と照れ笑いをするナナシ。その表情がどこか凛としていて、さらにアルコールで心なしか色気まで漂う彼女に、ドクンと心を揺さぶられた。
「あー……ますますタイプ」
「え? なんか言いました?」
「いや、とんだ仕事バカだなって褒めたんだぞ、と」
「貶していますよね? それ」
やっぱり一回飲みにいく程度で満足出来ないのはわかっていた。話せば話す程彼女に興味が湧いてくる。何だかまんまと自分の方がハマってしまっている様な気がしてちょっと気に入らないから最後に意地悪してやる。
「じゃ、次いこうか、と。ナナシちゃん♪」
まだ教えてもらってないはずの名前を呼んだ時の彼女の顔は本気で笑えた。
変顔も可愛いなんて思えてくる自分はもう十分やられてしまっているのかもしれない。