Pearl番外編
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( ジェラシー )
「ナナシちゃん!急だけど合コン、来てくれない?」
昼下がりのオフィス内、沢山の社員達がまだ自分の仕事に没頭する中、
資料室に向かおうと席を立った私に、同じ部署の女性がそう言った。
「合コン、ですか?」
「そう!急にメンバーの一人が来れなくなっちゃって、だからお願い!」
「お、お願いと言われましても…」
「大丈夫!一次会に参加してくれるだけでいいから、ね?」
いつも業務的な話しかしない間柄なのに、急に何なんだろう。
本当に他に誘える人がいないんだな、と思うと余計に行きたくない。
やんわり断ると、彼女はキョトンとしてこう聞いてきた。
「あ、もしかして彼氏、いる?」
「彼氏、ですか?いや…」
彼氏、います。いますとも…
でもその関係は秘密にしているから、いるって言っていいものか、仮にいると言って質問攻めに合うのも面倒だから、悩むのだけれど。
「…いないですけど、ごめんなさい。そういうのは苦手で。」
「そっかーそうだよね!ごめん!でも、もし来たくなったら直ぐ言ってね!」
今夜だから!と彼女はそう言って私に連絡先を書いたメモを渡し、その場を去っていったので、ホッと胸をなでおろした。
でも、合コンかー…
資料室に向かって歩きながら、ふと考えた。
生まれてこの方、そういう場に参加したことがないものだからちょっとだけ興味がわいたのはレノには黙っておこう。
意外にも嫉妬深い彼だから、こんな話を聞いたら機嫌を損ねそうだ。
私もレノが合コンやらに参加するのは、だとえ仕事だとしてもいい気はしない。
自分がされて嫌なことは相手にもしないをモットーに生きてきたのだから、改めてちゃんと断れて良かったと思う。
レノも、私のこと大事にしてくれていると思うし…
不安にさせるようなことはしないようにしよう、そう誓って資料室のドアを開けた。
「………え?」
「あ……ナナシ!?」
えっと、これは、どういう状況?
何故か目の前には、本棚と本棚の狭い隙間に横たわる自分の恋人と、その上に跨る知らない女性。
レノの胸元はいつもはだけているから特に気にはしないが、
心なしか女性の胸元まで少しはだけているように見えるのは気のせいか?
「あーー、えっと、お邪魔、しました?」
「はぁ?!ちょ、ナナシ!!」
そっと、扉を閉めて、その場を小走りで立ち去った。
ドアの向こうから言い争う声が聞こえたけど、知らない。
何だあれは。任務中?そんな馬鹿な。ここは社内だし、偵察するならあんな場所でしないだろう。
なら、何なのだ。あの女性と今から何するつもりだったのだろう。
グルグルと整理のつかない脳内は、悲しみを通り越して怒りの気持ちが支配してきた。
さっきまでの健気な私の思いを返してほしい。
イラつきがなかなか拭えないまま、私はおもむろにポケットから携帯と小さなメモを取り出して電話を掛けた。
「合コン、行かせてください!」
少しくらい、困らせたっていいでしょ!
***
「かんぱーい!!」
賑わう店内で、カチンとグラスを鳴らす音と大きな掛け声が響く。
あぁ、勢いで来てしまった。
レノから大量の着信があったけど総無視して、仕事も明日にまとめてやるからと上司にお願いして早上がりさせてもらい今ここにいる。
ワイワイと自己紹介を挟みながら各々が楽し気に話し出す様子に、これが合コンかー、と客観的な感想を抱く。
レノ、怒ったかな。いや、怒ってるのは私なんだから!なんて思うも、やっぱりやり過ぎたかもなんて不安が過ぎってしまう。
ちびちびと目の前の酒を飲みながら、楽しみ切れないこの時間が早く過ぎていくよう願う。
「どうしたの?元気ないみたいだけど」
突然、目の前に座っていた男性が優しく声を掛けてくれた。
「あ、すみません。まだ慣れなくて。」
「僕も初めてだから全然。一緒だね。」
照れ笑いをする彼は、見るからに優しそうで控えめな印象で、派手な見た目のレノとは全く違う。
こんな人と付き合った方が、いちいち心を乱されたりしないのかな。
なんて皮肉にもそんなことを考えたら、切なくなった。
そんなこと言って、レノを手放せるわけないのにね。
結局堂々巡りな考えばかり浮かんできて、何とも嫌な気持ちだ。
「·····ごめんなさい、体調が優れないので今日はもう帰ります。」
そう言って、荷物をまとめて出口に向かった。
店から出ると程よい風が気持ちよくて、アルコールで火照った体を冷ましていく。
もう今日は帰って寝よう。とため息をついたその時。
「ナナシさん!」
突然、後ろから名前を呼ばれ振り返るとさっき目の前に座って声を掛けてくれた彼が立っていて、
「あの、今日は残念ですが、また二人で会えませんか?」
「え·····と、ごめんなさい、私·····」
「せめて、連絡先でも」
思ってたより積極的な人で、畳みかけるように近づいてくるものだから思わず後ずさってしまった。
ちょ、ちょっと怖いんですけど…!
どう言えばこの場をすり抜けられるだろうか。
困って何も言えず止まってしまったその瞬間、急に後ろから腕を引かれ、誰かの腕の中に閉じ込められた。
「わりぃけど、こいつは俺のなんだわ。」
その声と、フワリと鼻を擽る香水の香りは良く知っているもので。
「レノ·····?!」
「ばーか、探したぞ、と。」
「何でここが·····」
「俺の情報網、なめんなよ?」
そう言って、レノは目の前の男性をひと睨みしてから私の腕を引いて歩き出した。
***
沈黙を貫いたままひたすら歩き続ける。
怒ってる、よね?謝るべきか、いや、私が謝るの?
よく分からないまま黙ってついていくと、細い路地に連れていかれて、突然強引に体を壁に押し付けられた。
「·····っいったぁ·····」
「なーんで合コンなんかに参加してんのかな?ナナシちゃんは」
「·····昨日のレノにムカついて、勢いで·····」
そう言うと、レノははぁ·····っと大きくため息をついた。
「·····あれは、前に一回遊んだ女で昨日誘われたけど何もしてねーし、ちゃんと断ったぞ、と」
不安にさせて悪かった。と捻くれ者のレノにしては珍しく素直に謝ってくるもんだから、それ以上何も言えなくなった。
ムカムカしてた心はゆっくりと落ち着きを払っていく。
あぁ、ホント、私って単純。
「·····私こそ、無視してごめんなさい」
「今度こそフラれたかと思ったぞ、と」
「だって、ホントにショックだったんだから!」
「悪い悪い。このとおり、な?」
「うぐぅ·····もういいよ。何もなかったんだし·····」
「そ!俺は悪くない!なーのにナナシちゃんはまさか合コンで浮気しようとするなんて、俺ショックで死ぬかも」
「は?·····えぇ?!」
しおらしかった様子は一変していつもの調子に戻ったレノに、何故私の方が悪いみたいな流れに持ってかれて、展開に追いつけず目をかっぴらいて驚く。
するとレノはニヤリと笑って顔を迫らせ、鼻が触れるか触れないかの距離でこう言った。
「悪い子にはおしおきだぞ、と」
「おし··········んっ!」
その瞬間、唇を奪われた。
最初は食むように合わされた後、唇の隙間からゆっくりと滑り込められた舌を絡めさせられ、上手く息ができない。
黒いスーツをギュッと掴み、目を瞑ってただひたすら彼に身を任せた。
酔いしれるようなとろけるキスに、身も心も奪われていくようだ。
ひとしきりお互いの感触を味わって、はぁ·····と吐息を洩らしながらゆっくり離れうっすらと開けた目には欲情した男の色気を纏った彼の顔が写り、これでもかというくらいドキドキと胸が跳ね上がる。
「·····ふ、んん··········」
「·····うわ、えっろい顔〜」
「んなっ!変なこと言わないでよ!」
「ここで抱いちゃってもいいけどな〜、続きはゆっくり家で、な?」
「うぐぅ…·」
そんなの、これだけ余韻残されたら断れるはずがないじゃない。
意気揚々と私の手を取って歩き出す彼にはもう敵わない。
まぁ、はなから断る気なんて、ないんですけど。
「たーっぷり、可愛がってやるぞ、と♪」
明日、仕事なのでお手柔らかにお願いします·····。
次の日出社すると私にイケメン彼氏がいたという噂がオフィス中に広まっていて、誰だと詰め寄る女性社員達を誤魔化すのに精一杯だったのは言うまでもない。
(結局、振り回されるのはいつも私!)
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